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第14話 Mother

頭の中で声がする。

「……念冶。」

聞き覚えのある声だ。

「…もう起きて。みんなでここへ来てちょうだい。」

あの時聞いた母の声——。

念冶ははっと目を開け、ゆっくりと起き上がった。体に残っていたはずの傷は、いつの間にかすべて消えている。まるで何事もなかったかのように、完全に回復していた。

周囲でも次々と仲間たちが目を覚まし、戸惑いながらも立ち上がる。全員、無事だった。

ただ——。

高橋啓介とゼファーの姿がない。

「……行こう。」

念冶は小さく呟き、声の導くまま階下へと足を向けた。仲間たちも後に続く。

重々しい扉が軋む音を立てて開いた。

中はがらんとした空間。何もないはずの部屋の中央に、それは佇んでいた。

巨大な球状の物体——。

金属のような光沢を放ち、鈍く輝いている。表面はゆっくりと波打つように流動し、生きているかのようだった。

念冶たちは息をのむ。得体の知れないそれに、本能的な警戒心が走る。

すると、不意に——。

「はじめまして、子供たち。」

声が響いた。

頭の中に直接語りかけるような、不思議な響き。

「私はマザーと呼ばれています。あなたたちの能力の起源とされています。」

「あなたたちの言葉で言うなら、私は宇宙人、エイリアンよ。」

マザーの声は、優しく包み込むようだった。

「私はね、50年ほど前に地球へやってきたの。目的は、地球を滅亡から救うため。」

念冶たちは顔を見合わせる。

「地球の資源は、もうすぐ尽きてしまうの。でもね、私はこの星のために、新しいエネルギー源を授けに来たのよ。」

少し間を置いて、マザーは静かに言った。

「総一、こっちへおいで。」

名を呼ばれ、総一が戸惑いながらも前へ進む。

「あなたの車いすの動力は、あなた自身の生命エネルギーなのよ。地球の限りある資源を使わなくても、ちゃんと動くでしょう?」

仲間たちは総一の車いすを見つめる。言われてみれば、確かに不思議だった。

「あなたたちが持っている力——それはね、私たちの持つ力と同じものなのよ。」

マザーの声は、まるで母親が子供に語りかけるように、静かであたたかかった。

「本当はね、地球にいるすべての人にこの力を授けたかったの。」

マザーの声はどこか寂しげだった。

「でも、それは叶わなかったの。免疫拒絶や異物反応……体が受け入れられない可能性があることがわかったのよ。」

念冶たちは静かに耳を傾ける。

「それが原因で、力を持つ者と持たない者の間に争いが生まれてしまったの。」

マザーの声には、深い後悔が滲んでいた。

「それだけじゃないわ。私が提供した情報を、悪用する者も現れた。」

沈黙が広がる。

「すべては……私のせい。」

しばらくの間、マザーは何も言わなかった。そして、静かに続ける。

「だから私は、この争いが終息するまで、地球に留まることにしたのよ。」

「でもね、あなたたちは——ちゃんと力を正しく使ってくれたわ。感謝してる。」

「私はこの星に留まると決めたけれど……私自身の時間も、永遠ではないの。」

マザーの声は穏やかに続く。

「私の寿命はおよそ2000年。私の生まれた惑星では、私は女王と呼ばれていたわ。」

念冶たちは息をのむ。

「そして——あなたたちを作ったのはゼファーと呼ばれていた男。彼の名前は風間颯斗。」

仲間たちが驚いたように顔を見合わせる。

「彼は、高橋啓介の父、高橋啓三……そのプロトタイプの義理の父でもあった。」

静寂が広がる中、マザーは言葉を紡ぐ。

「でも、ゼファーはもうこの世にはいない。実年齢は120歳を超えていたから……核が破壊された時点で、生き続けることはできなかった。」

誰かが小さく息をのむ音がした。

「——ただ、高橋啓介はまだ生きている。瀕死の状態だけれど、まだ間に合うわ。」

マザーの声に、かすかな希望が滲む。

「麗子、あなたが核の抽出をしながら治癒を施せば……彼は助かる。」

麗子と心が走り出す。

「場所を変えましょう。」

マザーがそう言った瞬間——その姿が変わった。

目の前に立っているのは、どう見ても中学生くらいの女の子。

柔らかな髪が揺れ、大きな瞳がこちらを見つめている。先ほどまでの球状の姿とはまるで別人だった。

マザーに続き、念冶たちは静かに歩き出した。

向かった先には——啓介がいた。

すでに意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がっている。

そして……元の姿に戻っていた。

