003:ダンジョンの日常と誕生秘話
話は少しさかのぼる。
今から約十年前。世界規模で大地震が発生した。
地震の規模は各地で多少の誤差はあったものの、そのエネルギー量はマグニチュード7〜9ほどで、世界各地で震災被害に見舞われ、後にこの大地震は「第一次ダンジョン大震災」と呼ばれるようになる。
ただ幸運にも、オレたち家族が住んでいる埼玉県周辺の最大震度は五強程度で、大きな揺れではあったものの、命にかかわるような致命的な被害はほとんどなかったそうだ。
それよりも問題だったのはこの地震の原因だ。
本来の地震はプレートのずれや火山活動で起きるんだけど、今回の地震の原因はそれとはまったく違い、なんとダンジョンなんて代物が発生するときのエネルギーによるものだったらしく、この日を境に世界は大きく変わっていく。
この日誕生したダンジョンは、確認されているだけでも世界中でおよそ四百箇所を超え、そこはまるでファンタジーゲームの世界さながらに、生息する魔物の討伐による素材確保やアイテムや鉱物やエネルギー元になる物資など、生活基盤の礎になるものが得ることができる空間だった。
地震の影響で衰退した各国は当然そこに注視し、ダンジョンで発掘に力を注ぐことになり、世界的に新たな市場として次第に大きなビジネスとなっていく。
ただ、ダンジョンがどんなものか分からないまま、ダンジョン探索者が増加していくため、実力が伴わない探索者がダンジョンへと赴き、命を落とすケースが増え続け、探索者の死亡率増加が社会問題になったため、それ以降はほとんどの国でダンジョン探索のガイドラインを構築するようになり、ようやく死亡率は減少へ推移し、安定した運用へ転じることになる。
それから約十年……。
ライセンス取得制度が世界基準として導入された現在、日本では、数年前に編成されたダンジョン省の管轄でダンジョンは管理下に置かれ、国内ダンジョンの運営維持を一手に担い、ランクによる探索ダンジョンの入場管理、基礎知識や危険性の徹底指導で、世界一安全かつ収益率の高さを誇り、日本で構築したダンジョン運営ガイドラインは、今では世界基準とされているまで信用度が高いものになっている。
そしてダンジョン省は次なる一手として、日本国内ではダンジョン探索は成人するまでライセンスが発行されていなかったルールを、今後の探索者数の底上げと優秀な人材の育成と確保を目的として、来年度からはダンジョンインターン制度を設けて、従来はダンジョン探索者登録をすると発行されるD-ライセンスはEランクだったが、新たにFランクが新設されて、ダンジョン省で認可された高等学校で基準を満たした生徒であれば、『未成年ダンジョン入場ガイドライン』に基づきFランクのD-ライセンスが発行され、一部のダンジョンへの探索が認められることになる。
その制度は、翌年高校へと進学するオレの人生も、大きく変えることになっていく……。
☆☆☆
翌年……。
埼玉県南西部の国道線沿いにある赤陵高等学校。今期からダンジョンインターン制度が導入された高校だ。
その高校に通うようになって約二ヵ月。オレはほぼ毎日、早朝と放課後にダンジョン部の部活動として、ダンジョン探索活動を行っている。
実はこの高校、滑り込みでダンジョンインターン制度導入校に認定された経緯があるんだよね。
ダンジョンインターン制度の導入が可能な高校の条件の一つに『5キロ圏内に1レベル以下のダンジョンが存在』というのがあって、この辺りにダンジョンは存在しないため本校はインターン制度導入の対象校じゃなかった。
ところが、インターン制度受入れ校の最終選出が行われる直前に、本校近辺を震源地とする地震が発生して、赤陵高校から二キロも離れていない神社にダンジョンが爆誕してしまう。
そのダンジョンを調査したところ、他のダンジョンに比べても脆弱で、出現する魔物、ドロップする魔石のラングが異様に低く、レベル1にも満たないダンジョンと判断され、前代未聞の評価で『レベル0』とランク付けされたんだけど、インターン制度導入条件と合致したため、晴れてインターン制度導入校として認可される。
ちなみに『レベル0』ダンジョンが見つかる前に決められた、各ランクのダンジョンに入るために必要なライセンスと必須のパーティー人数はこんな感じだった。
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ダンジョンランク D-ライセンス(パーティー人数) 未成年参加時
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ランクA(レベル5) → Aライセンス(6人以上) (参加不可)
ランクB(レベル4) → Bライセンス(5人以上) (参加不可)
ランクC(レベル3) → Cライセンス(4人以上) (参加不可)
ランクD(レベル2) → Dライセンス(3人以上) (4名以上)
ランクE(レベル1) → Eライセンス(2人以上) (3名以上)
