15話
ルイス王弟殿下視点
その後、私は探らせていた手の者から新たな情報を得た。
ウィンチェスター侯爵は同じ屋敷に平民の愛人と一緒に暮らしているという。そして、最近結婚したという女性は伯爵令嬢で、父は既に亡くなっており、実家では継母と異母弟と暮らしていた。さらに、大きな黒縁眼鏡をかけていて、顔は前髪で隠れていて確認できなかったという。
彼女はその愛人のことも承知して結婚したという。
このことは屋敷の使用人からの情報なので信憑性が高いという。
しかし、事実だとしたら何と酷い話だろう。同じ空間に妻と愛人とは。
そして、その黒縁眼鏡の女性が、間違いなく私に対して答えた作品の作者であるという。その証拠に彼女の実母の名前が、その作家のペンネーム(アリーシャ・ポートランド)だったのだ。
私はその黒縁眼鏡の女性に興味を抱いた。
彼女は何故、愛人がいると分かっていながらあんな男と結婚したのか。あれほどの知性を持っている人間が、そんな男と結婚した理由とは? 考えれば考えるほどに、彼女に会って話がしたくなった。
そして、何とか会う手立てはないかと考えた。
しかし、いくら考えても手立てが浮かばない。だったら、いっそのこと直接本人に会いに行くか? と思っていたところに、陛下の即位十周年を記念しての舞踏会が開かれることとなった。
貴族であれば当然、義務のような舞踏会なのだから、必ず彼女は参加するはずだ。
私はその日に備えて策を巡らせた。まずは彼女に直接、話しかけようと。
しかし、そこで先日の舞踏会のことを思い出した。そういえば、ウィンチェスター侯爵は彼女の外見を気にして一人で参加していたことを。
表向きは、妻の身体が弱いことにしていた。では、何とか引っ張り出す手はないのか? もし、また彼女が来なかったとしてもルイノール子爵の母上は参加するはずだ。もし彼女が現れなかったとしたら、その母上に声をかけ、彼女のことを尋ねてみよう。なんとしてでも会って協力を求めなければ。
そしてついに舞踏会の日がやってきた。やはりウィンチェスター侯爵は一人での参加だった。
半分は諦めてはいたが、本当に来ていなかったと聞き、がっかりしてしまった。
そうとなればルイノール子爵の母上だ。調べさせていた者に探させ、バルコニーのところにいると聞き、すぐに駆けつけた。そして
「初めまして、ダンフォート公爵家のルイス・グラフトンといいます。ルイノール子爵のお母上ですね」
と話しかけた。
すると、かなり驚いた顔で
「はい、お初にお目にかかります。ルイノール子爵家のエマ・ブライアンと申します」
と答えてくれた。そしてその隣にはご子息とその妻だろうか、とても美しい女性が同伴していた。
私は思い切って、ウィンチェスター侯爵のご夫人に話があるので取り次いでもらえないだろうかと頼んでみた。本来ならご主人である侯爵にお願いすべきところなのだが、どうも色々と複雑な事情があるようなので、いつも一緒にいるというルイノール子爵のお母上にお願いに上がった次第だと伝えた。
するとご都合がつくなら明日にでも、屋敷の方へおいでいただければ、呼びよせておきます。と言ってくれたので、是非お願いすると言って、明日の午後に伺う約束をして別れたのだった。