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第2話 青山時生

最後までお読みいただけますと幸いです。

翌日、昼休みの終わり頃、青山から「ちょっと来い」とメッセージが届いた。

昼休みに仕事の話かと思いながら部長室へ向かうと、青山はデスクに座り、窓の外を眺めていた。

「時生、何の話だ?」

赤松が入ると、青山はすぐに振り返り、じっと彼を見つめた。

「念冶、お前…最近、何か変わったことはないか?」

「え?」

唐突な質問に戸惑う赤松だったが、すぐに何を言いたいのか気づき、思わず視線をそらした。

「変わったことなんて、特に…」

「嘘つけ。」

青山の声が低くなった。

「昨日の飲み会のとき、俺は確信した。お前、何か隠してるだろ?」

赤松は動揺を隠せなかった。まさか気づかれていたとは…。

「…なんのことだよ?」

とぼけてみせるが、青山はため息をつきながら続けた。

「お前、昨日、グラスを取ろうとしたとき、触る前に少し浮かせただろ?」

赤松は心臓が跳ね上がるのを感じた。

(しまった…そんな細かいことまで見られてたのか…)

「それに、最近のお前の動きが少しおかしい。普通の人間じゃできない反応速度だった。」

「……。」

赤松は観念し、深く息を吐いた。

「…気づいてたのか。」

「まぁな。」

青山は腕を組みながら、赤松をじっと見つめた。そして、ゆっくりと言葉を続ける。

「実はな、念冶。俺もなんだよ。」

「……え?」

赤松は思わず聞き返した。

「俺も、お前と同じように“力”に目覚めたんだ。」

冗談かと思ったが、青山の目は真剣そのものだった。

「どういうことだ?」

赤松が問い返すと、青山は静かに語り始めた。

「2か月前、大きな事故があっただろ?」

「ああ…確か高速道路の玉突き事故。あれに巻き込まれたのか?」

「そうだ。あのとき、俺は死にかけた。」

青山は当時のことを思い出すように、少し遠い目をした。

「車が完全に制御を失って、俺は衝突する寸前だった。でも、その瞬間、時間が…止まったんだ。」

「時間が…止まった?」

「正確には、俺の意識が時間の流れを操った。」

青山は拳を握りしめる。

「自分でも理解できなかった。でも、目の前の時間がスローモーションのように遅くなり、俺は車の衝突を回避できた。そして…それから何度か試すうちに、俺はこの能力を完全に自覚した。」