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パーティー内に一人、入りたい対象のランクに必要なライセンス所持者がいれば、そのダンジョンへ入ることができるので、例えばランクAダンジョンに入るためには、A-ライセンス所持者が一人いれば入ることが可能、但し未成年は不可という条件だった。
ランクとレベルが混在しているのは、元々ダンジョンの難易度はレベルで分類されていたのが、ライセンス制度を導入した時にどのダンジョンが妥当か直観的に分かるようにランク制が導入されたが、いずれは統一されるそうだ。
そして今回、レベル0ダンジョンの誕生で、新たなライセンスとランクの条件が一つ追加されることになる。
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ダンジョンランク D-ライセンス(パーティー人数) 未成年参加時
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ランクF(レベル0) → Fライセンス(1人以上) (2名以上)
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ダンジョン省は、この最底辺レベルのダンジョンを、非常に安全なダンジョンという認識で、成人であればパーティーを組まずに探索が可能なダンジョンに設定することで、安全により多く参加を促しダンジョン探索をさらに活性化できるのではと考え、底辺ランクとライセンスを導入したんだけど、そもそもダンジョン探索の目的は、なるべく高ランクのアイテムや魔石を入手することなのだが、探索者からするとダンジョンの期待値が非常に低く、ダンジョン省の狙いとは裏腹で、今のところ全く効果が出ていない。
オレ自身は安全かつ生活の足しになればというスタンスなので、マイペースでダンジョン活動が出来るこの不人気ダンジョンは、オレにとっては割と高都合なんだけどね。
てなわけで放課後、今日もいつも通りダンジョンへ向かう前に、ダンジョンオターズに声を掛けてみる。
「博士。今日のダンジョン情報で、何か変わったことある?」
「特にはございません。新たな資源もこの地域では一切なし。大きな事件や事故も発生していない模様」
おお、相変わらず情報が細やか。さすが博士。
「オニクくんの方は何か情報ある?」
「新たな食材情報もナッシング」
博士とオニクくんはダンジョン情報大好きペア。ダンジョン探索に役立つ情報をキャッチするのがうまいので、ダンジョンに行く前には必ず情報交換をしている。レベルゼロダンジョンで発生する問題なんて今のところ起きたことはないけど、まあ念のために、ダンジョンへ行く前には必ず何か情報がないか聞いている。、陰キャに徹するオレが唯一積極的にコミュを取る二人だ。
ちなみに博士くんは痩せ眼鏡で見たままのイメージから、オニクくんは食べるの大好きで身体に人より多めに肉を纏ってるからオレが付けたあだ名。まあ、見たまんま。
「了解。じゃあ、今日も行ってくるよ」
「「いってら~」」
陰キャに徹するのは平和でいいね。
ほとんどのクラスメートからは空気扱いなので、ほぼほぼストレスフリーでダンジョン探索は順調に進めている……。たった一人を除いてだが。
そいつの名は黒原 久須夫。何かにつけてオレにウザがらみしてくる。その理由は明確で、オレの幼馴染でありパーティーメンバーの美玖を何とか自分のパーティーに入れようと画策しているからだ。本当にウザいことこの上ないが、今日はすでに教室からいなくなっているので、サクッと部室へ到着した。
早速にダンジョンへ向かうべく準備をしながら、パーティーメンバーの到着を待つとするか。といっても、今日来る人物もほぼ一人確定なんだけなんだけどね。
とりあえずパーティーメンバー到着までに準備を済まそう。
ブラックカラーのつなぎを着込んでから、米軍払い下げのボディアーマー、両腕と両足にはオフロード用のプロテクター、ハイカット仕様のコンバットブーツをテンポよく装着していく。他のダンジョンだったら少し心許ない装備だけど、レベル0の脆弱ダンジョンならこれで十分。
足元だけは少しこだわり、コンバットブーツだけは若干値段は張ったけど、両腕と両足に着けたプロテクターは、セットで千円もしなかった。大型通販サイト恐るべし。
一通り準備が終わるころ、まるでタイミングを見計らったように、慌ただしい足音が部室へ近づいてくる。これってもはや確信犯だよね。
バンっと勢いよく部室の扉が開かれると、薄汚れてジメジメした部室とはまるで場違いの、明るく爽やかな声が響き渡る。
「輝、おまたせー」
部室に飛び込んできたのは幼馴染の美玖。
百五十センチも満たない身長とは裏腹に、高一にしてDカップまで育ったバストを、多分意識的に揺らしながら部室内に入ってくる。ここまでは確定演出通りの登場だ。
しかも、学校指定のジャージのジッパーを胸元まで下げているので、百七十五センチあるオレからは、見事にのぞき込む形なわけで、見事な谷間を前にオレの合法ロリセンサーは作動する……。いや……美玖はまだ成人していないから、合法じゃないのか? それともオレも未成年だからセーフなのか?
