17話
7月5日より毎日4話ずつ投稿させていただいています。
次の日の午後、私はいつものアンリの姿をして、馬車でエマ先生のお屋敷へと向かった。
あれほどの大物をお待たせするわけにはいかないので、早めに着いて待つことにした。
そして、先に着いた私はエマ先生と簡単な打ち合わせをした。
その後、ほどなくして、王弟殿下が現れた。従者は表で待たせたままお一人で部屋の中へと入られ、私の顔を見た瞬間、少し驚かれた様子だったが、すぐに表情を改め、真剣な顔に戻られた。
そして、高級そうなお菓子をたくさん持ってきてくださり、メイドに渡した。
お茶の支度を終えたメイドが部屋を出た後、先生のご子息が殿下にご挨拶されて、その隣にいた奥様を紹介してから、二人とも部屋を出た。
「昨夜ご一緒にいらした美しい女性は、ご子息の奥様ではなかったのですな」
「昨夜のご令嬢は知り合いのお嬢様で、エスコートされる方がいなかったものですからご一緒したまでです」
「あれほど美しい女性にエスコートする男性がいないとは、もったいない話ですな」
それを聞いた先生はにっこりと笑った。
「本人が聞いたらどんなに喜びますか。今度機会があったらお伝えさせていただきます」
何食わぬ顔で言った。隣にいた私は冷や汗をかきながらそのやり取りを聞いていた。
その後、殿下の話が始まった。
内容は先日出した私の本についての感想だった。口には出さなかったが『やはり』
と思った。
「単刀直入に聞かせてもらうが、あの作品は君が書いたのかな?」
「仰る通りです」
殿下はそのことについて話を聞いてほしいと仰って、話し出された。
「あの作品に書かれていた君の考えはとても素晴らしいと思うが、それはあくまで真実を知らないことを前提にした場合だ。今の陛下は領土拡大に向けて着々と戦争の準備に動いている。このまま放っておいたら間違いなく戦争が始まってしまうだろう。それを止めるためには今の絶対王政を変えるしかない。そのためには民意の力が必要なんだ。だから是非、君の力を貸してほしい。そのために今日はお願いしに来たのだ」
そう言われた私とエマ先生は顔を見合わせて驚くことしかできなかった。
「そんな戦争だなんて」
「事実だ。だが、まだまだ時間はかかる。そのための資金集めはそう簡単なことではないからな」
あまりにも衝撃的な話に、私たちは黙って耳を傾け聞いていた。
そしてまた、衝撃的な事実を告げられた。
「実は今までのナタリー・スカパラーが書いた作品は全て、私が書いたものだ」
そう仰り、陛下側の人間を欺くため、あえて女性と思わせるようにしたとも付け加えた。それを聞いた私は驚きを隠さず話した。
「そんな国家を揺るがすようなことを突然お聞きしましても、すぐにお返事はでき兼ねます。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんそれで構わない」
と言い、くれぐれも今日話したことは内密にと仰って、とりあえずその話は一旦、保留とした。
しばらく間が空き、突然殿下に問われた。
「そういえば君は何故ウィンチェスター侯爵と婚姻したのだ?」
私が戸惑っていると、エマ先生が代わりに答えてくれた。
「彼女の継母にお金目当てで勝手に押し付けられた婚姻だったのです」
すると殿下は納得したお顔をなさった。
「なるほど、やっと合点がいった」
そして、旦那様と初めて会話をした時に違和感を感じたそうだ。
「君のような女性がどうしてあのような男と婚姻したのか不思議に思っていた。そうか、そんなことが」
その後、殿下は最後にこれだけは伝えておきたいと仰って、ご自分の想いを話された。
それは今の陛下が気持ちを変えなかった時には、ご自分が王になり、その時は今の絶対王政から、立憲君主制にしたいと仰り、王は国の象徴であり、政治は議会が行うべきだと考えていると、ご自分の信念を語られた。そして最後に真剣なお顔をなさった。
「良い返事を期待している」
その言葉を残し、去っていかれた。
帰り際、従者の方から連絡先を渡された。




