28話
ルイス王弟殿下視点
私が出版を依頼している編集長から手紙が届いた。王宮からの使者が来て、私が書いた作品の作者を探しているという。
適当なことを言って誤魔化しておいたが、念のため気をつけるようにとの内容だった。
内心、ついに来たかと思ったが、さてどのくらいで私だと気づくのか? と考えた。
『さあ、お手並み拝見』
といったところだ。
もし私にたどり着いたとしても、彼女のところまではそう簡単にはたどり着かないだろう。
彼女には余計な心配をさせたくないので、しばらくは黙っておこう。
今度また舞踏会があるので、彼女の気晴らしにでもなるよう誘ってみるか。
そう思いながら、本当は自分の方が楽しみにしていることは隠しておくことにしよう。
次の日の夕食時、彼女に尋ねた。
「よかったら来月、知り合いの屋敷で舞踏会が開かれるのだが、また一緒に参加しないか?」
「私でよろしいんですか? 前回も思ったのですが、かなり注目を浴びてしまい、皆さん何か勘違いをされてるようでしたが」
「勘違いか。まあ私はそれでもよいのだが、君は迷惑かな?」
「ん? どういう意味かよく分かりませんが、殿下がよろしければ喜んで参加させていただきますが」
と言われてしまった。全く恋愛小説を書いているわりには鈍いなと思ったが、口には出さずにおいた。この関係が壊れてしまうのも怖かったのが本音なんだが。
そして舞踏会当日、今日の日のためにお礼も込めてドレスをプレゼントしていた。
いつものようにロザリーに支度を整えてもらい、現れた彼女は、いつにも増して美しかった。
私を見た彼女は驚いた顔をして何か言いかけたが、急に黙ってしまった。
何を言いたいかは分かる。なぜなら彼女に贈ったブルーのドレスの色と同じ、今日の私の装いもまた鮮やかなブルーなのだから。
だが、敢えて私は何も言わずに、エスコートをする為、手を差し出すと、彼女は黙って手をのせた。
きっと彼女はお揃いの色だとしか気づいていないだろうな。
本当はこのブルーが私の瞳を意識して、選んだことまでは鈍感な彼女は思いもしないだろう。
そんな彼女と、相変わらずだなと思いながら馬車に乗り、いつものように他愛ない会話を交わしていると、突然私の顔をじっと見つめてきた。
「殿下は、なぜ婚姻せずにお一人なんですか? 殿下だったら引く手数多でしょうに不思議です」
「そんなこと、考えたことなどなかったな。確かに話は色々あったが、その都度かわすのが当たり前になっていたな」
「そういうものなのですね。私の場合は考えることさえ許されなかったので羨ましいです」
と悲しげに言われた。酷い話だとは思ったが、確かに貴族の婚姻とはそんなものかもしれない。それに彼女の場合は継母だしな。
可哀想だがよくある話でもある。しかし相手が良い相手で婚姻後に愛し合える夫婦だっていくらでもいる。彼女の場合は相手があの侯爵では仕方あるまい。今となっては私にとって、嬉しいことではあるのだが。
会場に着くと、今日はルイノール子爵とその母上であるエマ殿も来ていた。彼女は久しぶりの再会だったのでとても喜んでいた。
やはり誘って正解だったと思ったところで、あのウィンチェスター侯爵も目に入ってしまった。奴も来ているのかと思いつつ、今の彼女の外見では気づきもしないだろう。
一緒にいるのはこの前連れていた婚約者か? 愛人もいるのに忙しい男だと蔑んだ目で見た。
その後、私が主催者と挨拶をしている隙に、あれは確か彼女の継母か? 何か話しかけてから慌てて彼女から去っていった。私はすぐに駆け寄り何があったのか聞いたが、嫌味を言われただけなので大丈夫だと言う。あまり話したがらなかったのでそれ以上の詮索はしなかった。
後にそのことが私の心を悩ませることになることなど、この時の私は考えもしなかった。
そして、私は声をかけてくる令嬢たちをかわしながら彼女をダンスへと誘う。
社交界なんて苦手だったはずなのに、最近は楽しんでいる自分に少し驚いている。
周りを見るとかなり注目を浴びてしまっていた。そしてひそひそ話が、耳に入る。
「あのお方はどちらのご令嬢かしら?」
あまり詮索されてもまずいので一曲だけで切り上げ、エマ殿のところへと戻ると、何故かにこやかに迎えてくれた。そしてそれが妙に照れくさく感じた。
こんな平和な日々がずっと続けばいいのにと思いながら、これから来るであろう波乱に備えなくてはと気持ちを切り替える。
とにかく彼女のことは守り通さなければと。




