八.孤独とは 4
最近別作品を書き始めました。(いつ投稿するのかも、そもそも投稿するのかも未定だし、方向性も定まってないけど、、、)あと、遅くなりました、すみません。
元記者のおっさんの口から出た話は、実に男にとって聞くに堪え難いほど辛く感じるものであった。
どうやら記者のおっさんは、医者から大切な娘が奇跡的な回復を見せているという話をもらった翌日に妻の不倫を知ったらしい。
娘が肺病を患って以来、おっさんは娘の治療費を稼ぐためにいつも以上に労力をはたいて例の政治家を追っていた。
家を連日空けてしまうほどの頑張りようだったらしい。
娘が肺病を克服し、あとは治療費を賄えるだけの記事のネタというパズルのラストピースを手に入れるだけだった状況で、死に物狂いで見つけたはずのネタが愛する妻の不倫話であったとき、このおっさんはどんな顔をしていたのだろう。
半ば親に捨てられ、たった一人になってもめげずに生きてきた末路がこれとは、まったくうかばれないものである。
それでも最期に娘からの手作り菓子を貰えたのは、不幸にばかり見舞われたおっさんにとってせめてもの救いなのだろう。
娘から貰ったやさしい甘さのビスケットは、このおっさんが生涯で唯一貰った贈り物らしい。
幼い頃から親がおらず、大人になっても家計が常に火の車だったがためにそういった品を買う機会も無かったおっさんにとって、娘のビスケットは至高の一品だったに違いない。
おっさんは、なんならわざわざ後で食べるために一枚残したことからもその嬉しさが窺える。
結局、おっさんは最期の一枚を食べることなく、硬券に切り込みを入れるはめになってしまったが。
「そのあと、毎日往診にやってきてくれる医者に娘を預けて妻を連れ出した。さすがに娘の前で怒号なんて散らしたかなかったからな。」
「それで、常連の店で奥様に件の話をしようとした際に“食あたり”で亡くなられたということですね。」
今まで話を聞いては、顎に手をあてるだけで、うなづきもしなかった車掌が唐突に言葉を発したため、男は少しばかり驚いたが、車掌の言っていること自体はどうと言うこともないただの事実でしかなかった。
それにしては些か「食あたり」の部分を強調し過ぎているようにも感じた男だったが何かの癖なのだろうと思い、流すことにする。
「あぁ、大将はいい人なんだが、いかんせん安い店だからな、運が悪かったってこった。」
これだけでもう十分な気がするが、このおっさんにはまだもう一つ浮かばれないことがある。
伝えるべきか、はたまたこのまま何も知らずに黄泉へ向かう方がいいのか、男は苦悶した。
おっさんは今もなお、辛そうな顔をしている。
男が頭を抱える中、口を開いたのは車掌だった。
「お辛いのは分かりますが、もう一つ、貴方のお耳に入れたいことがあります。」
「おい、よせ!」
男の静止をものともせず、車掌は淡々とおっさんに告げた。
「貴方の娘さんですが、血統上“は”貴方の娘ではないようです。」
男は手で顔を隠し、おっさんは固まってしまっている。
暫くの沈黙が場を支配した後、おっさんは恐る恐る車掌に聞き返した。
「ど、どういうことだ、、、?」
おっさんは明らかに動揺していて、真実を受け止めきれそうにもないが、それでも車掌は話を続ける。
「おそらく娘さんは不義の子、奥様の不倫の御相手様の子かと思われます。」
「あんた、人のこころ、、、こころは無いのか!」
大きく眼を見開き、今にも発狂しそうなおっさんを見て、男は車掌に荒々しく言う。
それに対する車掌の返事は冷たかった。
「申し訳ありません。しかし、私たちの義務ですので。」
やはり、彼女は死神なのだ、人間とは異なる考えをする神の一端なのだと男は思った。
あくまでも自分だけが彼女たちにとっては特別扱いの対象なのだと悟った。
死神は死を司る神、彼女らにとって目の前にいるおっさんは数多いる死者の霊魂のうちの一つでしかない。
人間とて特定の仕事でない限り、仕事の相手にかける情などない。
このおっさんも彼女からしてみれば、仕事の相手でしかないのだ。
しかし何故だろうか、男には無表情なはずの車掌の顔が今にも泣き出しそうに見えた。
最悪の雰囲気を終わらせたのは意外にもおっさんだった。
少し考えを整理する時間が欲しい、と言って自らの部屋があるらしい二等、三等客車の方へと帰っていっただけではあるが、この雰囲気を打開する上では十分に上策と言えた。
しかし、その後ろ姿はまるで全てを諦めたかのようなものに男は思えた。
男が暫くおっさんが去っていった方をぼーっと眺めていると、車掌が男に言い聞かせるように言った。
「一旦は、あれで良いのです。」
その無神経とも取れる発言に男は苛立ったが、車掌の続く言葉で男の苛立ちはどこかへと霧散してしまう。
「きっと、真実を知ることはあの方にとって、よりお辛いことでしょうから。」
「どういうことだ?」
車掌の口から放たれた予想だにしなかった言葉に男は疑問を呈した。
「貴方が知りたいのであれば話しますが、これは私の推察に過ぎません。或いは憶測に過ぎないちんけなものかも知れません。」
「構わない」
神というものは気まぐれだ。
時に突拍子もないような行動をとるように、突拍子もないことを考える。
これが神の一端である彼女の気まぐれなのか、はたまた彼女の過去の経験から導き出したことなのかは分からない。
それでも、車掌の話は男にとって妙な説得力を感じるものであった。
実は毎回毎回思い悩んでることがあるんですよね。読みやすい行配列って何かなっていう問題なんですけど、一文ごとに間を空けるのがよいのか、はたまたガン詰するのがよいのか、まったく分からない。他の人の作品もよく読みにいくんですがみんな書体はバラッバラ。はぁ、どうすりゃいいんだか。