006:新調武器の効果
地震の描写があります。
苦手な方はスルーしてください。
ダンジョンは不思議なところで、どの通路でも足元が見える程度の明るさがある。
そして、どこからともなく湧き出してくる魔物を倒すと、死体が残るのではなく魔物が掻き消え、その代わりに魔石やアイテム等を残していく。
魔物を求めて無言で歩いていく途中で、駐輪場で起こった黒原の醜態のことを思い出し、オレと美玖は思わず笑いだしてしまう。
「うふふっ、そういえば、さっきの地震の時……ぷっ」
「んっ? ああ、最高だったな。四つん這いで……」
地震への恐怖心に関して特に思うところはない。いや、むしろ怖くて当たり前だと思う。地震が起きると客観的に分析して、恐怖心よりも被害状況を冷静に分析しているオレの方が風雨じゃないかもしれない。
だけど、陰キャネタでウザ絡みした後にあの醜態を見せられては、黒原を失笑するくらいは大目に見てほしい。
ダンジョンにいることを忘れてオレ達はつい声を漏らすが、すぐにここがダンジョンだということを思い出し、お互い口元に指を立て静かに歩き出す。
「あんな醜態を見せて、明日はあいつ、どんな顔をして学校に来るのかな」
「ウフフ楽しみね。まあ、相変わらずの態度なら、監視カメラの情報開示請求の話もしてあげようかしらね」
雑談しながらダンジョンを進んでいくと、ついに二十センチメートル程度あるタイニーハムスターが姿を現した。平均的な大きさのヤツが、約十五メートルほど先に一、二、三匹いる。テストするには調度いいな。
モソモソと近づいてくる先頭のタイニーハムスターに狙いを定め、引き金を絞る。ガス圧が高いためかノーマル銃より引き金が重く感じるが構わず絞り切る。
すると、ボスッっと炭酸ガスが吹き出す鈍い音と共に、シルバーの弾が銃口から射出され、狙ったタイニーハムスターに向かって飛翔する。だが、残念ながら射出されたベアリング弾は、ハムスターの足元にカンッと当たり、どこか別の場所へと弾け飛んでいく。
「くっ、外した」
思いのほかトリガーが重く、引き金を引いた際に余計な力がかかったようだ。ただ、弾をシルバーのベアリングボールにして正解だったな。外した弾道がはっきりと目で追えるから、次弾を撃つときに照準の補正がやりやすい。
オレが狙った位置と、実際に着弾した感覚のズレを頭の中で修正して、同じ獲物に照準を合わせて、引き金を引いた際にぶれないよう意識して二度トリガーを引く。今度は二発とも命中。ブスッブスッと二度の命中音と共に、狙ったタイニーハムスターが弾け飛んだあと姿を消した。
ちなみに、大抵の魔物は倒した時点で消え、何かしらのアイテムや魔石に替わるんだけど、タイニーハムスターは弱いせいなのか、何もドロップしない場合が多い。
感覚的には五回に一回くらい魔石が出るって感じなので、ドロップ率は二十パーセントくらいと推察する。今回は残念ながら魔物が消えただけで何もドロップすることはなかった。まあ、こんなもんだろう。
とにかく、ハムハム相手なら殺傷力があることは確認が取れた。あとは距離ごとの命中精度と、どの距離まで殺傷力があるかだけど、約十五メートル先でも殺傷力があるのなら及第点だろう。
残りの二匹のハムハムが、一匹目のハムハムを倒したと同時にこちらへと走り寄ってくる。目の前で仲間が倒されたため、興奮状態になった二匹は通常よりも移動速度が速く感じる。あっという間に魔物との距離は十メートルを切った程度まで近づく。両方のハムハムに向けて二回づつトリガーを絞ると、立て続けに二匹とも吹き飛んだ。見事命中だ。この程度のスピードなら、問題なく照準を合わせられそうだ。
今度は一匹のハムハムから、ランク一の魔石が一つドロップした。
ランク一の魔石の相場はひとつ五百円程度。全く割に合わないけど、最底辺のFランクのライセンスでは致し方ない。いずれは、この底辺から脱却してやる。目指せ下克上!
