011:パーティーメンバー招集
「おはようっす!」
「おう、輝。今朝も頼むぞ」
翌朝、入手後に使用したスキルを試すべく、登校前に神条ダンジョンに到着すると、今朝は残念ながらメグミ姉さんではなく、父親でもある神条ダンジョンの神主が迎えてくれる。
神主さんとの遭遇が朝で助かった。もし午後に遭遇すると、時間に余裕があるためかダンジョン入り前に説教というかアドバイスというか、色々とためになる話を小一時間ほど強制的に聞かされるんだけど、さすがに朝はすんなりとダンジョンへと送り出される。
いつもは日課にしている魔物討伐を保留にして、今朝は昨日入手したスキルの効果実証だ。
ダンジョンに入り、昨日新たに入手したスキル【異空間操作+1】を試してみる。
☆
実はこのスキルは、昨日入手後に早々使用し、自宅でも一度試してみた。
スキル名からアイテムボックス的なものを予想していたんだけど、予想とは若干違い、今いる場所と違う空間に、別な部屋を作り出すスキルだったようだ。
その空間の大きさはおおよそ六畳程度で、そこへは様々な荷物が収納可能で、更に自分自身や自分が許可した人物もその中に入ることができた。ただ、その空間での滞在時間は制限時間があるようで、昨日試した時には三十分程度で強制的に出されてしまった。
今日は、ダンジョン内でも同様なのか試すため、異空間操作のスキルを使用してその空間の中へと自分の身体を委ねると、外で使用した時と同様に異空間へ入ることができた。
この空間では時間が停止するようなので、どれくらいの間滞在できるか、心の中で秒数を数えていくと、1800秒数えるタイミングで異空間から強制的に出されてしまった。そこで携帯端末の時間を確認すると、時間は経過していない。どうやらダンジョン外と同様に、異空間に入っている間は時間が経過せず、30分間で自動的に外へと出されることが分かった。
ダンジョン内での緊急時に、セーフルームとして役立ちそうだな……。
その後【攻撃+2】【防御+2】の効果も確認したんだけど、どうやらハンドガンの攻撃でも【攻撃+2】の効果が出ているようだ。ハムハムは元々一発命中しただけで倒せたんだけど、【攻撃+2】取得後の攻撃でベアリング弾がハムハムに命中した際、今までよりも派手にハムハムがはじけ飛んでいたので間違いない……と思う。
それよりも【攻撃+2】【防御+2】を手に入れ、オレも三名のパーティーメンバーと肩を並べられたことがうれしくて、常時ニヤけながらハムハムを倒し、スキルの効果を実感していたので、はた目で見たら相当やばい奴だったかもしれない。このダンジョンが不人気で、他に探索者がいなくてよかった。
全てのスキルを一通り確認したので、ジュエルボックスで見つけた隠し通路に再度穴を空け、奥の落とし穴に、吸収アイテムとして回収できることを祈りながらM92Fを落とし、今朝のダンジョン活動は終了とし登校した。
☆☆☆☆
その日の放課後、川越ダンジョンへ向かう打ち合わせをすべく、教室にはパーティーメンバーである美玖、颯希、玲の三人を招集した。
美玖一人なら気にも留めなかったんだけど、教室に学校内で最も魅力的とされる女性が三人集まると、陰キャのオレとしては緊張感から動揺が隠せない。っていうか、綺麗な女性が三人も揃うと、イイ匂いがして動悸がヤバい。
「や、やあ……、みんな来てくれてありがとうございます」
「ぷっ、輝っち緊張しすぎ。超ウケるー。もっと肩の力抜いていこ」
「は、はい……」
雰囲気を変えようと、颯希さんが軽い感じで突っ込んでくれてるんだけど、やっぱり美玖以外の女性の前だと緊張しちゃうんだよね。でも、一応オレがリーダーらしいんで、みんなと川越ダンジョンに行くんなら、オレが仕切らないとダメってことで美玖に仕切らされている……。
「えっと……近いうちに、うちのチームで川越ダンジョンに行きたいと思います。それで、その結果によっては、夏に行われる川越ダンジョン祭りにエントリーしようと思ってるんだけど、みんなの意見としてはどうでしょう」
「おっけー」
