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第8話 癒しの温泉でリラックス

 初任務から翌日。

 俺は、有無を言わせない雰囲気の(あや)に連れられて、遠い場所に来ていた。


 とはいえ、片道2時間の距離だから、普通かもしれない。


「なんか……凄い、厳かな(たたず)まいだなぁ……」


 専用のバスを降りた目の前 には、これぞ日本! というような、おとぎ話の竜宮城に似た建物が、そびえ立っている。

 瓦で出来た赤い屋根に白い壁。少しくすんでいるのが歴史を感じる色合いをしていた。



 あやかし国際協会には、国ごとにイチオシの施設が存在する。

 日頃、死線を繰り広げるあやかしとの戦いの疲れを取ることが目的で作られた日本の施設は――。


「へ……? まさかの、温泉施設!? しかも、ここって……有名な温泉旅館じゃ」

「そうです! しかも、先輩にサプライズも用意してますよー」

「えっ……。それって、もうサプライズじゃないんじゃ」


 (あや)が言葉を失ってから、シーンとなって数秒。


「ハイ! この温泉施設こそ、我があやかし国際協会の誇る癒やしスポットです。さぁ、行きましょうー」

「うん……凄い苦しそうに、初めからやり直したな」


 両手を叩いてから苦しい言い訳をする彼女を筆頭に施設内に入った。

 俺のデビュー祝いということで、五人全員で訪れた温泉旅館は一般人にも開放されている。


 俺たちは男女で別れて隣部屋だ。

 準備を済ませてから30分後に合流することになった俺は、二人と共に部屋に入る。


「うわぁ。畳だ。今じゃ珍しいよなぁ」

「そうだねぇ? 夜は、三人で川の字で寝ちゃう?」

「いや、寝ないから……。でも、普通に考えて布団だから3人で寝ることになるな」


 逃れられない運命を呪うような俺の言葉に、目を細める(ひかる)から視線を外して窓に置かれた椅子に座った。

 まだ昼間のため明るい外に目を細める。


 まったりする俺とは対照的に、クローゼットから3着の浴衣を取り出した南雲(なぐも)さんが目の前の椅子に座った。


「これぞ、温泉旅館って衣装だろー? Mで良いか?」

「浴衣とか懐かしすぎる……多分、大丈夫だと思います」

「黒い浴衣ってセンス良いよねぇ。男らしくもあって、色気も増すような」


 相変わらずな(ひかる)の言葉を無視して、売店に行くと出て行った直後にすかさず着替えを済ませる。

 南雲(なぐも)さんは笑っていたけど、笑えない。否定するつもりはないが、俺は女子が好きだ。


「うわぁ……俺が売店行ってる間に二人して着替えてるとか、サービス精神ないなぁ」

「――どんなサービスだよ。てか、手近で済ませようとするな」

「えぇ……。俺は、(せっ)ちゃんだから言ってるのになぁ」


 (ひかる)は見た目だけは王子様のようにイケメンなのに、残念すぎる。

 でもって俺たちの前で堂々と着替え始めた。


 男の着替えも久しぶりに見るが、顔が良いからか身体つきも引き締まっていて、思わず視線を逸らす。

 すると気付いた(ひかる)が半裸のまま近付いてきた。


(せっ)ちゃん、どうしたのぉ? もしかして、上半身裸の俺にドキッとしちゃった?」

「そ、そんなわけあるか! 男の身体なんて、見飽きてるわ」

「ふーん。そんなに見てるんだ? ああ、自分の身体か……」


 卑猥(ひわい)な方向に話を持っていこうとする(ひかる)を押しのけて、スマホと貴重品だけを手にした俺は先に部屋を出る。


 すると、ちょうど女子部屋から出てきた後輩と目が合った。


「あっ……先輩! 黒い浴衣、凄い似合ってます」

「あっ、有り難う……。その、(あや)も浴衣姿可愛いぞ」

「えっ!? あっ、有り難うございます! 浴衣とか、お祭りくらいですもんね」


 (あや)たち女子は同じ浴衣じゃないらしく、赤いボタンのついた紺色の浴衣がとても似合っている。

 すぐあとに出てきた(ひがし)さんは、紺色に深い青の蝶が散りばめられた浴衣だった。


 どっちもとても可愛い。


「おっ! 女子は華やかだねぇ。どうよ、俺のイケメン度が増したでしょ」

「イケメン度より、チャラ男が封印されたように見えますよ」

「うはー。君枝(きみえ)ちゃんに一本取られたな、(ひかる)