とりあえずハンドガンのテストはこれまでにしよう。十メートル先の二十センチにも満たない動く標的に命中なら、銃自体の弾道が安定してると思っても問題ないだろう。
M92Fをホルスターに収納して、いつもの装備のつるはしに持ち替える。
更にダンジョンの奥に向かうため、時々現れるハムハムをつるはしで倒しながら突き進む。つるはしの接近戦とハンドガンを使用した遠距離攻撃と、どちらが有効か判断しながらダンジョン奥へと進んでいく。
そういえば、メグミ姉さんに討伐依頼された『ハムハム』は、どれくらい討伐すればいいのかな。具体的な数は聞かなかったけど、とりあえずダンジョン内を一周すれば、しばらくは大丈夫だろう。どうせ明日朝も来る予定だしな。
入口に入ってからここまでまっすぐきて、ついに通路の突き当りまで到達したので、今度は右折し先へと進む。更に突き当たる場所まで到達すると、ダンジョンの壁の異変に美玖が気付く。
「あれ? この壁、少しく崩れているわね」
いつもなら左折するしかない壁の突き当りの壁に、わずかに亀裂が入っているのが分かる。よく見ると、壁の下にはわずかにだが、崩れた細かい石クズが地面に落ちている。昨夜の地震で崩れたのだと考えられる。
倒壊の恐れを危惧しながらも、手の甲で軽く叩いてみると、他の壁に比べ軽い音がダンジョン内に響く。どうやら壁の先は空洞のようなので、つるはしで亀裂を起点にして掘り起こせば、容易に壁が崩せそうな気がする。
本来ダンジョンでは、崩壊した箇所もしばらく時間が経過するとともに自然と修復される。そこに亀裂が入っているということは、さっきの地震で崩れて、修復が間に合っていないんだろう。
「美玖、ちょっと下がってくれ。壁を壊してみる」
「えっ?」
「多分この壁、穴をあけられる気がする」
美玖が壁から少し離れたのを確認すると、亀裂が入った部分を狙い、つるはしの先を叩き付ける。ボコッと鈍い激突音と共にヒビが広がり、欠片が少し地面に落ちる。
「おっ、いけそうだな。少し音が出そうだから、美玖は周りの警戒を頼む」
「うん」
美玖が周囲の警戒をし始めたことを合図に、再びつるはしの尖った先を壁の亀裂に向けて、繰り返し叩き付けていくと、そのたびに激しい打撃音が辺りに響く。
弱い魔物確定のダンジョンだから、余裕でつるはしを壁へぶちかましているけど、もし他のダンジョンでもやるとしたら、何かしらの魔物対策を考えたほうがいいな……。そんなことを思索しながら、つるはしを壁に五回ほど叩きつけると、今までとは明らかに違う鈍い音と共に、数センチ程度の小さな穴が開き、穴の周辺には細かな亀裂が走る。
その穴を覗くと、壁の先は空洞になっていることが確認された。本当に壁の先は隠し通路なのか?
つるはしを持ち替えて、三味線のバチに似た側を、空いた穴の周辺……つまりヒビが入った辺りを狙って叩きつける。何度目か繰り返し叩き付けていくと、衝撃でヒビが大きく広がっていく。それに構わず、さらに叩き続けていく。
つるはしのどっち側を使うのか正解かもわからず夢中で続けていくと、衝撃で弱くなった壁の部分から少しづつ剥がれ落ちていき、穴は次第に大きくなる。そして、ついには人が通り抜けられるくらいの大きさまで広がった。
広がった穴からその先の様子を伺うと、どうやら幅約五十センチくらいの空洞になっていて、本来のダンジョンに沿って通路が伸びているようだ。少し狭い穴を潜り抜けて隠し通路側に身体を移し、通路の先を注視する。その先は、薄暗くてよく見えないが、十メートル先程度先までは通路が続いていて進めそうだ。
「この先も進めそうだ。ちょっと行ってみるから、美玖はここで待機してもらえる?」
「分かった」
「一応護身用ね」
そう伝えながら、新装備であるM92Fをフル弾倉のマガジンに入れ変えて渡す。
「引き金を引けば弾が出るから」
「うーん、これで殴った方が早いかも」
ハンドガンで殴る? 壊れるから絶対やめてね。困惑した顔をしていると……。
「うそうそ、殴らないから」
通路の先をさらに観察すると、先に進むほど天井の高さが低くなっているようで、突き当りには何かあるようだけど、ここからだとよくわからない。特に何か動く気配はないから、とりあえず魔物の心配はなさそうなので、歩いて行けるところまで移動してみる。
ここまで進んでも魔物の気配はないな。もしかしたら隠し通路に魔物は出現しないのかもしれないが、警戒は怠らず、ここからは地面に這いつくばり、ほふく前進で進んでいく。