そんなどうしようもないことを考えながら、胸の谷間に視線は釘付け状態。でも、これって推定無罪でしょ。これまでかってほどプルプル揺すりながら近づいてくるんだから、ほぼ百二十パーセント視線はそこに注がれるってーの。
「あー、輝のエッチぃ!」
視線に気付いた振りをする美玖は、自分の胸元の前でわざとらしく腕をクロスさせて、頬をぷぅっと膨らませる。確信犯的に可愛く見せるポーズ。
「み、み、み、見てねーし」
「ぷっ。動揺しすぎ」
「ど、ど、ど、動揺もしてねーし!」
視線をわざとらしく横へと反らし、すでに調整済みのコンバットブーツの紐を調整する振りをするためしゃがみ込む。ただ顔は熱く火照ってるのを感じるので、おそらく耳も真っ赤。
「そ、それで、千堂さんと藍澤さんは今日も来ないって?」
「うん、来ないみたい。流石にあのダンジョンじゃね……。川越ダンジョン辺りに行く時には声かけてーだってさ」
千堂さんと藍澤さんはオレたちのパーティーメンバー。一応オレ達は美玖を含め四人でパーティーを組んでいる。
ダンジョン部の部活動を行う際、必ず四名以上のパーティーを組むことが必須条件なんだけど、陰キャのオレにはその伝手が極端に少なく、とてもメンバーを集められる術を持たないため、見かねた美玖が友達に声を掛けてパーティーメンバーになってくれたのが、千堂颯希さんと藍澤玲さんの二人だった。
この二人は、本校指定のダンジョンではあまりにもランクが低く物足りないため、千堂さんは所沢ダンジョンのチーム、藍澤さんは川越ダンジョンのチームに、大人のダンジョンパーティーに参加し、そこを主戦場にしているそうだ。
二人共、オレとは違い複数のスキルを所持していて、本校の生徒の中ではかなりの実力者。本校ではイレギュラーな存在だ。未だに最低ランクであるFライセンスのオレとは違い、高校入学からほんのわずかな期間でEライセンスまで駆け上り、入学して二ヵ月でDライセンスにも後わずかで手が届くところまで到達したらしい。
美玖と親友ということで校内では同じパーティーとして結成したけど、オレの実力を上げない限り、いつまでパーティー関係が続くのかわからない状態だ。
ちなみに美玖自身は、今のところダンジョン攻略には全く興味がない。オレが一人でダンジョンに入るのが心配だから同行しているだけで、ライセンス上げにも全くの無頓着なんだよね。
せっかく、すごくいいスキルを持っているのにな……。まあ、そのおかげで、ダンジョン探索時には背中を安心して任せられるんだけど、これといったスキルを持たないオレと、美玖達高スキル持ち三人が同じパーティーを組んでいることで、パーティー外からは、寄生虫とか、弱みを握って脅迫しているとか、揶揄ややっかみの陰口を叩かれているのは、なんとも心苦しい限りだ。
「そろそろ行く?」
「そうだな」
そういいながら、オレは頭部保護のスケボー用ヘルメットを被り、武器を収納したバックを背負う。
このバックの中には、いつもダンジョンで使用しているバチツルタイプのつるはしの他に、お試しでカスタマイズした武器が入っている。今回、初お目見えの秘密兵器が魔物に大してどこまで通用するかお楽しみってやつだ。ダンジョン攻略には少なからず貢献してくれるはずと心の中でわくわくしながら、美玖と二人で駐輪場へと向かうことにした。
しかし、ジャージ姿の美玖とフル装備のオレとが並ぶと場違い感がハンパないな……。
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