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四.生ある者、黄泉へ立ち入るべからず

今日は更新ないと思ったでしょ、ざんねーんありまーす。(ごめんなさい、もううざい真似は致しませんので許してください。ちょっとやってみたかっただけなんです。)※祝日は気が向いたら投稿する予定です。


男の目が覚めた。

視線、姿勢、ぼんやりした状態から男は自分がどうなっていたのかをだいたい察した。

訳の分からぬことを平気で言ってみせた青年の肩を掴んだと思ったら、その青年から発せられる悍ましい気にやられ、承服できない話を淡々とされ、下戸なのにも関わらず出された酒に自然と手がのび、結果泥酔してカウンターに突っ伏したといった具合だろうか、という男の推測は事実そのものであった。

昔から男は状況整理に長けていた。

しかし、他人の悪意に鈍感で、たったひとつまみの悪意が男の人生を狂わせたこともあった。

でも、今やそれも関係ないことだと男は分かっていた。

実体験が伴わないならまだしも、正に目の前にいる死神から死亡宣告を受けたような自分がまだ生きていると思えるほどの図太さといったものはもうどこにもなく、男の生に対する執着はいつの間にか失われていた。


男の目の前では背格好に差のある男女二人の言い争いが繰り広げられている。

いや、むしろ女性の方が男性の方を一方的に叱りつけているような感じである。

男はその両方に一応の面識があった。

背丈が低い、と言っても男と同じくらいある女性は最初に出会った車掌で、もう一方の男性は先の死神を自称した青年であった。

先ほどは自身が高椅子に座っていたために気がつかなかったが、あの車掌と並んでこれだけの身長差があることを考えると青年の身長がそこらとは比べ物にならない程のものだと男も理解した。

一方で、車掌が大男を前に一切怯まず、あまつさえ説教までかましていることから二人の立場関係が男には容易に見てとれた。


カウンターに突っ伏した状態で見ているのに疲れた男が身体を起こすと、言い争っていた二人も男の目が覚めたことに気がついたようで、


「お目覚めになられましたか。お身体の調子はいかがですか。」


先に駆け寄って来たのは車掌の方だった。

職務上当たり前のことなのだろうが、自身をここに置いて出て行ったときとはえらい違いようであること、心配していそうな言葉をかけときながら、それでも無表情を貫き通そうとしていることには男は内心困惑していた。

そんな男の困惑をよそに車掌は話を続ける。


「起きたばかりで申し訳ありませんが、此度、こちらの手違いによりまだ余命ある少弐様を当列車に乗車させてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。」

「はい?」


この列車に乗ってから多くの驚きに見舞われた男だったが、それでもやはり驚き慣れるということはなかったようで酷い声で返事をしてしまう。

男の驚きようを声で察したのか、はたまた最初からそのつもりでいたのかは不明だが、男の返事の後に車掌は話す速度を落とし、より丁寧な口調で男に状況を説明した。






車掌の話でだいたい自身がどういう立場に置かれているかを男は知ることができた。

どうやら、男は生きているのにも関わらず、なんらかの手違いで黄泉へと向かうこの列車に乗車してしまったということらしかった。

車掌の話が終わると同時に車掌は男に一枚の紙を手渡した。

そこには【帰還許可証】と書かれていた。


「これは?」

「貴方はまだ余命が残っているので黄泉はおろか地獄にすらいけない身です。ご自身の氏名をお書きの上、この列車が終着点についた際、駅長に渡してください。現世に帰ることができます。」

「そうか、分かった」


現世に帰れる、この事実は男にとってこの上ないほど喜ばしいものである、はずであった。


「嬉しくはないのですか? 現世に帰れるのですよ。」


車掌も男のあっさりすぎる返事に動揺したのか、先ほどまで淡々としていた声を乱す。

事実、現世に帰れるということは男にとって喜ばしいものであった、つい先刻までは。

男は生に対する執着を失っていた。


「すまん、私自身よく分からないんだが、なんだか生きる気が湧かなくてね」


それを聞いた車掌は一瞬だけハッとしたような表情を浮かべたかと思うと遠くから見ていた青年の方を見た。

男と目線を合わせるためにバーカウンターの内側に入っていた車掌であったが多少位置関係が合わなかったからか、車掌がどのような形相をしているか見えなかった。

しかし、青年が明らかにビビリ散らしていたのを見た男は車掌がどのような形相を浮かべていたのかだいたい予想できた。

そして、車掌は男の方に顔を戻すと、また謝罪するように弁明し始めた。

明らかに怒っていたはずだが男には表向きそのような表情を見せたがらない。


「・・・という訳です。本当に申し訳ありません。」


列車に乗っている乗務員は彼女含めて全員死神で、その気に当てられた人は生きることに対する渇望を失ってしまうらしく、まだ死神として未熟な青年が男に当てた気が思いの外強かった結果、生者であるにも関わらず男は生きることに対する執着を失ってしまった。

車掌の話を要約するとそういうことであった。


「この件は駅に着いたら駅長に相談致します。申し訳ありませんが到着まで一等客車の一部屋をお貸し致しますので、車内でごゆるりとおくつろぎください。」


無表情ではあったが車掌の言葉からは相当な焦りと申し訳なさが滲み出ていた。


前回個人視点だったのに戻るんかいと思った人、ちょっと言わせてください自分も、戻るんかい!?って書いてて素直に思いました。一応弁明しておくと、どうやら何回かに一回視点が主人公に変わるみたいです。ざっと先を読んではみましたがあんまり一定性のあるものではなさそうでしたからぼちぼち入ることがあるくらいの認識で結構です。あと、関係ないけど高校生の時に主人公につけた名前が少弐って、イキってんなぁー。

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