あと残り五メートル。ここまで来ると、壁際の何かがはっきり認識できる。
薄暗いけれどもはっきりと見える。あれって宝箱だよな! 間違いない。あの箱は、スキルジュエル確定のジュエルボックスとまったく同じ形状のものだ!! 実物を見たことはないけど、ダンジョン関連のサイトや雑誌では、何度も目にしているから間違いない。
おおおっ、上がるぜー。
逸る気持ちを抑えながら、過去一早いほふく前進で進むと、あともう僅かな位置で、ガツンと衝突音がすると共に頭に衝撃が走る。どうやら通路の天井が低すぎて、頭が突っかかり進めなったようだ。くっそ! あともう少しなのに。
手を伸ばしても、五十センチ程度足りなくて手が届かない。なんって生殺し……。
そうだ。つるはしに引っ掛けて引きずり出すか……。持っててよかったバチツル型つるはし。バチツル側が、今最高に活かせる時だぜ。
腰からつるはしを取り出し、ジュエルボックスの方へとゆっくりと近づけていく。誤ってジュエルボックスを押したりしたら、二度と届かなくなるので慎重に近づけていくと、ジュエルボックスの両脇に少し違和感を感じる。
「なっ!」
思わず声が出てしまった。
ジュエルボックスが置かれている地面と、左右の地面の色が明らかに違う。ジュエルボックスの地面はオレが這いつくばっている地面と同じ、左右は真っ黒……。もしかして両サイドに穴が開いてる?
一旦つるはしを地面に置き、状態を確認するため、M92Fの予備弾倉からベアリングボールを一つ取り出し、真っ黒の場所へ向けて転がすと、真っ黒の場所に到達した瞬間にベアリングボールの姿が消える……ああ、間違いなく穴が開いてる。しかも姿を消してから約3秒後、コンッという鈍い音。今地面に着地したのか……どんだけ深いんだよ。落としたら最後、絶対回収できないやつ。
失敗は許されない。ここはさらに慎重に……あ、ヤバい、つるはしの重さと緊張で手がプルプル震える。しかも、さっきまで穴あけで腕を酷使してたから、疲労からの震えも加わってる。
ジュエルボックスの手前まで、なんとかつるはしを移動させて小休止。まあ、ここまでは序の口、これからが本番だ。
つるはしの先を、落とし穴経由でジュエルボックスの後ろに移動させるのって、至難の業じゃね? 重みに耐えかねると、ツルハシを穴に持ってかれてしまう。そうならない為にも、最初から持ち上げて動かす方が成功率が高そうだ。
何度か深呼吸して息を整えてから、つるはしをグッと持ち上げる……重っ! ちょっとまった。息をすると力が抜けるなぁ……。
もう一度深呼吸してから、今度は息を止めてからつるはしを持ち上げると、さっきよりは安定したので、つるはしの先をゆっくりジュエルボックスの後ろへ移動させる。ジュエルボックスをほんの少しだけ前に押し出せば、つるはしの先をそこに引っ掛けられる……。グぬぬぬぬぬ……もう少し……う、息が苦しい……。
何とかジュエルボックスをズルズルっと引きずって、十センチ程度手前にずらし、できた空間につるはしの先を置く。完全に手を放す訳にはいかないけど、持ち上げた時に比べれば、かなり負担が減り、ちゃんと小休止できる。ハアハアと激しく深呼吸をしながら、息を整えていく……うーん、苦しかったぁ。
ここまで来れば、あともうひと踏ん張り。凡ミスしないようにここからも慎重に……。つるはしを引きやすいように持ち方を変えて、落とし穴がなくなる位置までジュエルボックスをずらし終わると、そこからつるはしを一気に引き戻すと、ジュエルボックスは勢いよくオレの目の前まで滑り込んでくる。
よし! ジュエルボックス初ゲット。目の前に来るまで色がよくわからなかったけど、どうやらゴールドのジュエルボックスだ。今のところ、銅、銀、金の三種類が確認されているが、金色はその中で一番レア度が高いジュエルボックスになる。
こ、これは何のスキルオーブが出るか楽しみしかない。とりあえず美玖が待機しているところまで戻り、中を確認してみようか……。
☆☆☆
こうしてオレは『スキル操作』という未知のスキルを手に入れたあと、無配慮の言動から、疾風迅雷のごとく、美玖の平手がオレの頬を打ち抜き意識を飛ばした後、スキル操作を行うまでに至った……。
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