050:方針転換
ブリーフィングルームには、黄昏の月のメンバー四名、アイさん、その他スタッフ数名が集まっている。その他スタッフと思われるメンバーは、いつものアイさんに近い服装なので、おそらくはセキュリティの人たちなんだろうか。
あとは……何故か自分らが座っている席の対面中央辺りに、藍澤さんのインターン先リーダーの上杉さんが、主役然と着席している。
千堂さんの指導者だからなんだろうけど、面識がないオレとしては釈然としないな。
まあ、いいか。とりあえずは……。
「皆さん、今日は救援を頂いてありがとうございました」
「聞いたよ。輝君と玲君は、相当追い詰められていたみたいだね」
「どうしてそれを!?」
「どうしてって、復帰したドローンが全て配信していたからね」
ガチか……。
ってことは、逃げまどいながらのあの退却戦は、リアタイ配信されてワールドワイドで共有されてしまったってことかよ。うううぅ……ん。超ハズイ……。
とにかく気を取り直し、これまでの後悔と反省を踏まえて、次のステップに向けてどのようなことを実践するか、オレはパーティーメンバーに向けて語り始める。
「まずは、みんなゴメン! オレの認識の甘さで、危険な目に遭わせてしまった」
オレは今回、川越ダンジョンまつりで対象になっていた階層を探索する上で、メンバーが所持しているスキルなら最低限問題ない、むしろ多少の余裕があると判断していた。
ところが、ヒールスパイダーの出現というイレギュラーにより、それは破綻してしまう。
開口一番、謝罪から始まったオレの言葉に全員が目を丸くして固まっていたが、その言葉にいち早くアイさんが反応する。
「認識の甘さ……というよりは、経験不足が大きいのではないでしょうか。あ、責めているわけではございません。ヒールスパイダーの出現というイレギュラーに対して、輝様の対応は見事だったと言えます。強いて言うなら……」
少し言いよどむアイさんに変わり、藍澤さんのインターン先リーダーの上杉さんが話を続ける。どうやらこの人は、いい意味で空気が読めない人のようで、思ったことをズバズバ言う人らしい。
最初に口を開かなかったのは、オレとの関係が薄いため気を使ったのかもしれない。
「たしか輝君と黒原君と言ったか、岩を爆破し落下させていた彼とは、少なからず確執があったと聞いている。それにもかかわらず、沼田君や赤城サンブレイクのメンバーと同等に扱ってしまった。もう少し経験があり状況を俯瞰で見れれば、対魔物との対応に加え、対人に対しても考慮できたんじゃないかな」
どうだったかな。あのときは生き残ることとメンバーを守ることに必死で、確かに黒原の悪意に対して用心しきれていたとは言えない。
「そうかもしれません……。ただ、パーティーメンバーを危ない目に合わせたのも事実なので……」
「それよりも、あいつらの行為に対して、処罰することは出来ないのかな」
どう考えても、わざと生き埋めになるタイミングで落石させた黒原の行為に、美玖荒ぶる。いや、美玖だけではなく、この場にいる全員が思うところがあるようだ。まあ、当然か。
「ただ、落石を起こすタイミングで、周囲で配信を行っていたドローンが機能不全になり、証拠となる動画が撮影されていないため、犯罪行為の立証は難しいかも知れません」
アイさんは自分のおでこに指を当てながら、諦めの表情を浮かべながら、証拠を集めることが難しい旨を説明する。
……ん? そういえば、あの瞬間もオレが使用していた私物ドローンは稼働していたはず。
「アイさん、もしかしたら私物で使用していたドローンに、何か証拠になる物が移ってるかもしれません!」
オレは、今回使用したドローンからメモリーカードを取り出して、アイさんへと渡す。
「では、お預かりします」
「ただ、このデータで無理に断罪する必要はないですよね」
メモリーカードを渡しながら、オレの考えを伝える。オレの考えはこうだ。
『ダンジョンのアイザ』ワの令嬢である藍澤さんに対して、あれだけのことをしでかした黒原。リアルタイムでその状況の映像が流されたわけではないが、情報として全国放送されてしまっている。
ダンジョンでドロップしたアイテムの流通を担っている『ダンジョンのアイザワ』を敵に回すということがどういうことか。
早ければ数日、遅くとも一ヶ月以内には、その影響を痛感することになるだろう。
「黒原達は、遅くとも年内には実感することになるでしょうね」
「確かにそうかもしれませんね」
とりあえず、今回得た情報の交換を終えた。これくらいで共有する情報はないかな。そんなことを考えているとアイさんからねぎらいの言葉。
「みなさん、本日はお疲れ様でした。少しイレギュラーというか不測の事態がございましたが、隣室にお食事をご用意しております。食後にお送り致しますので、しばらくおくつろぎください」
これまでの緊張から、すっかり食事をしていないことに気づき、一気に空腹感が襲ってきた。なんか助かるなー。しかも、隔離されたスペースで他人の目を気にしないで済むので、非常にリラックスできる。
超うまそうなローストビーフを中心に腹いっぱい食し、大満足で帰路につくのであった。




