12話
私は三作目を書くにあたり、どうしても気になっていることがあった。
それは先日、リサから借りて読んだ本の作者のことだ。
やはり全てに目を通してから、ある一つの結論を得た。
『あの作者は王政であるこの国を変えたいと思っている』
内容は確かに貴族達の恋愛小説だが、読み進めるうちに王族への不信感を煽りながら、このままではこの国が滅んでしまうという危機感を与えている。
だから私は三作目の内容を、その作者へのアンサーとして、書きたいと思った。
ただ批判するのではなく、この国の良い部分、変わるべきではないものを丁寧に描き出し、それでも目を背けてはいけない問題点を、別の角度から提示したい。
王政が長年続いてきた理由、民がそれを支持してきた背景には、きっと先人たちの知恵と努力があったはずだ。それを無視して、ただ変革を訴えるだけでは、真の意味で人々の心に響かないだろう。
私が書くべきは、感情的な扇動ではなく、冷静な視点からの問題提起だ。
この国が抱える矛盾、歪みをしっかりと見つめ、それでもなお、この国を愛する人々の想いを掬い上げたい。
そんな風に考えながら、ペンを執ると、手がかすかに震えているのを感じた。これが武者震いというものなのか? そして私は、誰もが手軽に読みたいと思える、大衆の好む貴族の恋愛事情を、上手く取り入れながらの執筆を始めた。
何故か今回の作品は手が止まることなく、すらすらと書き進められた。
それから一月後、今迄にない早さで三作目が仕上がった。
毎日部屋に篭り続けた私を、リサはとても心配していたが、それさえも受け流す程、集中していた。
やっと書き上げた作品をそっと鞄に仕舞い込み、リサを呼んだ。
そしてこの一月、心配をかけてしまったことを謝ると
「本当に集中している時の奥様に何を言っても無駄だと理解しました」
と言われてしまった。そして
「そこまで一生懸命書かれた小説なら、一度出版社に持っていかれたらいいのに」
と言われたので、思わず苦笑しながら
「ただの趣味よ、書いてるだけで楽しいの」
と返すと
「そこまでして書いた作品の評価って、気になりませんか?」
と痛いところを突かれてしまった。
私はそれを上手くかわしながら、お茶にしてもらった。
その後、私はエマ先生に先触れを出して、いつもの四人で集まりたいとお願いをした。
そして三日後、エマ先生のお屋敷で、いつものように四人が揃ったところで、今回の作品に対する思いを全て語った。
勿論、ラミナさんから聞いていた作家さんへの想いも含めて。
それを聞いたラミナさんは、やはり同じ気持ちでいたようで
「貴方もそう感じていたのね。実は私も途中から気になり出して、その方の全ての作品を読んだのよ」
と言われ
「その答えがこの作品なのね」
と私の持ってきた新作を手にした。
するとそれを聞いていたエマ先生が
「どこの貴族の方なのかしらね。二人の話を聞く限り、高位貴族であることは間違いなさそうね」
と仰って
「私もその方の小説を読んでみたいわ」
と言うので、私は
「明日にでも届けさせます」
と答えた。
その後、色々と話し合いながらその日は一旦、解散とした。
私は次の日、リサに頼んで、どうしてもリサに借りたこの本を、私の恩師が読みたいと仰るので、ルイノール子爵邸まで届けて欲しいとお願いをした。
そして、私の三作目となる作品がついに出版されたのだった。