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第12話 さらなる進化を・・・

桃田の車いすを押しながら、みんなで地下に向かうと、さまざまな機器や装置が並ぶ重い扉が待ち構えていた。高橋啓介は、静かにその扉を開け、先に歩き出した。

「ここだ。」

彼が言ったその先に広がっていたのは、広大で異様な地下空間だった。天井が高く、無数の機械や装置が並んでいる中、薄暗く冷たい空気が漂っていた。所々に、実験用のガラスケースや水槽が設置されており、無数のケーブルが床に這うように走っている。

その空間に入ると、緑川心が感覚を研ぎ澄ませ、異常を感じ取った。

「何かが違う…」

心は足を止め、周囲を見渡しながら、異様な気配を感じ取った。普段は感じないほどの圧迫感と、胸が痛くなるような感覚が広がっていった。

高橋啓介が振り返り、無表情に言った。

「ここがタナトスインダストリーズ社の研究室だ。」

その言葉に、緑川心をはじめとする仲間たちが息を呑んだ。どこか陰湿な雰囲気が漂うその場所に、違和感を覚えない者は一人もいなかった。

さらに奥へ進むと、突然、目の前に見慣れない姿の兵士たちが現れた。異様な体型で、どこか人間らしさを失っている。これまで見たことのない形態の兵士たちだ。

その時、緑川心の目がひときわ鋭く光る。

「あれは…」

彼女が見つめる先には、異形の兵士たちが拘束されている姿があった。その姿は、まるで人間の骨格を残していないほどに変形し、恐ろしい異様な形に変わり果てていた。

水槽の中にも、また何体かが無機質な機械のように漂っている。

緑川心は、その姿を見て胸が痛むのを感じた。「彼らは…」

その瞬間、心は耳に聞こえる心の声を拾う。

「殺してくれ…」

その声に心が震える。彼らの心が、今、必死に助けを求めているのだ。

その時、啓介が無感情な口調で続けた。

「ここにいるのは、総一の幼馴染たちだ。」

その言葉に、桃田や慧の表情が硬直した。総一とは、つまり――。

啓介はさらに言葉を続けた。

「第二世代の実験体だ。」

その言葉が全員に突き刺さる。もし第二世代が失敗作なら、ここにいるのはまさにその証拠。異形の姿をしている彼らこそが、そうした実験の結果だ。

高橋啓介は冷徹に話を続ける。

「そして、俺が第一世代だ。」

その言葉に、誰もが一瞬黙り込む。第一世代の実験体――その存在が何を意味するのか。

「といっても、お前たちみたいな能力はない。ただの器だ。」

その冷たい言葉が響いた。啓介は、あくまで“器”として使われてきたのだ。

「俺以外の実験体は全員暴走して死んだ。」

その告白に、全員の胸が痛む。何も知らずに実験の道具にされ、最終的に命を落とす――それが、この場所で繰り返されてきた現実だ。

「ここで各世代の不適合者をケアしてる。」

その言葉を聞いて、緑川心は複雑な表情を浮かべた。彼女の目には、同情と憤りが交錯していた。

「でも、俺たちのやり方は変わらない。」

啓介が冷たく言い放つ。その言葉が、さらに空気を重くした。

高橋啓介は冷静な声で言った。

「タナトスインダストリーズ社は、ある特定の遺伝子を持った人間から始まった。」

その言葉が重く響く。彼の言っていることの意味を理解するのに少し時間がかかる。

「初めての適合者だよ。」

その言葉に全員が驚く。どういうことだ? その適合者とは、ただの実験体ではない。何かが違う。

啓介はさらに奥へ進み、目の前の扉に手をかけた。その手のひらが扉を押し開けると、信じがたい光景が広がっていた。

中には、恐ろしいほどに巨大で異形な存在が横たわっている。まるで人間の姿をした何かが、無数の機器に繋がれて動いていた。体中には管が差し込まれ、機械のパーツが無造作に取り付けられている。見た目は人間からほど遠い、まさに異形そのもの。

その存在は生きているようだった。微かな動きで、機械的な音が響く。静寂の中、ただその「何か」が存在しているだけで、全員が息を呑んだ。

緑川心は思わず声を漏らす。

「これ、何…?」

その声に対して、啓介は少し冷たい表情で答えた。

「これがプロトタイプ。私の父だ。」

その言葉に、全員がさらに衝撃を受ける。父――それが、この異形の存在だというのか?

