14話
同じ舞踏会にて
流石に旦那様は前回の社交界での一件に懲りて、今回は一人で参加した。
よほど容姿にこだわりがあるのか、私には今回の舞踏会のことを一言も言ってこなかった。確かにいつもの私の身なりでは、連れて歩いただけで目立ってしまい、そんな女が妻だとは恥ずかしくて言いたくないのだろう。
私は今回もエマ先生のお屋敷で支度を整えていただいた。
こんなに近くにいるのに、まるで私だと気付きもしない。そんな旦那様に近づく一人の紳士がいた。するとエマ先生が
「あのお方は、王弟殿下のダンフォート公爵家のルイス様よ」
と教えてくれた。なぜそんなお方が、旦那様に話しかけているのだろうと様子を伺っていた。するとエマ先生のご子息であるルイノール子爵の名前が聞こえた。それですぐに、隣にいるご子息に王弟殿下はご存知なのか聞いたが、話したことすらないと言う。私達は顔を見合わせていると、今度は黒縁眼鏡の女性という言葉が聞こえてきたので、これは怪しいと思い、取り敢えずその場を離れた。
何だか私達のことを探っているようなので、舞踏会の後、ラミナさんにそのことを話した。するとラミナさんも私達と同じ考えをしていて、今回の私の作品が絡んでいるのではないかという結論に達した。そして、今回登場したあまりに大物の存在に、一同困惑をした。何故、王弟殿下が? もしかすると王弟殿下の関係者があの小説を書かれているのだとしたら、とんでもない方を敵に回してしまう恐れがある。考えただけでも胃がキリキリとする。
私は自分の書いた小説を思い返し、かなり偉そうなことを書いてしまったと多少の後悔が頭をよぎったが、間違ったことは書いてはいないと思い直した。そしてたとえそれが誰であっても怯んではいけない。当初の目的を忘れていた自分を戒めた。