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30話

 殿下の外出を見計らって公爵邸を出ていた私は、辻馬車でお屋敷に着くと、まだ殿下はお戻りになっていなかったので一安心していたところ、急に後ろからロザリーさんに声をかけられた。

「何も言わずお出かけになられたので心配しました。どちらに行かれていたのですか?」

 と聞かれて思わず、

「急に思い立ってエマ先生のところへ行っていたの」

 と返すと

「せめて一言くらいお声をかけてお出かけください、心配しました」

 と言われ

「ごめんなさい。今度から気をつけます」

 と答えた。するとロザリーさんは安心したように微笑み

「ではお茶の用意をしてきます」

 と言って出ていった。

 私は本当に悪いことをしてしまったと反省しながらも、殿下にばれなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 そして夕食の時間になり、ちょうど殿下が戻られたので、いつものようにたわいのない会話をしながら食事をしていると、急に殿下が

「それでエマ殿とはどのような話をしたのだ」

 と聞かれ、どきりとしながら

「次回作とラミナさん達への対応の仕方です。ラミナさんたちには私はエマ先生のお屋敷で暮らしていることになっていますので」

 と答えた。すると殿下は

「ふーん、うちの馬車を使わず、わざわざ辻馬車で行ったそうだが」

 といかにも疑いの目を向けられた。

 私はなんとか適当に誤魔化し、私室へと戻った。そして心の中で『危ない、危ない』

 と呟いた。

 次の日の朝、私は殿下に次回作はどのような内容がよいのかと相談をしたが、しばらくは様子見をしたいので、今は自分の好きな作品でも書くといいと言われた。

 殿下はこれから、・殿・下・の編集長さんとの打ち合わせがあると言うので、私はにっこり微笑みながら

「ではごゆっくりなさって来てください」

 と送り出した。殿下は不思議そうなお顔をなさっていたが

「では、行って来る」

 と言われ、出かけられた。

 その後、私はラミナさんの出版社の仕事を始めたのだが、なんだか今日は筆が進まず、ぼんやりと宙を見つめながら考え事をしていた。

 これから先、私はどうなるのだろうかと。

 殿下に頼まれている小説の出版が終わったなら、ここを出ていかなくてはいけない。そのためにもラミナさんのいる出版社からの仕事をこなして資金を貯めておかなくてはいけないのに、今日は何のアイデアも浮かばない。

 そうだ、こんな日は、散歩がてら出かけることにしよう。

 今日はきちんとロザリーさんに声をかけたが、従者をつけられそうになったので

「昼間だし、近くを気晴らしに歩くだけだから大丈夫です」

 と言って慌てて表に飛び出した。

 今日はよく晴れていて風も穏やかで気持ちがいい日だなと思いながら王都の街を歩いていると、おしゃれなカフェに入っていくエマ先生を見かけた。声をかけようとしたら、すぐ後ろから見覚えのあるご令嬢が一緒に入っていった。

『あの方は確か婚姻無効になった元の旦那様の婚約者の女性だわ』

 と思い出し、なんとなく声をかけにくくなり通り過ぎた。

 なぜあの二人が一緒にいるのかしら? と考えながら、どこへ向かうでもなくひたすら歩いた。そしてどうしても気になった私は公爵邸に戻り、リサに会って確かめたいので、時間が取れたら会って欲しいと手紙を送った。その手紙には、日にちを指定して、リサの休憩時間の午後三時に侯爵邸の近くのカフェで待っているからと書いた。

 そうしてその日、私はロザリーさんには近くを散策するだけだからと言い、すぐに戻るからと従者をつけられる前に飛び出した。

 そしてリサと会い、私はリサに包み隠さず先日見たままを話したのだが、リサは二人に接点があることは知らなかった。しかし、ここ最近侯爵邸で起こったことを教えてくれた。

 それは、婚約者である子爵令嬢が侯爵邸に来ていた時に、偶然にもマリアさんが訪ねてきて、侯爵様にものすごい勢いで

「いつまでこのままにするつもり! そこにいる女は誰なのよ!」

 と子爵令嬢の前で怒鳴り散らし、何も知らなかった彼女は驚いてしまい実家に戻り、両親に話し、今回の婚約は破談になってしまったという。

 それを聞いた私は何か引っかかるものを感じ、考えを巡らせていた。そして先日街で見たエマ先生とその子爵令嬢の姿が思い出され、それはリサが帰った後もずっと頭から離れなかった。


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