「そうですわね。わたくしも、そろそろこちらのパーティでの活動実績を欲していたところでしたし」
颯希さん、玲さんとも異存はないらしい。玲さんの活動実績ってなんだろう? 進学時の内申書とかに影響があるとか? そんなのあったっけ? まあ、いいか。
「では、皆さんの戦力を把握したいので、ステータスを見させてもらってもかまいませんか」
「ん? 輝。見せてもらうってどうゆうこと?」
「ああ……、この前【鑑定眼】ってスキルを手に入れたので、それで確認させてもらいます!」
「「「えっ!?」」」
三人ともに驚きの声を上げ、目を丸くして呆け顔でオレを見ている。ああ、そういえば鑑定眼を手に入れたってことを言うの忘れてたわ……。
「いつのまに手に入れたの!」
「えっと……。昨日にソロで……」
「一人でダンジョンに行くなんて信じらんない!」
おお……美玖に怒られちゃった。
「鑑定眼とは、どのようなスキルなのでしょうか。わたくし、そのようなスキルは聞いたことがございません」
やっぱ、気になっちゃうか。オレだってダンジョンで入手されている装備はそこそこ詳しいけど、昨日初めて知ったスキルだから初めて知ったスキルだからね。
「オレも使うのは初めてなんだけど、アイテムでも人でもそれなりに細かいステータスが分かるものです。オレがスキル操作を使用したときに確認できるステータスが、何もせずに確認できると認識してもらうのが近いかと思います」
うん、黙り込んでしまった。というか考え込んだ感じ? 質問はないようなので、しれっと進めちゃうかな。
「じゃ、じゃあ、みんなのステータスを、順番に見せてもらいます」
ぷんぷんしてる美玖をスルーして、鑑定眼のスキルで美玖のステータスを覗いてみる。
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名前 :紅月 美玖
レベル :3
年齢 :17
HP :61
MP :32
経験値 :165
未配能力値:0
筋力 :18
敏捷力 :22
耐久力 :18
知力 :16
判断力 :14
魅力 :18
運 :12
依存協調 :8
スキル :攻撃+3
:防御+3
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美玖の場合は数日前に一度見ていた時と、さほど変化はないかな……。経験値だけ、前回の120から135に上がっている。おそらくオレのサポートについてもらった時、ハムハムを何体か倒した結果だと思われる。
それと、前回なかったはずのステータス【依存協調】ってのが増えている。依存と強調? いったい何のステータスなのだろうか。
「輝、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。美玖はこの前とあまり変わらずで、経験値が15ほど上がったみたいだね」
「昨日ダンジョンで、ハムハムを数匹倒したからかも」
数匹? ハムハムの経験値って、確か一だった気がするんだけど、それだと計算が合わないと思い考え込んでいると、すかさず美玖が気付いたことを口にする。
「輝、あれじゃない? 【魔石LV2】をドロップしたハムハムがいたじゃない。そのハムハムの経験値が多かったとか」
「なるほど……それはあり得るか」
【依存協調】は少し気になるところだけど、今は保留にして千堂さんのスキルを見せてもらおう。
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名前 :千堂 颯希
レベル :4
年齢 :17
HP :24
MP :20
経験値 :300
未配能力値:40
筋力 :10
敏捷力 :16
耐久力 :12
知力 :10
判断力 :16
魅力 :18
運 :16
スキル :攻撃+3
:防御+3
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んー、やっぱり千堂さんには【依存協調】のスキルはないな。
美玖と千堂さんとの違いはなんだろうか……。スキル操作を行ったのが関係しているのかな?
