007:情報整理と前調べ
美玖とスキル操作を行った翌日、非常に気まずい一日が始まった。
時刻は五時過ぎ。暁の時。いつも目覚ましのアラームが鳴る時刻。この日も、いつも通りアラームが、ピピピピッ……ピピピピッと鳴り始める。
先に目を覚ましたのは美玖。目覚ましアラーム音と、もたれかかるオレの身体の重みで、可愛いらしいうなり声を上げる。その声がオレの耳へと届き、夢見心地のまま、うっすらと目が覚める。
「うーん……輝……重い……」
「……あ、ごめん……」
寝相が悪い二人は、どちらかの身体が乗り上げてることなんてよくあること。どうやら今日は、オレが美玖の上にのしかかっていたようだ。
起床時の虚ろな時間がすごく好き。特に今日はいつもに比べて、布団の中の温もりが心地いい……。薄目を開けると目の前に美玖の姿が見える。ああ、そうか。美玖は昨日、うちに泊まったんだっけ……。オレの頬や腕、身体に密着している心地いい温もりは、美玖の人肌?
「アラーム停止……」
まどろみを邪魔する不快なアラームを音声操作で停止させて、もう少しだけ布団の温もりを堪能すべく、目を閉じたまま布団を被り潜り込む。
あ……れ……? なんかいつもより開放感がある。シーツや毛布が直接素肌に触れる感覚がある。オレ、まっぱで寝てたのか……。いつの間に服を脱いだんだろう。まだ横で寝ぼけ状態の美玖が覚醒する前に、服を見つけて着ないと何を言われるか分からないな。
布団の中の自分の周辺や足元辺りを探してみるけど、脱ぎ捨てた服が見つからない。おかしいな〜と思いながら、美玖が寝ている方を探そうと少しだけ毛布を持ち上げると、あった! 取りあえずオレのトランクスを発見したので、ふるちんを見られたら何を言われるか分からないので、美玖が覚醒する前に素早く装着する。
んっ? よく見ると美玖もすごく薄着? っていうか、美玖もまっぱで横になっている……。そこでようやく、昨夜の出来事を思い出す。
ああ、そうだよ、そうだ。『スキル操作』なんていうトンデモスキルを手に入れて、昨夜スキル確認のために美玖とは大人の関係を経験したんだった。
性欲が二倍になる効果で、何度もエッチをし続けながら、何度目か気持ち良くなった後に記憶が曖昧になってる……。失神でもしたのかもしれない……。
「み、美玖起きてくれ!」
「う……ん……、おはよ、輝……ああ、昨日は泊まっちゃったんだっけー」
美玖はまだ寝ぼけているっぽい。未だに深夜までゲームをして、帰るのが面倒だからと、オレの布団に潜り込んで同衾なんてのは、ちょくちょくあるから、いつものことだとでも思ってるのか?
呑気な返答をしながら、目を擦り、のっそりと起き上がる美玖。もちろんまっぱのままなので、それと同時に美玖のオッパイがぷるんと揺らいで露わになり、オレの目に飛び込んでくる。
「お、おい、美玖……」
「ん?」
オレは慌てて声を掛けるが、一向に状況が呑み込めないまま、オッパイを晒していることに気が付かない美玖。
「み、美玖さん……」
再び声を掛けると、少しだけ覚醒したようで半目状態でオレに顔を向けるので、美玖の胸元へと人差し指をツンツンと指し示す。
「ん、なによ……へっ?」
ようやくオレが何かを伝えようとしていることに気付き、美玖は自分の身体に目を向けると、みるみると顔が赤くなり、慌てて毛布を持ち上げ自分の身体を隠す。
「ひゃん! わた、わた、わたし……」
そして数秒後には羞恥の限界を突破したようで、モゾモゾっと布団の中へ潜り込み隠れてしまう。いやいや、恥ずかしい気持ちは分かるけど、そろそろ起きようよ。時間的に差し迫った問題が一つあるし。
「美玖、母ちゃんの帰宅時間が迫っている。帰宅前にシーツだけはさすがに洗いたい」
「はひっ、そ、そ、そだね……」
美玖は布団から顔だけ出して返答すると、脱いだ自分の服を探す為にまた毛布に潜り込みゴソゴソとし出す。ああ……脱いだ服を探しながら着直しているのかな?