赤松は息を呑んだ。

「つまり、お前は…時間を操れるのか?」

「そういうことだ。」

青山はそう言って、指を鳴らした。

次の瞬間、赤松の視界がゆっくりと歪む。

「…!? なんだこれ…?」

まるで世界がスローモーションになったかのような感覚。周囲の音が低くなり、動きが遅くなる。

「俺は時間の流れをコントロールできる。」

青山がゆっくりと語る。

「ただし、完全に止めることはまだできない。でも、加速や減速は自由自在だ。」

そして再び指を鳴らすと、世界が元の速さに戻った。

「…すげぇ。」

赤松は思わず呟いた。

「お前の力も相当なものだろ?」

青山は意味ありげに笑う。

「俺とお前、どうやら普通の人間じゃなくなったみたいだな。」

赤松はゴクリと唾を飲み込んだ。

まさか、幼馴染であり、同期入社の青山も特殊能力を持っていたとは――。

「さて、これからどうする?」

青山は不敵に微笑みながら言った。

赤松念冶は、青山時生の話を聞きながら、自分が“覚醒”した瞬間を思い出していた。

「……俺がこの力に気づいたのは、3週間前だ。」

赤松はゆっくりと口を開いた。

「3週間前?」

青山が眉をひそめる。

「ああ。残業が長引いて、終電間際だった。駅からの帰り道、人通りの少ない路地を歩いてたら、いきなり後ろから肩を掴まれた。振り向く間もなく、拳が飛んできたんだ。」

青山の表情が険しくなる。

「……殴られたのか?」

赤松は静かに頷いた。

「一発目は顔面だった。それで倒れ込んだところを、何発も……。抵抗しようとしても、体が動かなかった。『このまま死ぬのか?』って、ぼんやり思ってた。」

あの時の恐怖が蘇る。

「そしたら……急に、全身に力がみなぎったんだ。頭のてっぺんが熱くなって……そこから何かが溢れてくる感じだった。」

「……!」

「気づいたら、強盗の体が勝手に動いてた。俺が何かしたわけじゃないのに、そいつの腕が後ろにねじれて、膝をついてたんだ。」

青山は黙って赤松の話を聞いている。

「俺はただ、目の前の光景に呆然としてた。でも、そいつはもっと混乱してた。叫びながらもがいて……でも、まるで見えない力に押さえつけられてるみたいだった。」

赤松は苦笑しながら続ける。

「そのまま俺は警察を呼んで、強盗は逮捕された。でも、翌日になっても信じられなかったよ。あれは夢だったんじゃないかってな。」

「……それで、青あざだらけで出社したのか。」

青山が思い出したように言った。

「ああ。お前にも『どうした?』って聞かれたよな。」

「お前は『転んだ』って言ってたけどな。」

青山が皮肉っぽく笑う。赤松は肩をすくめた。

「言えるわけないだろ。『昨日、強盗にボコボコにされて、でも無意識のうちに超能力でやり返しました』なんて。」

青山は小さく笑いながらも、真剣な表情で言った。

「……俺も似たようなもんだった。」

赤松が目を向けると、青山はゆっくりと語り始めた。

「俺が覚醒したのは、1ヶ月前の事故の時だ。」

赤松は驚いたように目を見開いた。

「事故?」

「ああ。大きな玉突き事故だった。俺は運転してて、目の前のトラックが急ブレーキをかけたんだ。」

青山は少し遠くを見るような目をした。

「間に合わない、って思った瞬間……時間が止まった。」

「……!」

「いや、正確には、俺の感覚だけが異常に速くなったのかもしれない。でも、確かに俺の視界の中で、すべてがスローモーションになった。」

赤松は息を呑む。

「その間にハンドルを切って……なんとか回避した。でも、正直、ありえないタイミングだった。もし普通の速度で動いてたら、確実にぶつかってた。」

青山は赤松を見つめる。

「お前と同じだよ。極限状態で、突然目覚めた。」

「……。」

二人の間に、重い沈黙が流れる。

「俺は殴られて、死ぬかもしれないって思った時。」

「俺は事故で、終わりだって思った時。」

赤松は静かに言った。

「こんな偶然、あるか?」

青山は首を横に振った。

「ないな。」

「ってことは、何か理由がある?」

「……かもしれない。」

二人は無言のまま、互いを見つめた。

「この力……いったい何なんだろうな。」

赤松がぼそっと呟くと、青山は静かに笑いながら言った。

「それをこれから探るんだろ?」

「……そういうことか。」

赤松は苦笑しながら、青山と視線を交わした。

青山はグラスを持ち上げ、軽く傾けながら言った。

「こうして話してみると、やっぱり偶然とは思えないな。」

赤松も自分のグラスを見つめる。氷がカランと音を立てた。

「極限状態で覚醒……それに、俺たち二人ともってのが引っかかる。」

「だよな。しかも同期で、同じ会社で働いてて、幼馴染みで……こんな確率、あり得るか?」

二人はしばらく黙り込んだ。

「……整理しようぜ。」

赤松がゆっくりと言った。

「まず、俺が覚醒したのは強盗に襲われた時だ。恐怖と絶望の中で死を覚悟した瞬間、昔の記憶が蘇って……次の瞬間、あの力が発動した。」

青山は頷く。

青山は静かに語り始めた。

「出張の帰り道だった。高速道路で渋滞に巻き込まれてさ……その時、前のトラックが急にバランスを崩したんだ。何台もの車を巻き込んで、すぐ目の前で玉突き事故が起きた。

赤松は息をのんだ。

「俺はハンドルを切ったけど、間に合わなかった。正面からぶつかるってわかった瞬間……時間が止まったんだ。」」

青山はグラスを置き、ゆっくりと拳を握りしめた。

「あの時、俺は確かに見たんだ。周りのすべてが静止して、俺だけが動ける世界を。」

「それで?」

「その間に車の軌道を変える方法を考えて……気がついたら、時間が動き出してた。そして、俺の車はギリギリで接触せずに済んだんだ。」

赤松は驚きながらも、自分の経験と重なる部分に気づく。

「俺たち二人とも、死を覚悟した瞬間に能力が目覚めたんだな。」

「そういうことになる。」

「それに……」

赤松は言葉を詰まらせた後、意を決したように言った。

「覚醒した時、俺は夢を見た。」

青山が鋭く反応する。

「どんな夢だ?」

「幼少期の記憶だ。お前を含めた4人の子供たちに囲まれて、昔の公園で遊んでいた。あの頃のことを思い出した……っていうより、あの夢の中に引き込まれた感じだった。」

青山はじっと赤松を見つめていたが、やがて静かに言った。

「……俺もだ。」

赤松は息をのんだ。

「お前も……?」

「覚醒した直後、俺も夢を見た。あの公園で、お前たちと遊んでいた夢を。」

二人はしばらく沈黙した。

「なあ、時生。」

赤松はふと青山の名前を呼んだ。

「ん?」

「これ、他にもいると思うか?」

青山はしばらく考え込んでから、ゆっくりとうなずいた。

「いる可能性は高いな。もし俺たち二人が覚醒してるなら、他にも同じようなやつがいるかもしれない。」

赤松も同じ考えだった。自分たちが特別なのか、それとも何かの“流れ”の中にいるのか。

「でも、そうだとしたら……何か原因があるはずだよな。」

青山が低い声で言った。

「そうだな……。」

赤松はふと、子供の頃のことを思い出した。

「なあ、時生。昔の話なんだけどさ。」

「なんだ?」

「俺たちが小学生の頃……変な夢、見たことないか?」

青山は意外そうな顔をしたが、すぐに真剣な表情になった。

「夢?」

「そう。何か……すごく現実感がある夢。でも、起きると内容を思い出せない……そんな感じのやつ。」

青山はグラスを置き、しばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。

「……ある。」

赤松は息をのんだ。

「お前もか。」

「確かに、子供の頃、何度も同じような夢を見た気がする。でも、何を見たのか思い出せない……。」

「その夢をここ最近また見るようになったんだよ。」

「俺もだ。」

二人の間に沈黙が落ちる。

「もしかして……あの夢が関係してるのか?」

青山が静かに呟いた。

赤松は喉を鳴らした。

「……それを確かめる方法があるとしたら?」

青山は少し考えてから、不敵に笑った。

「試してみるか?」

赤松も、つられるように笑った。

「やるしかねぇな。」

二人は静かにグラスを合わせた。

この力の真相を探る旅が、今、始まろうとしていた――。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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