017:反省会と祭りの詳細
ダンジョンのアイザワが所有しているブリーフィングルームは非常に広く、四十人くらいが余裕でミーティングができそうなスペースがあり、百インチくらいの大きさのモニターも設置されている。
このモニターを見て、オレは映画を観たら爽快だなーと無粋な想像が一番に思い浮かんでしまう。
そういえば、反省会ってどんなことをやればいいんだろうか。なんか超緊張する。特にアイさんの目つきは、オレのことを値踏みしているような鋭い視線を感じるんだよな。
「きょ、今日はお疲れ様。反省会というか、パーティー初のダンジョン活動で感じたことを、みんなで共有したいと思います。まず、千堂さんと藍澤さんは申し分ないというか、今までダンジョンでの経験はオレよりも遥かにあるので、むしろ今後も参考にさせてもらおうと……」
「あはっ、敬語ウケるー。まあ盗んで盗んでっ!」
軽やかに意見交換を進める横で、少し浮かない表情の美玖。突進してくるゴブリンに焦って攻撃に失敗したことを気にしているっぽい。ほぼ初と言える戦闘で、あれだけ動ければ十分だと思うんだけどな……。
「それと、本格的な戦闘を初経験した美玖も、初とは思えない活躍だったよ」
「……私、ゴブリンが向かってきたときすごく焦っちゃって……」
ゴブリンが向かってきた時に心拍数が上がって、弾を外してさらに上昇したんだろうな。そうなったら、とても平常心ではいられないはずだから、あの結果はしかたがない。むしろ、そのあとそこでフォローできたチーム状況を誇るべきだ。とはいえ、今それを言っても美玖はピンとこないだろうなぁ。
「これから経験を重ねて、動じないように慣れていこう」
「うん」
「動じないといえば、輝様は初めてのリーダーとは思えないほどでしたわ。イレギュラーに対しても冷静に対処されておりましたし」
「だねだねー。低階層とはいえ命が狙われるなんてそうそうない経験だし、冷静に対応できたんじゃん?」
たしかにな。まさか、初の本格始動で待ち伏せに遭うとはな。しかしいったい誰が……。
「襲撃者については、わたくしどものセキュリティーガードが情報をまとめているようなので、それまでは引き続きブリーフィングをなさりませんか」
おお! 藍澤さんのセキュリティーガードが優秀過ぎるんだが。情報をまとめてるってことは、それなりの情報量があるってことか。
「では再開しましょう。今年参加を予定している『川越ダンジョンまつり』について説明します」
「それそれ、気になってたんだよね。川越まつりとは違うの?」
川越まつりは、毎年十月末に行われる関東三大祭の一つで、江戸時代から川越の特色を加えながら常に進化を続けてきたお祭りなんだけど、川越を盛り上げる一環として、五年前からは川越まつりの時期に併せて川越ダンジョンでもイベントを開催するようになった。
それが川越ダンジョンまつりで、近隣に本社を構える『ダンジョンのアイザワ』はそのイベントに協賛として名を連ねていて、このダンジョンで優秀な成績を残すことができれば『ダンジョンのアイザワ』とスポンサー契約を結ぶことができる。
それが最大の特典だ。
「ざっくりと説明するとそんな感じ。そのイベントに今年度から学生部門が追加されたので、学生部門に参加しようと思ってるんだよね」
「なるほど……。でも、私と輝でも実力的に大丈夫なのかな」
確かに【スキル操作】を手に入れる前なら、美玖が心配するまでもなく絶対参加しなかったかな。
「美玖、その心配は無用だよ。今現在の美玖の実力は、千堂さんに肩を並べるほどあると思うよ。あ……オレはそこまでの実力はないけど、半分に届くくらいはあると思う」
「輝っち、それは謙遜しすぎ。リーダーとしては百点あげちゃうよ」
「そうですわね」
わおっ! 驚くほどの高評価。おもわず顔の筋肉が緩んじゃったよ。
「輝っち、今の顔キモっ」
「だね」
ひどっ! 誰がそうさせたって叫びたい。
「ま、まあ、美玖の実力的には問題ないので、あとは経験を積み重ねていこう。というわけなので、千堂さんと藍澤さんも週末は出来る限り川越ダンジョンに付き合ってほしい」
「りょ!」
「問題ございません」
よかった。これなら川越ダンジョンまつりまでに、連携強化にも尽力できそうだ。チームに藍澤さんが所属しているのに、ハンパな成績ってわけにいかないしな。
「皆様、ブリーフィング途中に失礼いたします」
ちょうどいいタイミングで、アイさんから声を掛けられた。あまりにもいいタイミングなので、このt気を見計らっていたのかもしれない。
「先ほど、襲撃者の情報がまとまったようです。襲撃者と思われる一味の動画を、そちらのモニターで再生いたします」
オレ達メンバーがモニターを注視すると、電源が入り動画が再生される。
オレ達の車がダンジョンの駐車場に到着し、ビルに入った後に到着した車の様子。
その車から出てきた人物達がダンジョンへと向かう様子。
オレが襲撃されダンジョンから撤退後、怪我人と共にダンジョンから出てくるパーティーが、車に乗り立ち去っていく様子。
そこには、黒原の姿が鮮明に映し出されていた。
「黒原……あいつ、そこまでやるのかよ……」
「襲撃した者たちは、同級生がインターンとして所属するチームで間違いないようです。怪我をしていた人物は、そのチームのリーダーをしている鈴高という男ですね。メインウェポンにクロスボウを使用しているので、天真様を狙ったのは高確率でこの男と思われます」
「ずいぶん詳細を掴めたんですね。情報ありがとうございます」
オレ達が到着する前から、セキュリティーガードのみんなはオレ達……というより、藍澤さんの安全を見守るため監視していたんだろうか。これからもダンジョン活動を共にするなら、もう少し安全面とか考えないといけないかもな。
「ただ、残念ながらダンジョン内の出来事なので、この程度の情報では彼らに罪を問うことができません。申し訳ございません」
「え、あ、いえいえ。アイさんに頭を下げて貰うことではありません。むしろ、ここまで証拠がそろっているなら、次からは具体的に警戒できるので助かります!」
「そのお言葉、いたみいります」
綺麗なお辞儀で感謝された。いやー、むしろ恐れ多いんだけど。
今回の教訓として、彼らのチームはより警戒を強め、藍澤さん陣営では警戒、監視を強めるってことで今日のところは落ち着いた。
ただ、今後のことを考えると、ダンジョンで襲撃されるような状況に対応したいとみんなに話すと、藍澤さんから良い情報を得られた。
「それでしたら【気配察知】等のスキルで補えるのではないでしょうか」
なるほど。戦闘系スキルばかりに目を向けていたけど、そういったサポート系を強化して先手を取るのはありだな。
「天真様。【ダンジョンのアイザワ】新狭山店に【気配察知+1】が二つほど在庫がありましたので、取り急ぎ取り置きいたしました。もし御入用でしたら店頭でお声がけいただければ幸いです」
アイさん、なんて仕事が早いんだ。帰りに、駅前の『ダンジョンのアイザワ』に寄らせてもらいますとも!
ブリーフィング終了後、新狭山駅前まで送ってもらい、解散後オレは【ダンジョンのアイザワ】新狭山店へ赴き、取り置きしてもらった【気配察知+1】を二つとも購入して帰路についた。