ただし——素っ裸で。

仲間たちが一瞬視線をそらす中、マザーは特に気にする様子もなく微笑んだ。

「啓介、こっちへ。」

マザーが優しく手を差し伸べる。

「核は完全に抽出できたみたいね。これであなたは——普通の人間よ。」

啓介はしばらく呆然とした後、静かに息を吐いた。

「あなたにも聞いてほしいの。」

マザーは柔らかな声で続ける。

「これから私は、世界中にいる仲間たちと協力して、この力を違う形で地球に付与する研究を進めるわ。争いが起きないことを、何よりも優先して。」

一同は静かに耳を傾けた。

「そして啓介——あなたには、日本にいる私の仲間たちを導いてほしいの。」

マザーは啓介を見つめながら、次に総一の方に視線を向けた。

「総一、あなたにも伝えなければならないことがある。」

総一が少し戸惑いながらも、マザーの言葉を待つ。

「私は、あなたたちが力を正しく使い続けることを願っている。でも、それだけでは足りない。今後、この力を持つ者と持たない者の間で争いが起きることを防ぐために、あなたたちに新たな役割が必要になるわ。」

啓介は静かに頷く。

「私は、あなたたちがその橋渡しになることを期待しているの。」

総一もまた、決意を込めて視線をマザーに向ける。

「力を持つ者が、平和に共存できるように。私たちがこれから進むべき道を照らすために。」

マザーの声が少し強くなる。

「あなたたちの力が、どれほど大きくても、それを誤って使わなければ、世界を救うことができる。だからこそ——あなたたちに託すの。」

啓介と総一は、同時にその重責を感じ取った。

「念冶、時生、慧、麗子、心——あなたたち5人は完全な適合者なの。」

マザーの声には、確信に満ちた響きがあった。

「いずれ、あなたたちの能力も私と変わらないくらいになるわ。」

その言葉に、念冶たちは静かに耳を傾ける。

「そして、重要なのは寿命よ。」

一瞬、みんなが顔を見合わせる。

「2000年とは言わないけれど、かなり長くなっているはず。」

「慧、予知で見える?」

マザーは慧を見つめ、穏やかに問いかける。

慧は少し目を閉じ、深く呼吸をしてから、静かに答えた。

「……はい。見えます。」

「そう。」

マザーは微笑んでから、さらに続ける。

「これからの長い人生に必要な力を、もう一つ授けます。」

全員が驚きと期待の表情を浮かべる中、マザーの声が続いた。

「私と同じく、容姿を変える能力よ。」

その言葉は、さらに大きな意味を持つように、部屋に響いた。

「あなたたちの力で、地球を守ってね。」

マザーの声には、深い信頼と優しさが込められていた。

「私の仲間たちには、すでにあなたたちのことを紹介しておいたから。」

その言葉に、念冶たちは自然と頷いた。

「だから、仲良くしてあげてね。」

マザーの微笑みは、どこか安心感を与えるようだった。

念冶がその新しい力を試すように、髪を軽く撫でると、驚くべき速さで髪がフサフサに広がり、まるで生きているかのように自然に伸びていった。

その変化に、周りの仲間たちは驚き、そして少し呆れたように互いに視線を交わす。

「早速使いやがったな。」

時生、慧、心は心の中でそれぞれ同じ思いを抱いた。

「うわ、すげぇ……」時生がつぶやく。彼の目は、念冶の髪のボリュームに見惚れている。

「早すぎるだろ、さすがに。」慧が呆れ顔で肩をすくめた。新たに授けられた力をすぐに使いこなす念冶の行動に、多少の戸惑いが感じられる。

「本当に、すぐに力を試したくなっちゃうんだな。」心は苦笑いを浮かべて、念冶の行動を見守っていた。

その時、念冶が満足げに髪を揺らすと、突然、麗子がその変化に気づき、驚きの声をあげた。

「念冶、あなた……本当にすごく変わった!髪も、雰囲気も、全然違う!」

麗子の声にみんなが振り向き、改めて念冶の変化を感じ取る。

「でも……私も変わったわよね?」麗子は自分の細くなった体を見つめ、少し自信を持った表情で言った。

「お前もか……」と時生がぽつりとつぶやく。

その言葉に、みんなが黙って頷いた。

すべてが新しい力によって変わり始めた世界。彼らの役目は、まだ始まったばかりだ。

「これからが本番だな。」時生が力強く言った。

「そうだね。」慧が微笑みながら答える。

「新しい世界を守るために、私たちはこれからも一緒に歩んでいくんだ。」心の言葉に、みんながうなずいた。

そして、最初の一歩を踏み出すその瞬間——彼らは新しい未来を信じ、力を合わせて歩んでいく決意を固めていた。


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