24話
いよいよ私の書いた新しい作品が出版された。ペンネームは殿下が適当な男性の名を付けてくれた。
今回の作品は迷惑をかけないため、ラミナさん達は知らない。エマ先生と私、殿下と殿下の知り合いの出版社の編集長さんだけの秘密だ。
内容は愛しあう二人は、国王が隣国に仕掛けた戦争のせいで引き裂かれてしまうという、一応は恋愛小説だ。
とりあえずしばらくは周囲の反応を見てみることとなった。
発売から半月ほど経った頃、私はリサに、エマ先生のお屋敷に来てもらうよう手紙を書いていた。
約束通り、お屋敷に来てくれたリサは出迎えた私に
「本当にあの奥様なんですか?」
と驚いている。最近はすっかりこちらの格好に慣れてしまっていたので、あの時の姿を思い出し、思わず笑ってしまった。私は
「元気そうで安心したわ」
と言うと、リサは
「奥様の方こそお元気そうで良かったです」
と喜んでくれたが
「もう私は奥様ではありませんよ」
と返すと
「すいません、そうでした。ついくせで出てしまいました」
と謝っている。私は笑いながら
「それは仕方ないわよね。でもこれからは名前で呼んでくれると嬉しいわ」
とお願いをした。
そして、少しずつ小説好きな友達の話に持っていきながら様子を伺っていると、やはり私の書いた小説の話をしてくれた。そして
「今度の本は私の好きなハッピーエンドではなかったけれど、心が打たれました」
と言い
「本当に戦争って怖いですね。こんな平和な国にいる私は幸せだって改めて思いました」
と言って、小説好きの友達とも同じように語り合ったと聞き、私はいたずらが成功した子供のように笑ったら
「奥様も是非読んでみてください、笑ってなんかいられませんから」
と怒られてしまった。
しばらく楽しい会話をしているとリサが
「そういえば聞いてください」
と言って、マリアさんがお屋敷を出ていったことを教えてくれた。やはり先日の令嬢に乗り換えたのだと思ったが
「あのマリアさんがそんなに大人しく出て行くとは思わなかったわ」
と言うと
「旦那様のご両親が領地から帰っていらっしゃるので取り敢えず外に部屋を借りるのでそちらに移って欲しい」
と嘘をつかれたと言い、使用人全員に口裏を合わせるように言われたそうだ。
私はただただ呆れた。なんだかあのマリアさんでさえ気の毒に思えた。
ふと、最後に見たあの勝ち誇った笑みが思い出された。まさかあの時はこんな展開になるとは思ってもいなかったはずなのに、なんと人の心は移ろいやすいのだろうと悲しく感じた。
でもずっと騙したままでいられるはずがないのに、相変わらずその場しのぎで後のことは考えない方なのだと改めて思った。
もっとも今の私には関係のない話しだ。考えるのはやめておこう。
その後リサが帰ってから、私はエマ先生とこれからについての話をした。
私は今回の作品を仕上げた後、いつものようにラミナさんの出版社に出す次回作を書いている。
今はできるだけ平静を装って過ごさなければならない。
そしていつか殿下が行動を起こす時が来た時に備えなくては。
その日がこないよう私の書いた作品で阻止することができれば良いのだが、こればかりはわからない。エマ先生には
「くれぐれも慎重に、これからは一人では出歩かないように」
と言われた。その言葉に
『国王陛下ってそんなに恐ろしい方なのかしら?』と薄ら寒く感じた。