かなりの早業で着直したようで、キャミソールと短パン姿で布団から飛び出すと、布団はめくれて、オレと美玖の体液まみれになった無残なシーツが露わになるが、お互い唖然としながらもそれには触れず見て見ぬふりをする。
「じゃ、じゃあ、私は家に戻るわね。ま、また後で!」
「あ、おう……気を付けて……」
バタバタと慌ただしくオレの部屋を後にする美玖。一人取り残されたオレの部屋は、急に静まり返ってしまう。一人だとこんなに静かなんだなと、少し寂しさを感じてしまう。
気を取り直し、洗濯するためにシーツをベッドから剥ぎ取りながら、シーツをよくもまあここまで汚したものだと、自分のことながら呆れながらベッドからシーツを丸めて剥ぎとると、剥ぎ取ったシーツを洗ドラム式全自動洗濯機にぶち込んでスイッチオン。
待つこと約九十分。母ちゃんが帰宅するまでに無事洗濯は終わったから、諸々バレないで済みそうだ。
シーツを自室まで運び入れてベッドメイクすれば終了……シーツをベッドに広げると、洗濯する時にシーツと混ざっていたのか、どこからともなくブルーの布がポロリと落ちる。
んっ?
布切れを拾い上げて広げてみると、あら不思議……それは美玖から脱がしたブルーのショーツだった。洗濯しようとシーツを剥ぎ取った時に紛れていたのかよ。ってことは、あいつノーパンで帰ったのか。全く、慌てすぎだろ……。
とりあえずキレイにはなってるけど、これ、どうやって返したものか……。
そうだ。百均で小物入れ用に購入した巾着があったな。それに入れて返せば大丈夫か。
返せるタイミングで返そうと思い、巾着にショーツを入れて通学カバンに忍ばせる。
いつもなら、そろそろ朝食を済ませて神条稲荷ダンジョンへ向かう時間だけど、さすがに今日は疲労感があるので今日はお休みさせてもらおうかな。メグミ姉さんゴメン。午後の部活で昨日削り切れなかったハムハムを、きっちり片付けるから許してね。と、心で話しかけながら、神条稲荷の方角に向けて手を合わせておく。
どれくらいのんびりしたんだろうか。
朝食を済ませた後、居間の椅子に腰掛けてゆっくりしていると、あっという間に学校へ向かう時間になったので、玄関から出て自転車に乗る準備をしていると、ちょうど美玖も家から出たところでバッタリ鉢合わせ。
うぅ……ちょっとだけ気まずい……。
「「お、おはよう……」」
ぎこちなく朝の挨拶を交わし、お互い自分の自転車にまたがり、朝の挨拶後は無言のまま出発。学校までの道のりを淡々と進むんだけど、終始無言で気まずいまま駐輪場に到着する。
「美玖……あのあと大丈夫だったか……」
「へっ、うん。大丈夫だったよー」
「そうか……あ、あとこれ……。美玖の忘れ物」
カバンから、巾着のラッピング袋を取り出して美玖に手渡す。
「あれ? 何か忘れたっけ」
オレから袋を受け取ると、中を確認しようと巾着を緩め始める。
「あ、いや、美玖。それは家に帰ってから開けた方が……」
と伝えきるその前に巾着の中身を確認してしまうと、美玖はそのままフリーズ。それはそうだよね。中には自分が履き忘れて、オレの家に置き去りにしたショーツが入っているんだから。
美玖はそのまま顔を真っ赤にさせて、巾着のヒモをキュッと閉め直す……。あっ、手がプルプル震えてる。
「な、な、な、なんでぇ……」
「あ、洗ったのでお返しします?」
「も、もう! 借りたハンカチを洗って返しましたーみたいに返さないでよ!」
そんなつもりじゃなかったんだけど、何かゴメン。
でも、終始うつむき照れ悶える姿は嫌いじゃない。むしろ朝からご褒美を頂いた感じ?
