11話
第二作目が出版されてから半月ほどが経つ。初めての時のような反響は、今のところ感じられない。
やはり、旦那様へのメッセージとして無理に組み込んでしまった部分が、ストーリーに少なからず影響を与え、不自然になってしまったのかもしれない。
このままだと、ラミナさん達出版関係者の方々にも迷惑をかけてしまう。かといって、既に出版されてしまった以上、何の手立てがないのも事実だ。
せめて次回作は、本当に自分が書きたいものだけを、私利私欲なしで書かなくてはと思っていた。
すると丁度そこへ、扉がノックされて、リサがお茶を持って入ってきた。そして勢いよく
「奥様聞いてください、この本なんですが、リンドン伯爵邸で働いている私の友人から借りたんです」
と言って渡された本に、私は驚いた
『私の書いた本……』
と心の中で呟いた。リサによると、リンドン伯爵には外に愛人がいて、その方に子供ができたということで、リサの友人のメイドが、奥様に可愛がられていたこともあって、参考までにとこの本を、そこの伯爵夫人に勧めたという。
そして夫人はその本を、ご主人である伯爵様に見せたところ、青ざめていたらしい。なぜなら夫人には、まだ子供がいなかったのだ。
思わず私は
『貴族って、当たり前のように愛人がいるのかしら?』
と錯覚してしまう。そして、少しでもお役に立てたなら良かったと、嬉しくも感じた。
その友人は恋愛小説が大好きで、お給金が入ると本に注ぎ込んでいるという。
『大事なお給金をありがとう』
と心の中で感謝した。
一通り話し終えたリサは
「この本、侯爵様に進めるように、メイド長に渡しておきます」
と言ってくれた。
私はただ、苦笑するしかなかった。なぜなら、リサが私の書いた本の内容を、まるで自分のことのように熱心に説明してくれたからだ。そして、その一生懸命さに申し訳なくも思った。
それから一月経った頃、何とか二作品目も在庫を抱えない程度には売れたと聞いて、ほっと胸を撫で下ろしていた。
そして、旦那様の方はというと、今一つ分からないままだ。本は読んだようだが、態度を見る限りでは、見当もつかない。
もしかしたら、子供ができないように気をつけているのかもしれない。
だとしても、このまま侯爵家の跡取りを作らないわけにはいかないだろう。
何せ領地にいるご両親からは、たまに手紙が届いているようだと、リサから聞いていた。いずれは遠縁から養子を取るしかないだろう。しかしそうなれば、私はその時には用済みになる。その日が来た時の為にも、小説家として早く自立しなくてはと思うのであった。




