054:川越ダンジョンまつりの顛末
遅くなりました。
お楽しみいただければ幸いです!
振替休日明けの火曜日の朝、教室に入るとちょっとおかしな雰囲気になっている。
ピリピリしているというか、ギスギスしているというか……。
しかも、黒原を含めた黒原たちのチームメンバーの顔色がすこぶる悪いぞ。
そんな教室の様子全体を眺めていると、オレの背後から声がかかった。
「一昨日の出来事は、さすがに本校でも影響大でした。映像は流れていないとはいえ、聖女様生き埋め未遂を起こしたって情報が、その日のうちに拡散されて大炎上しましたからねぇ。クラスカースト上位に君臨していたとしても……いえ、君臨していたからこそ、この空気なのではないでしょうか」
誰かと思ったら博士か。川越ダンジョンまつりの後に、そんなことになっていたのか。
「さらには、だれが撮影したのか、正規のドローンが停止した後の現場動画が配信されて、瞬く間に拡散されましたからね……」
ん? もしかしてオレが提供したドローン映像も共有されちゃったってか!
「しかも、黒沢君の会社所属のパーティーは、今回の件で『ダンジョンのアイザワ』の優遇ランクを大幅に下げられたらしいです。黒沢君の顔色が悪いのは、その影響も大きいんじゃないかと」
「んっ? 優遇ランク?」
「おや、天真君は知りませんでしたか? 優秀なパーティーほど優遇ランクで格付けされて、優先的に高ランクのスキルジュエルの購入が可能になるそうですよ。しかも、欲しいスキルの予約もできるとかできないとか……」
そんなシステムがあるってのは聞いたことがあるな。今の今まですっかり忘れていたけどね。そもそも【スキル操作】を入手するまでは、最弱ダンジョンで細々と生活費を稼ぐくらいしか考えてなかったからなぁ。
「もっと詳しく知りたいようなら、後ろの藍澤さんにお聞きください」
振り向くと、いつの間にか藍澤さんと千堂さん、それに美玖までもが博士の話に聞き耳を立てていた。
「そうですわね……。そろそろ担任が到着する時間なので、お昼休みに屋上でお話しいたします」
「んっ。オレからも別件で三人に相談があるから、その時に話をさせてもらうよ」
そんな話をしていると教室に担任が到着したので一旦話はそこで終わり、オレは相談の内容をそれまでに頭の中でまとめることにした。
☆☆☆
4時間ほど授業を受けた後の昼休み、屋上へと向かった……というより、三人に拉致されて連れていかれた……。なんだか少し前に、同じような光景を見た記憶があるな。
屋上へ到着すると、学校に備え付けられている通常のベンチではなく、最奥に設置された豪華なガーデンテーブルへと連れていかれた。しかも、大きなパラソル付き!
もしかして藍澤さんや美玖の家の権力で設置しちゃったのか? いや、この高校って公立校だよな。こんな特別扱いってあり得るのか?
触れちゃいけないことなのかもしれないから、この件に関して聞くのは止めにしよう。心の中で『触れるな危険!』と肝に銘じる。
「それで、まずは黒原様の詳しいお話でしたわね」
「あーっと! そ・の・前・に・っ!」
いよいよ藍澤さんが話し出そうとしたその時、突如、千堂さんが割り込み水を差す。なんだ?
