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29話

7月5日より毎日4話ずつ投稿させていただいています。

 最近、殿下は何故か私に対して甘すぎる。先日もまた社交界へと誘ってくれた上に、ドレスまでプレゼントしてくださった。また、そのドレスの色が偶然とはいえ殿下のその日の装いと全く同じ色だったので、一瞬驚いて言葉に詰まってしまった。しかしすぐに、いつもと変わらずエスコートしてくださったので私の考え過ぎだろう。

 それに今度の小説も、本来ならまたすぐにでも出版したいはずなのに、今回は殿下が書き溜めた物があるからそれを出すと言い、私を少しでも休ませようとしてくださる。こんなに甘えてしまって良いのかと考えてしまう。

 住むところまで与えてくださり、おまけにロザリーさんまでつけてくださっているのに申し訳ない。

 これ以上は迷惑をかけたくはなかったので、継母が舞踏会の時に近づいてきて

「新しい婚姻の話があるから二、三日中に屋敷に来なさい」

 と言って去っていったことは殿下には伝えなかった。


 そして二日後、随分と久しぶりに私の生まれ育った屋敷へと向かった。

 屋敷に着くと、優しかった使用人たちが皆笑顔で迎えてくれて、元気な私を見ると心から喜んでくれているのが分かり、私は温かな気持ちになった。

 そして驚いたことに、異母弟が

「姉上、お久しぶりです。お元気そうで良かったです」

 と挨拶してきたのだ。それもすっかり逞しくなって。顔も父に似てきた気がする。私は慌てて

「あなたもすっかり逞しくなって、亡くなったお父様に似てきて驚いたわ」

 と返すと

「母上がまた姉上に無理を押し付けようとしているようなので、お嫌ならきちんと断った方がよいですよ」

 と言ってくれた。私は思わず感動していた。あの継母の言いなりだった子が、こんなにもしっかりとして私のことを気遣ってくれていることに。

 私の六歳下なのでまだ十六歳のはずだ、しっかりとお父様の血を受け継いでいるようで安心した。

 すると後ろから継母が入ってきて異母弟に向かって

「ジョン、あなたは向こうに行ってなさい」

 と言われたが

「私も家族です、聞く権利があります」

 と譲らなかった。すると継母は仕方がないといった様子で話し出した。


 内容は私に縁談が来ていたが、ずっとどこにいるか分からず、ちょうどエマ先生の元に聞きに行こうと思っていたところ、二日前の舞踏会で見つけることができたと言う。

 そしてお相手の方はラナウド伯爵という方で年は二十四歳で、私のことを社交界で見かけ、調べたら婚姻無効になったと聞いたので実家であるこちらに帰っていると思い、話を持ちかけてきたという。 

 すると異母弟が

「姉上、お嫌ならお断りすべきですが、僕もこちらでお会いしたのですが悪い印象はなかったですね、寧ろ優しそうなお方でした」

 と言う。そして継母は

「今回もまた持参金は要らないそうよ。あの方と縁続きになれれば我が家にも恩恵があるのよ」

 と言うと、ジョンが

「母上、それは姉上が直接会って決めることで、母上が押し付けることではありません」

 と言ってくれた。なんだかとてもそれが嬉しく思えた。

 そして次に、衝撃的なことを聞かされた。継母は

「最近あなた、王弟殿下と社交界でご一緒しているようだけど、あの方は男色家と噂なのは知っているわよね」

 と言った。するとジョンが

「母上、それは事実かどうか噂の域を出ませんから、もし違うなら不敬罪になりますよ」

 と言ってくれたが、それを聞いた私は妙に納得してしまった。

『なるほど、だとしたらお相手は多分編集長だわ』

 と直感的に思ってしまった。

 いずれにしても今の私は結婚どころではない。殿下とエマ先生との約束のためにやらなくてはいけないことがあるのだ。私は継母に

「せっかくですが、このお話は無かったことにして下さい。今更結婚などする気はありません」

 とはっきり言って席を立った。

 後ろで大きな声で叫びながら呼び止める声がする

「ちょっと、どこで暮らしているかだけでも教えなさい!」

 そんな継母の声を無視して、

 私はジョンと使用人たちだけに挨拶をして屋敷を後にした。



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