26話
ルイス王弟殿下視点
全く、彼女は集中すると周りが全く見えなくなる。食事だって、運ばせているから食べているようなもので、それがなければ気づきもせず、そのまま書き続けているだろう。
彼女が仕事に取り組んでからというもの、一人で取る食事がこれほど味気ないものとは思いもしなかった。
元々彼女が来る前は一人で取っていたはずなのに、慣れとは不思議なものだな。
確かに、もう一方の出版社の仕事も続けた方が後々怪しまれないと提案したのは私だが、今では少し後悔している。
もっとも義理堅い彼女のことだ、私が提案などしなくても出版社から急かされれば仕事をするのだろうがな。
しかし、これからも両方の仕事を続けていくならば、こんな生活が繰り返されてしまう。これでは間違いなく彼女の身体がもたない。
どうしたらよいものか。できることなら彼女自身が本来書きたいものを書かせてあげたいと思うのも本音ではあるが、協力をして欲しいのも事実だ。ただ、今のところは安心だが、これから第二、第三と作品を出していけば間違いなく危険に晒してしまう。覚悟をしていると言ってはくれたが、彼女はまだ年若い女性なのだ。そんな彼女に甘えてしまうのは男としてどうなんだ? もっと他に手立てはないものか、もう一度考え直すべきなのかもしれないな。
そういえば何故だろうか、この私が一人の女性のことを気づけばいつも考えてしまっている。女性とは厄介で面倒くさい存在だと思っていたはずなのに。
これではまるで私が彼女に恋でもしているみたいではないか。他人の恋愛や小説の上での恋愛はなんとも思わず常に客観的に見られていたのにどうも自分のこととなるとそうはいかず、時として冷静さを失ってつい言葉に出てしまう時さえある。
私も、もういい大人だと思っていたが恋とはあまり年とは関係ないように感じるな。とにかく今は彼女を大切にしたい。
とりあえず次回作は少し間を空けても大丈夫だ。私の書き溜めた小説を出版することにしよう。正直この内容はまだ早すぎるのだが、やむを得ない。彼女にはあまり負担をかけたくはない。
そういえば、彼女の作品のペンネームを念の為、男性の名にした時に、私が怪しまれないか心配してくれていたな。自分のことより人の心配をするあたりが彼女らしいと思った。そしてそういうところに彼女の優しさが感じられた。そんな彼女のためにも早く現在の状況を打破しなくてはならない。
あとは、このまま少しずつ民衆に事実を遠回しに伝え続けたら、今度は武器を買い集めるための資金をどう断つかだ。少しずつ税を上げ、裕福な貴族や商人達からかき集めているようだが、それほど上手くはいっていないという。次はどんな手を打ってくるのか? こちらも慎重に探りを入れないといけないな。