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五.孤独とは 1

ゴールデンウィーク楽しんでますかー

本当は土曜日にあげようと思ったんですけど色々調整してたらめちゃめちゃ時間が過ぎていました。あと、元々のタイトル?はこんな感じじゃなかったんですけど、後の話を読んでみるとこっちの方がいいかなって思って変えました。多分このくだりが終わったらそこまで違和感ないものになると思います。


男があてがわれた部屋は数両ある一等車のうちの一つにあった。

実家が裕福だったにも関わらず、末子かつ父信弘の子で唯一後妻の子であった男は家で母とともに冷遇され、一等車に乗ることはおろか、毎年恒例の行事となっていた家族旅行にすら連れていってもらえなかった。

後に母が病で亡くなり、男が帝都の大學に進学することが決まった際も父や兄姉たちの反応は冷めたものだった。

男は覚えていないが、実家に学費すら出してもらえなかった男の面倒を密かに見てくれたのが殺されてしまったという大叔父である。


男は初めての体験を前に内心歓喜していた。

一等車どころか列車すら滅多に乗ったことのない男にとって、今目の前に広がる光景は得も言われぬものであった。

本来、列車の一等車の客席は個室に分かれておらず、せいぜい座席のつくりが上等なだけなので、今通されている部屋は明らかに一等車なんかより特別なものに違いなかったが、一等車に乗ったこともない男が分かるはずもなかった。

この列車の一等車は通路分を除いた一車両分の全てが一つの部屋を構成しており、一歩違えば御用列車ともいえるようなつくりであった。


最初こそ新鮮な体験に少々浮かれていた男だったが、問題が発生する。


(なんか落ち着かない)


男は贅沢に慣れていなかった。

少年時代の大半を使用人用の空き部屋で過ごし、苦学生でもあった男にとって、広く快適な部屋はかえって居心地の悪いものであった。


(部屋、変えてもらうか)


男は自室を出て車掌を探すことにする。

自分が目覚めた貨物室が最後尾なら車掌室は前方にあるのだろう、と勘繰った男は別に急ぐ用事でもないのでゆっくり進行方向に向かって歩いていった。

一等車が数両続いたところで男は採算が取れるのか心配になったが、死後の世界に採算も何もないと思いなおし、今度は窓の外を眺めながら歩くことにした。

それにしてもどこを走っているんだか、と窓いっぱいに広がる自然を見て独り言を呟いていた男だったが、ふと男性の慟哭のような声が微かに耳に入ってきていることに気がつく。

泣き声を辿った先にいたのは、四十路を数えているかいないかほどのおっさんであった。

展望車とおぼしき車両の端の席で顔面を突っ伏しながら泣いている。

男は、よほど悲しいことがあったのだろうと思ったが、別に自身がどうにかできることではないと考え、泣き声の間に挟まる途切れ途切れの言葉を盗み聞くようにしながらもそっと展望車を後にした。


その後、ついに男は車掌室のある車両にたどり着く。

列車は男の想像を遥かに超えて長かった。

何か訳があるのではないかとも思ったが気にすることでもないので男は一旦忘れることにする。


車掌室と彫られた金属製のプレートの隣にあった扉には区別するためか、他の客室にはない小窓が付いていた。

ノックする手間が省けたと、男はその小窓から中を覗くことにする。

確かに車掌は室内にいた。

しかし、それ以上に気になるものがそこにはあった。

【乗客名簿】と題された見たこともないような厚さの本を車掌がなにやら真剣な目で見ていたのである。


「それにしても、何をしても様になるな」


小窓から見える車掌の立ち姿は優美そのもので、あまりに大きな本を持っているのにも関わらず、その均整は保たれていた。

男の声は扉越しに聞くにはあまりに小さな声であったはずだが、中にいる車掌は気がついたようで、帳簿を閉じて書棚に戻すと扉を開けた。

そこに表情はやはりない。

この車掌はどうやら愛想笑いすらしたくないらしい、と男は思った。


「御用件は何でしょうか。」

「あ、あぁ、あてがってくれた部屋なんだが、今まで贅沢というものをしてこなかった私には肌に合わないらしい。すまないが今からでもどこか別の部屋にでも移れないか?」

「別の部屋ですか、確認致しますので少々お待ちください。」


車掌はそういうと再び【乗客名簿】を取り出し、めくり始める。

怒られると分かっていながらも、何が書いてあるのか気になった男はついに自制しきれず、名簿を覗こうとしていた。


「そんなに気になりますか。」

「いいのか?」


男は怒られると思っていた分、車掌の対応に少々驚いたがちょっとした好奇心が勝った結果、そんなことを口走ってしまう。

ハッとして、流石にまずいかと思った男だったが、車掌の返事はまたしても意外なものだった。


「どうぞ。見せるなとは言われましたが。」

「本当に大丈夫なのか?」


男は自然な手つきでそれを受け取りながらも反射的に心配の言葉を掛ける。

しかし、それを聞いた車掌から発せられた言葉は男にとって心外なものであった。


「れっきとした規約違反ではありますが、貴方を乗せてしまった時点で私の免職は確実なので、些細な違反が一つ増えるくらい問題ありません。」

「問題大有りじゃないか!」


あまり声を荒げるような性分ではないが、自分のせいで誰かが迷惑を被ることを最も嫌っていた男は堪らず啖呵を切った。

聞こえているはずの車掌は表情を変えずとも少し俯きながら黙っている。

その様子から、無表情を演じてはいるが、本当は相当繊細な心の持ち主なのだろう、物語では人間の魂を刈り取る非道で辛辣な悪の権化のように描かれる死神であっても、実際、そのこころは人間と大差ないのかもしれないと感じた男であった。


今更どーたらこーたら言う話でもないのですが、どうやらこの話で出てくる登場人物一人ひとりにサブストーリーがついてるみたいでちょっと前に覗くだけしてみたんですけど今のところ出てきた主人公や車掌、青年の話だとネタバレ祭り状態なんですよね。一応、今回ちょろっとだけ出てきたおっさんの話もあるんですがいつあげるべきなんでしょうね。(←読んでる人そんなにいないのにもう未来のことを考えてるバカ)

(再掲)誤字脱字がありましたらコメントで教えてくれると幸いです。

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