その巨大な存在からは、なんとも言えない圧力とともに、かすかな思考が漏れ出してきた。それは、無意識に発せられるようなものではなく、まるで自らの意識が伝わってくるような感覚。

「私こそが新人類だ…」

その思考が、まるでこの空間全体に響くように広がった。

「さらなる進化を…」

その声に、心の中で何かが引き寄せられるような感覚を覚える。しかし、それと同時にその言葉の持つ意味が恐ろしいものだと気づく。

「お前たちに理解できるかはわからない。」

啓介が淡々と続けた。

「この存在こそが、新たな人類の始まりだ。」

その言葉が胸を刺し、全員はその異形の存在をじっと見つめるしかなかった。

高橋啓介は、目の前の異形の存在を見つめながら静かに言った。

「父はネオジェネシス社の主任研究者だった。このプロジェクトに人生をささげたんだ。」

その言葉に、全員が言葉を失う。

異形の存在は、ゆっくりとわずかに動いた。まるで機械に支配された肉体が、無理やり生命活動を続けているかのように。無数のケーブルとチューブが体に突き刺さり、制御されていることが明らかだった。

「つまり、お前の父親は自らを実験体にしたってことか?」

念冶が険しい表情で問いかける。

啓介は静かに頷いた。

「そうだ。父は適合者の遺伝子を解析し、それを取り込もうとした。しかし、完全に適応することはできなかった。結果としてこうなった。」

その声には、わずかながら感情がこもっている。

「父は自らの肉体を使い、新人類の可能性を証明しようとした。でも、それは失敗だった。」

緑川心は、異形の存在から漏れ出す思念に苦しそうに顔を歪めた。

「こんなの…人間じゃない……!」

彼女の言葉に、啓介はかすかに笑った。

「人間かどうかなんて、もう関係ないんだよ。問題は、これが"進化"なのか、それとも"退化"なのかってことだ。」

その言葉とともに、異形の存在が微かに呻いた。

「……さらなる進化を……」

その声が響いた瞬間、研究室全体に警報が鳴り響いた――。

高橋啓介は、警報が鳴り響く中で低く呟いた。

「来たな、ネオジェネシスの連中だ。狙いはお前たちの捕獲だ。」

全員が緊張した面持ちで周囲を見渡す。遠くから複数の足音が響き、重装備の部隊が迫ってくるのが分かる。

「逃げるぞ!」

啓介は壁際に備え付けられていたアタッシュケースを乱暴に掴むと、すぐさま出口へと走り出した。

「時生、時間を稼げ!」

その言葉を聞いた瞬間、青山時生は即座に能力を発動。周囲の時間が一瞬にして止まる。

「今のうちに!」

啓介は、手に持ったリモコンのスイッチを押した。瞬間、拘束されていた異形の兵士たちの鎖が音を立てて外れていく。巨大な水槽の中で沈んでいた個体も、目を覚ましたようにゆっくりと身を起こした。

「お前たちも一緒に行くぞ!」

啓介が叫ぶ。

だが、異形の兵士たちから念話が届く。

「ここは俺たちに任せろ。じゃあな、総一。」

桃田総一は歯を食いしばりながら、仲間たちの姿を見つめた。

彼らはそのまま迎撃態勢をとり、侵入してきたネオジェネシスの部隊と対峙する。

青山時生が時間停止を解除した瞬間、銃声と衝撃音が響き渡った。

赤松念冶たちは、混乱に乗じて建物の奥へと駆け抜ける。

「ヘリポートへ向かうぞ!」

研究所の屋上にたどり着くと、すでにヘリが待機していた。

全員が乗り込むと、機体は大きく浮かび上がり、施設を後にする。

眼下では、異形の兵士たちがネオジェネシスの部隊と激しく交戦していた。

桃田は拳を握りしめ、静かに呟いた。

「……すまない。」

湖畔の山荘

ヘリは湖畔にある人里離れた山荘へと降り立った。

啓介はアタッシュケースを開き、中からタブレット端末を取り出す。

「ここならしばらくは安全だ。」

慧はアタッシュケースの中に注射器のようなものがあることに気が付き、遠くを見つめながら言った。

「でも、これはまだ始まりに過ぎない……。」

湖の静かな水面に、月の光が揺らめいていた。

湖畔の山荘に到着した一行は、すぐに作戦会議を開くことにした。

部屋の中央に置かれたテーブルの上に、啓介がタブレット端末を広げる。画面にはタナトスインダストリーズ社の組織図や戦力データが映し出された。

ネオジェネシス社の戦力

啓介が指を動かしながら説明を始める。

「ネオジェネシス社は、表向きはバイオテクノロジー企業だが、実態は能力者の研究・開発を目的とした軍事組織だ。」

画面には、数名の人物の顔写真が並んでいる。

「主な戦力は、エリート能力者部隊『ハウンド』と、彼らが開発した強化兵士たちだ。ハウンドのメンバーは元々優秀な能力者だったが、遺伝子改造と投薬により異常なまでに強化されている。」