千堂さんのダンジョン活動拠点は、たしか小手指ヶ原ダンジョンで、そこをメインに活動しているパーティーのインターンとして活動してるって言ってたな。
そこは、鉄道会社がスポンサードしているパーティーで、週末はそのパーティに帯同していると聞いている。かなりしっかりしたパーティらしいから、千堂さんもきっといい経験をさせてもらえてるんだろうな。
高校生探索者としての強さとしては申し分ない。
もし強化するとしたら、筋力強化で攻撃力の底上げか、敏捷力を上げて手数を増やすようにするのか……いやいや、ついスキル操作でどう強化するか考えてしまったけど、そもそもエッチしなきゃできない強化なんだから、それを使って千堂さんの強化するなんて考えるだけムダムダ……。
でも、一応思ったことのアドバイスくらいはしたほうがいいか。
千堂さんのステータスを紙に書き出して渡すと、まじまじと見ながら感心する。
「おお、これがあーしのステータスかっ!」
「ですです。これを元に千堂さんのスキルを強化するとしたら、敏捷力を意識しての強化がいいと思います」
「ホント? 私がインターンで参加してるパーティーリーダーの新田さんと、同じことを言ってる!」
「おおっ! さすが輝!!」
関心する千堂さんと美玖の二人から称賛の声を頂いた。だけど、すぐに顔を曇らせて千堂さんは話を続ける。
「ただ、敏捷をアップさせるスキルって、なかなかないんよね……。玲っちのお店に有ったりする?」
「たしかに思い当たりませんね……。ですが【二刀流】とか【二段突き】などの武技系スキルや、聖魔法のバフ系魔法で補うとかにすれば、千堂さんの敏捷性を活かす近道になるのではないでしょうか」
「ほー、目から鱗! それなら玲ッちのお店で見つけられそうな気がする。ね! 玲っち!!」
「+2以上では難しいかもしれませんが、+1のスキルでしたら、そう時間もかからずに揃えることは可能かと」
さすがはダンジョンのアイザワ令嬢だな。【二刀流】と【二段突き】は、間違いなく千堂さんと相性がいい。
それじゃ、次に藍澤さんのスキルを確認してもらう。
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藍澤 玲
レベル :6
年齢 :17
HP :14
MP :44
経験値 :1520
未配能力値:56
筋力 :6
敏捷力 :10
耐久力 :7
知力 :22
判断力 :18
魅力 :18
運 :15
スキル :火魔法+3
:聖魔法+3
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藍澤さんの基本ステータスは相当高いな。
しかも、定期的に川越ダンジョンで活躍しているだけあって、今まで獲得した経験値がかなりえぐい。二ヶ月弱でここまで経験値を稼いだってことは、チーム内での影響も相当なんだろうな……。
あれ? レベル6だと未配能力値は60のはずなのに、何故か56になっているぞ。
よく見ると、知力の数字が二十二って飛びぬけすぎてる気がする。もしかしたら、知力に数値が割り振られているのかもしれない。
藍澤さんの戦闘スタイルは魔法中心でMP使用がメインになるはずだから、もしかしたら繰り返し経験することで、自動的に数値が知力に割り振られたのかもしれない。
確か、藍澤さんは川越ダンジョンで、聖女扱いされているらしいから、聖魔法を使いまくっていたことが容易に想像できる。
藍澤さんにもステータスを紙に書き出して渡し、思いついたことを説明する。
「まず藍澤さんに確認したいのですが、ダンジョンでの活動では、主に魔法を使用する感じでしょうか」
「そうですわね。ダンジョンでは、ほとんど魔法のみを使用すると言っても、過言ではございませんわ」
なるほど。何かしらの行動に集中すると、それに伴い関連のステータスが未配能力値から割り振られる……つまり、経験で数値が反映されて能力が上がっていくってことなのか。
この辺りは、本当にゲームをしている感覚になるな。
「結果から言うと、藍澤さんはダンジョンに入るようになってから、知力が四ポイント上がったと思われます。おそらく、魔法を使いまくった経験が知力向上へ繋がったんじゃないかと……たぶんこの二ヵ月で、藍澤さんの地頭は入学した時よりもかなり良くなてるんじゃないでしょうか」
ほんの少しだけ考え込む藍澤さん。おそらく過去の記憶をたどっていると思われる。
「そう言われますと、学業やそれ以外でも、理解力が高まっている気がしますわ」
やはりそうか。藍澤さんは、引き続き今のスタイルを踏襲して問題ない。
「知力が上がれば、それに伴いMPも上がっていくので、今後も今まで通り進めるのがいいと思います」
「アドバイスありがとうございます。参考にさせていただきますわ」
とりえず、川越ダンジョンへ向かう前の顔合わせと、諸々の共有はこんなところかな。一旦ここで解散とし、一人残って川越ダンジョン攻略案を一人教室で練ることにしたんだけど、帰りがけの美玖の言葉に絶句した。
「ところで輝……。川越ダンジョン祭りって何? 後で詳しく教えてね」
あ……。
千堂さんと藍澤さんはダンジョン探索してるから当然知っていると思ったけど、美玖はダンジョン関係のことに全く興味を示さないことを失念してた。それにしても、スキルをいくつも使用しているのに、ダンジョン祭りを知らないとはな……。そのうち説明しておこう。
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