32話
公爵邸に戻る途中の馬車の中で、不機嫌な殿下に、私は我慢できずに尋ねた。
「何をそんなに怒っていらっしゃるのですか?」
「継母から縁談の話はいつ頃あったのだ?」
きっと、この前エマ先生のお屋敷に行ったと嘘をついたことを指摘しているのだわ。
どうやら、殿下は全てお見通しだったらしい。
「あの時、エマ先生のところに行ったと嘘をついたことは謝ります。でもそこまで怒ることですか?」
私は不思議な顔をした。
「それに、そのお話はその場できちんと継母に断りましたので、あえて報告は必要ないと判断したまでです」
殿下は男性がお好きなはずなのに、これではまるでお付き合いをしている男女の会話ではないかと勘違いしそうになった。
私はもういい加減、この会話から離れたかったので別の話をした。
「それより、新しい小説はいつ頃、書いたら良いのでしょうか」
そうしたら、そもそも、それがまた癇に障ったようで、殿下は憮然としてしまった。仕方がないので、私もそのまま黙っていた。
お屋敷に着いた時には、さすがにロザリーさんの手前もあってか、殿下は普通に会話をしてくれた。
きっと、ご自分でも大人気ないと思われたのでしょう。
そしてその後は今夜の陛下との会話の様子を話してくれた。
陛下は、武器商人に支払う資金が不足していることを嘆いていたという。このままでは、国民への増税を言い出しかねない。
それはそれでこちらの思う壺ではあるけれど、ただ、前回書いた小説が巷で話題に上っているのを気にはしているようで、今、必死に作者を探しているという。
なんでも、殿下の・編・集・長さんのところまで探られたという。
私に心配をかけたくなかったので黙っていたが、そのせいで、次回作は間を空けていたという。
それに、今日のあの様子では王妃様ともあまり上手くいっていないようだとも仰った。
あの陛下のことだ、たとえ妻の祖国であっても、領土拡大の可能性があるなら躊躇なく攻め入るに違いない。
多分、王妃様もそれを見抜いているのではないかと仰っていた。
そういえば、あのお二人の間にはいまだ子供がいない。だからこそこんな状況の今、信用できる絆が感じられないのかもしれない。
上手くいけば、王妃様も味方につけられると殿下は思っているようだった。
「とりあえずは、陛下がどこまで今の状況を我慢できるかだな」
殿下は言った。
気の短さでは有名なお方なので、近々動きがあると踏んでいる。
今はただその日に備えて、いつでも動き出せるよう準備をしているところだという。
最も粗方準備は整っているから心配は要らないと殿下は仰っている。