慧が腕を組みながら言う。

「つまり、普通の能力者とは違い、限界を超えた力を持つってことか……。」

啓介は頷き、さらに画面を操作する。

「それだけじゃない。奴らは『適合者』を使った実験を繰り返し、“完全な新人類”を生み出そうとしている。俺たちは、その計画を阻止しなければならない。」

念冶が静かに問いかける。

「奴らのリーダーは?」

画面に、白髪の男の写真が映し出された。

「ネオジェネシス社の最高責任者、"ゼファー"。能力の詳細は不明だが、過去に一度も敗北したことがない。“最強の能力者”とも呼ばれている。」

慧が表情を曇らせる。

「そんな奴と戦うのか……。」

桃田は拳を握りしめながら言った。

「戦うしかない。ここで終わらせないと、俺たちは一生追われることになる。」

それぞれの能力の確認

啓介が再び画面を操作し、全員の能力リストを表示する。

赤松念冶テレキネシス: 物体を目で見たり、精神的な力で動かしたりする能力。

青山時生クロノキネシス: 時間を遅くしたり、早めたりする能力。

桃田総一アブソリュート: 「絶対的な存在」を意味し、すべての能力を支配できることを示唆する。

緑川心テレパシー: 他人の心の中で思考や感情を読み取る、または他人に自分の思考を送る能力。

白石麗子リジェネレーション: 自身の傷や体のダメージを迅速に治す能力。

黒田慧プレコグニション: 未来の出来事を事前に知覚する能力。

啓介は念冶に目を向ける。

「お前の能力についてはまだ完全には分かっていない。だが、お前が無意識のうちに使っている力は、単なるテレキネシスだけじゃないはずだ。」

念冶は黙ったまま考え込む。

青山時生が口を開く。

「俺は時間を操作できるが、長時間は無理だ。せいぜい1分が限界。」

桃田が拳を握る。

「俺の力はすべてを支配するもの……ただ、完全にコントロールできていない、ただ、前回の戦闘で1段階強化された感覚がある。」

桃田総一は前回の戦闘で、自分の能力が「怒り」によって新たな段階へ進化したことを感じた。

異形の兵士たちと対峙したとき、彼の中に湧き上がったのは激しい憤りだった。仲間たちが実験によって変えられ、かつての面影を失ってしまった。タケルたちはもう戻れない――その事実が総一の怒りを極限まで引き上げた。

その瞬間、彼の身体は異様に軽くなり、まるで周囲の空間が自分の意志で支配できるかのような感覚に包まれた。風を操る力が強化され、竜巻の中心に雷が生じたのも初めてのことだった。攻撃を受けても傷ひとつ負わず、まるで自分が「絶対的な存在」になったかのような錯覚すらあった。

しかし、戦闘が終わり、力を使い果たすと、全身が鉛のように重くなった。膨大な力を引き出した代償なのか、異常な疲労が襲ってきた。麗子の治癒で回復したものの、完全に元の状態ではない。

「俺の力は…一体なんなんだ?」

総一は自問する。怒りが引き金となり、能力が限界を超えたのか。それとも、これが自分の本来の力なのか。まだその答えは出ていない。

緑川心は無言のまま頷く。

白石麗子が静かに言う。

「私は回復ができるけど、負傷の程度による。身体能力が高くなったわ。」

慧は不安げな表情で言った。

「俺の未来予知は不完全だ。遠い未来はぼんやりとした映像しか見えない。」

啓介は一同を見渡し、言った。

「お前たちの力を組み合わせれば、勝機はある。」

念冶が静かに言った。

「問題はどう戦うか、だな。」

作戦会議は続く——。

桃田総一が戦闘で見せた力――それは、単なる能力の発現ではなく、「進化」と呼べるものだった。彼の内に秘めた怒りが引き金となり、「アブソリュート」としての真価を発揮したのだ。だが、もしこの現象が総一だけでなく、全員に起こるとしたらどうなるのか?

彼らの能力には、まだ未踏の領域があるのではないか。

赤松念冶テレキネシス ― 物体の操作範囲や精度を極限まで高め、量子レベルにまで干渉できるようになるかもしれない。

青山時生クロノキネシス ― ただ時間を遅くするだけでなく、「完全な時間停止」や「未来の選択」が可能になる可能性がある。

緑川心テレパシー ― 他者の思考を読み取るだけでなく、その意識を書き換え、精神そのものを支配する力へと進化するかもしれない。

白石麗子リジェネレーション ― 傷を癒すだけでなく、「死」をも覆し、失われた命すら取り戻すことができるようになるのかもしれない。

黒田慧プレコグニション ― 未来を見るだけでなく、見た未来に「干渉」することで、確定した運命すら改変する力を手にする可能性がある。

しかし、それは単なる可能性に過ぎない。総一が力を解放したとき、彼の体は限界を迎え、麗子の回復がなければ戦闘不能に陥っていた。もし進化が「制御できない力」だったとしたら? それは新たな可能性か、それとも自らを滅ぼす危険な領域なのか?

「進化」するには、何が必要なのか――そして、その代償とは?

彼らは、まだ知らない。だが、総一の戦いが証明したのは、限界を超えた先に、新たな力が眠っているということだった。

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