「あ・り・が・とっ!」
美玖は雑なお礼をすると乱暴に巾着袋をカバンに突っ込み、くるりと振り返ってスタスタと美玖が歩きはじめるので、そのあとを追うようについていく。は、速いっ。
そこからは再び終始無言。猛スピードで教室へと向かう。美玖は羞恥が再燃したため顔を真っ赤に染めたまま、オレと連なり教室へ入ると、美玖の友人二人から声がかかる。
「美玖っち、輝っち、おっはー。おっ、同伴おつー」「お二人ともおはようございます」
朝からテンションが高いのは千堂颯希。彼女は美咲の友人の一人で、中学時代に隣町に引っ越してきたらしく、塾で知り合って以来仲良くしているらしい。
彼女の容姿はかなりインパクトがあり、ヘア頭部は金髪で、毛先に近づくにつれてピンク色へと変貌していく鮮やかなグラデーションのゆるふわセミロング。二重を活かした目力抜群のアイメイク。ヌーディーピンクのラメ入りリップ。透き通るような白い肌が生える白ギャルメイクが大人っぽさを際立たせる。制服姿なのでギリ学生と認識できるほど。
ただ、普段はギャルっぽい口調なんだけど、案外仕切りやで皆を引っ張っていく印象が強いので、オレは心の中で彼女のことをアネゴと呼んでいる。
そして、そのそばの座席で座ったまま挨拶を交わしてきた一人の少女は藍澤玲。ダンジョン装備のチェーン店「ダンジョンのアイザワ」の社長令嬢で、ちょっとしたお嬢様。
颯希の容姿とは違う美しさを持つ、黒髪ロングの正統派美人。優しげなまなざしが、鷹揚な雰囲気をかもし出している。
オレの中ではお嬢様を通り越してお姫様って感じなので、心の声ではヒメと呼んでいる。
アネゴとヒメの朝の挨拶に、軽く片手を挙げながら軽く会釈して挨拶の返答をする。
決してカッコつけてるわけじゃない。声を出して返答したら、緊張からかなりの確率で声がひっくり返る予感がするので、いつもこの返答をしている。
しかし、同伴おつって、何ともいかがわし気な言い回し。案の定、美玖は今朝までのオレと同菌していたことが頭によぎったのか、その言葉に思った以上の過剰反応。教室に入った時よりも、さらに顔を真っ赤にしちゃってるし。
「さ、颯希っ? そ、そんにゃんじゃないから!」
「ははっ! そんにゃんって何よ。美玖っちキョドりすぎー。あれ、もしかして、ホントに何かあった感じ?」
いつもと様子が違うことを見抜かれ、目を泳がせる美玖に気付いてイジリまくる颯希。まあ、オレから見ても様子がおかしいのは一目瞭然だからね。
「あれ、あれ、あれれえぇ、まさかまさかのー」
颯希は何かを察したように、オレと美玖を両手の人差し指を交互に差しながら楽しそうにしていると、おもむろに美玖がその指を両手で包み込んで、周囲から見えないように隠す。
「ち、ちが、違うってば!」
否定してるけど、顔は完全に紅潮状態。美玖、完全に撃沈。そんな顔で否定しても、否定すればするほど疑心暗鬼になるってば。遠くの方で自席に座る勇者黒原は、すげー顔でオレのこと睨んでるし。
「美玖っち、顔が真っ赤っかのまっかちんだよ。これは事案発生か! 詳しい話は、玲っちを交えてランチミーティングってことでよろ。場所は屋上で!」
「も、もうっ、知らないっ」
颯希さん、まっかちんって昭和かよ。そんな単語、よく知ってたな……。
そんなこんなんしているうちに担任が入室してきて、ホームルームが始まった……。そして気が付くと、いつの間にか四時限目終了のチャイム。あっという間にお昼休みだ。
昨日の疲れがまだまだ残っているのかな。オレはと言うとウトウトしていたせいで、授業を受けた記憶がほとんどない……。
美玖は、本当に颯希と玲に捕まって、教室から連れ出されていった。これから屋上で姦しい会議をするんだろうな。はい、合掌。
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