038:B1階攻略
遅くなりました!
お楽しみいただければ幸いです!
戦闘音らしき音が聞こえてくる方角から『深淵のベルーガ』は左ルートを選んだと判断したオレ達は、右ルートを選択した。右ルートは左ルートに比べて若干距離が短くなるので、まっとうにルートを辿れば次の階層からはオレ達のチームの方が先行することになる。
B3に出現する魔物のことを考えると、B2で少し魔物討伐数を稼いだ方がいいかもしれないな。
「B1突入前に、この階層の攻略概要を伝えます」
「あ、ちょい待って!」
概略を伝えようとしたところ、アネゴが挙手して話を遮られた。さくっと伝えて進みたかったんだけどな……。
「ヒカルっち、怖い顔になってる〜。急ぎたいのは分かるけど、そのためにも敬語止めない?」
「うっ……」
確かに。内容を短く説明すると命令っぽくなるから、無意識に『です・ます調』になっていたよ。端的に意思を伝えることの方が重要だよな。
今までも端的に伝えたこともあったはずだから、迷いがあると『です・ます調』になっていたとかか? とにかく意識して伝達するようにしよう。
「では、あらためて。B1攻略の概要。B2までの最短ルートを取りつつ、分岐通路は攻略。最終分岐地点は、到着時に別途判断。移動フォーメーションはBで移動し、ホブゴブリン遭遇時の初劇は、必ずオレが担当する」
「「「了」」」
この階層から出現するホブゴブリンは耐久度が高いため、現状の武器では一撃での討伐は難しい。なので、オレが先頭で左右にミク、アネゴ、後方にヒメが配置するフォーメーションであるパターンBで移動し、ホブゴブリン遭遇時には、オレが初撃でグレネード散弾をぶちかましてから、ミクとアネゴにトドメを任せる戦闘を想定した布陣で移動を開始する。
東の方角へ緩やかに曲がる通路を20メートルほど進んでいくと、ゴブリンにしては低音の鳴き声が聞こえる。数匹が声を出しているようなので、何かのコミュニケーションを取っているのかもしれない。もしかして、こちらの気配に気付いているのか?
後続のメンバーに手で停止のサインを送ったあと、警戒しながらオレが先行して先の様子を伺うと、ホブゴブリン四匹を発見する。ホブゴブリンたちは、まだこちらを完全には把握していないようだが、気配は感じ取っているようで少し警戒している感じだ。
オレは先行して、四匹のホブゴブリン共が認識できる位置に素早く移動し、その場で片膝を地面に付き、安定させた状態で四匹並ぶホブゴブリンの中心に向けて、グレネード型散弾を発射すると、散弾はまんべんなくホブゴブリンに命中したようで、四匹とも若干ノックバックを起こしひるんだ状態で後退する。
今までの魔物とは違い耐久度が高いため、初撃だけでは倒すことはできなかったが、それなりのダメージは与えたようで、血は飛び散り部位欠損等は発生していて、片目がつぶされたり手首が飛ばされたりと、かなりホラーな状況が目の前に広がってるんだが……。
あっ! これから追撃するはずのミクやアネゴは、この状況を受け入れられるのか? なんて考える間もなく、オレの後方の両側から射撃音が響き渡り、ダメージを受けて動きが鈍くなったホブゴブリンは、ミクとアネゴの正確な攻撃で次々に討伐されていき、更なるホラーな状況が繰り広げられていき、あっという間に最後に残ったホブゴブリンも危なげなく討伐する。
「何かビミョー」
「もっと手強いと思ったわね。ヒカル、この魔物ってホブゴブリンで間違いないよね」
「あはは……」
ホブゴブリンって、もう少し手強いはずなんだけどな。初撃でのグレネード型散弾の効果もしかり、正確に狙える飛び道具の効果は、思いのほか大きいのかもしれないな。
ホブゴブリンの討伐後を確認すると、そこには【魔石+1】×2個【魔石+2】×2個が二つづつドロップしていた。稀に【攻撃+1】か【攻撃+2】のスキルジュエルがドロップするらしいけど、何故かドロップしないことにホッとしているオレがいる……。
ホブゴブリンからドロップした魔石を回収し、下層方向への移動を再開する。
そこから20〜25メートルほど進むと、右側……つまりは西方向に進む分岐地点に到達した。この分岐先は行き止まりになるが、ここまで川越ダンジョンを踏破してみて、魔物の生息ががいると予想できるので、迷わず分岐した方向へと進んでいく。
分岐からわずかな距離を進んだ時点で、何やら物音が聞こえてくる。やはり予想通り魔物がいるようだが、どうも今までとは様子が違い、ゴブリンとグレイウルフが争っているような物音がする。
こそっと覗くようにゆっくりと進んでいくと、最奥辺りでグレイウルフ2体とゴブリン4体とで戦闘が繰り広げられている。このまま同士討ちをするまで待機したとして、ドロップ品とか出るのか? いや、そもそも時間的にも討伐数取得数的にも無駄がすぎるな。
「ヒメ、魔物にスロウ、味方にプロテクションを!」
「承知……スロウ……プロテクション・オール」
オレの指示に、ヒメは間髪入れずにスロウとプロテクション・オールを唱え、敵のスピードを削ぎ、オレたちの防御力を同時に上げる。さすがヒメだ!
すかさずオレは先行して、全体が視認できる位置まで移動し、その場で膝撃ちでグレネード型散弾を発射する。
散弾が命中した魔物たちは、命中した時点で吹き飛ばされるが討伐までは至らないが、それは想定通り。
吹き飛ばされた魔物たちは、その場から順次立ち上がりこちらへと向かおうとしているけど、ヒメが唱えたスロウの効果で、非常にゆったりとこちらへと襲い掛かってくるけど、もはや的にしかならない状態だ。
ミクとアネゴは、当然その魔物たちを順次丁寧に討伐させていく……。そうだ。せっかくスロウが掛かっていて狙い射すくなってるから、アネゴの銃のフロントのスパイクを実践してもらうか。
最後の一体になった時、アネゴに声を掛ける。
「アネゴ! 最後の一体にスパイクで攻撃っ!」
「り、了」
オレの声に反応して、アネゴが最後に生き残ったゴブリンへとダッシュで近づいていき、ゴブリンの頭部にフロントのスパイク部分を突き刺すように殴りつける。
その瞬間『ドンッ!』と鈍い音と共に、フロント部分がゴブリンの頭部に突き刺さったかと思った瞬間、その反動で耳障りな叫び声と共に、血しぶきと共にゴブリンは弾き飛ばされる。
う、うわー、エッグッ……。
アネゴに渡した武器のスパイク攻撃って、こんな感じになるのか。
その状況に、さすがのアネゴも目を細めている。
「ヒカルっち、これはさすがにホラーだわ。遊園地でゾンビを倒しまくる映画思い出した……」
あー、あの映画か。何かの台の上にマガジンを並べて迎え撃つシーンはワクワクしたな。
余談はさておき、新たに試したかったスパイク攻撃をす国ともできたので、満足げに元来た分岐まで戻り、自層へ降りるための階段へと向かう。
ただ、途中でもう一ヵ所分岐があるんだよな。
スルーするか、そちらへも足を向けるのか、考えどころだな……。