「輝っち、そろそるうちんらのことも、美玖っちみたく名前で呼ばね?」
確かにダンジョン以外では未だ苗字予備だ。
「確かにそうですわね。既にわたくしたちの関係は、かしこまる関係ではございません」
藍澤さんにも詰められた……。
呼び名かぁ。美玖とは付き合いが長いからなんだけど、特にかしこまってるって訳じゃなく、単純に名前で呼ぶのが恥ずかしいだけなんだけどね……。
「颯希さん、玲さん」
「いやいや、そこは軽傷なしっしょ!」
あうっ。
「颯希っ! 玲っ!」
「しょっしゃ! これからはそれで」
「よろしくお願いいたしますわ」
名前の呼び捨てが確定した。
でも、玲のみんなに対して様付けは良いのか聞いたところ、誰に対してもなので問題ないとのこと……。何とも腑に落ちないけど、まあ不問にしておこう。
「それで、黒原様の会社に起きた出来事でしたか……。博士様のお話以上のことは余りございませんが、優遇ランクが下がったことに関していえば、川越ダンジョンまつり後、すぐに臨時役員会が実施され、即日、採点ランクへと引き下げられた旨を、関係各所には通達しました。そのため、弊社の関連会社……というよりは、日本国内の正規取扱店からは、高位のスキルジュエル購入は、ほぼ不可能になるかと思われます」
な、なるほど……。まあ、ダンジョンのアイザワ後継者の命を危険にさらした責任は、むしろその程度で治まったのはラッキーだったといえよう。
個人的には、はっきりと意趣返しをしたいとは思ってんだけどな。
「それじゃ、あの実力で頭打ちって感じになるのか……」
「だね! 私たちの頑張り次第ってところはあるけど、私たちが順調に経験を積んでいけば、あいつらなんて足元にも及ばなくなると思うよ」
丁寧に説明している美玖だけど、内に秘める怒りの感情が垣間見える。美玖にそこまで言わせる黒原って、どれだけ人望がないんだか。
情報的にはオレの想定内だったので、そろそろオレの相談ごとへ話を進めようか。
「まあ、黒原達のことは当面放置ってことで、オレの相談っていうのは……」
黒原達の話から、話の内容が変わったことで三人の集中力が変わる。このギャップで、あいつらの存在価値の低さが分かる。
「みんなのスケジュールが合えば、週末から川越ダンジョン踏破を目指して、川越ダンジョンに入ろうと考えてるんだ。そこで今週中にはオレたち全員、ダンジョンまつりで入手したスキルを割り振って、スキルアップを考えているんだけど、それについてみんなの意思を聞いてみたい」
その話を聞いた三人は即座に思慮を巡らせ、美玖、颯希、玲たちはすぐに返答する。
「良いと思う」「いいんじゃね?」「異存ございません」
満場一致であっさり確定。同意を得られたので、オレが考えているスキル操作のスケジュール感を説明していく。
川越ダンジョンで獲得したスキルはまあまあ多いため、今日からスキル操作を次の順で行うことを考えている。
・(火)の放課後 玲
・(水)の放課後 颯希
・(木)の放課後 玲
・(金)の放課後 玲
・(金)の0時 美玖
「玲ちゃんは三日に分かれてるんだね」
「今回、スキルアップの最大の目的は玲の強化なんだ。今後はダンジョンの下層に向かうようになるので、最低でもムリなくヒールスパイダーを討伐するレベルまでは引き上げたいって考えてるんだよね」
一日ごとのスキル割り振りを追加で説明する。説明した内容はこんな感じ。
・(火)の放課後 玲【攻撃+5】
・(水)の放課後 颯希【攻撃+5】
・(木)の放課後 玲【攻撃+1】【闇+2】×2
・(金)の放課後 玲【聖+2】
・(金)の0時 美玖【攻撃+5】
・誰かの時にオレ【攻撃+5】
帰宅後12時を回ったら、美玖と【攻撃+5】のスキル操作を行う。
翌日ダンジョンに行くことを考えると、負担的には最後の時間帯は玲がいいんだけど、さすがに深夜に合流は体裁がさすがに悪い。
颯希、玲、美玖の三人全員からともにこのスケジュール感で了承が得られたので、今日の放課後から早速開始だ。
玲のスキル
ので、このスケジュールで本当は
翌日朝6時に藍澤さんが迎えに来るというスケジュールに決めた。これなら、ある程度負担は軽減できるだろう。
なるほど。じゃあ、その返答を前提にさらに深堀していく。
「そういえば輝は昼食食べないの? そろそろお昼休憩終わっちゃうけど」
なにっ! 話に夢中で食べるのをすっかり忘れていたよ。三人の周りを見ると、それぞれ持参したお弁当やサンドイッチなどなどが、すでに食べ終わっている。
オレはポケットに入れたラップにくるまれたおにぎりを二つ取り出して、急いで食べ出す。ポケットに入れっぱなしだったため、若干形が悪いが味には支障なし! そして中身は安定の梅! サイコー。
ほんの数分で二つのおにぎりを胃袋に流し込み、三人と共に教室へ戻ることにする。今週はへ実から少しハードになるなぁと思いつつ……。