 辛辣(しんらつ)な反応にわざとらしく肩を落とす(ひかる)を横目に、俺は(あや)から目を離せないでいた。


 見ているのに気付いた様子の(あや)と視線が交わった瞬間、悪戯な笑みを向けられる。



 俺たちは、昼食まで自由行動になって(あや)が施設を案内してくれるというから後ろをついて歩いていた。


「ふっふっふ。実は、この先は一般人が入れない場所なんです! つまり、私たち協会の人間だけ!」

「へぇ……。やっぱりそういう秘密基地みたいな部分はあるんだなぁ」

「隠れ家の方がカッコイイと思います! それではー、レッツゴー!」


 思い切り片手を挙げてノリノリな(あや)についていった先は、変哲(へんてつ)のない下り階段。

 だけど、此処にくるまでの間、誰にも会わなかった。


 階段を下りてすぐに気が付く。先に進むにつれて、光が見えなくなっていた。


 俺は暗闇に対して未だにトラウマのように感じている襲われたときと、こないだ命を二度落としていたかもしれない恐怖で、足が重くなる。


「あっ……」

雪璃(せつり)先輩、大丈夫ですよー? 私が一緒ですから!」

「そう、だな……」


 不意に手を握られて一瞬肩が揺れたあと、耳に聞こえてくる心地良い声に、少しだけ手の力を込めて握り返した。


 体感1分ほどで地面に足をつくと、淡い橙色の四角灯籠(とうろう)が続く道が現れる。


 厳かな空気に思わず唾を飲み込むが、先導する(あや)は鼻歌を歌い出した。


「えーっと……本当に、此処、癒やしスポットなのか?」

「日本の協会が誇る最高峰ですよー。ちょーっと、暗いのが苦手な方には大変ですけど」

「俺は……苦手じゃなかったんだけどな」


 下を向く俺に手を離した(あや)が、クルッと半回転して片手を伸ばしてくる。

 俺は首をかしげるが、肩を掴まれて前屈みになるよう指示されて頭を下げた瞬間、優しく撫でられた。


「大丈夫ですよー。先輩は、強い子ですから。魔法使いの力に目覚めたら、何も怖くなくなります」

「うっ……年下の後輩に頭を撫でられるなんて、初めてだ」

「それでは! いざ、突撃でーす!」


 再び手を引かれるまま煌々(こうこう)とした場所を目指すと、暗闇が開けたように娯楽施設が広がる巨大なホールが現れる。


 天井がないほどの高さに、一階しかないのに広くてカジノやバー、子供が遊べるゲームや軽いスポーツ場なんかもあって人で溢れていた。


「えっ……声なんて聞こえなかったぞ」

「此処は、隠れ家ですからねー。中の音が外に漏れないように遮断されています」

「なるほど……なんか、凄いな。あっ、(ひかる)南雲(なぐも)さんがいる」


 女の子をはべらせてカジノで遊ぶ(ひかる)の姿に、バーで酒を(たしな)南雲(なぐも)の姿が目に留まる。


「二人は常連なので。君枝(きみえ)さんは、温泉ですかねー。先輩は、何して遊びたいですか?」

「えっ……少し、喉が渇いたかも」

「それじゃあ、ジュースをもらって色々回りましょう!」


 バーカウンターで瓶のオレンジジュースを貰った俺たちは、飲み歩きながらホール内を回った。


 小さい頃から好きだった射撃なんかも本格的なもので、ゴム弾を込めて的に当てる遊びを楽しむ。


 (あや)にはコントロールがいいと褒められ、2人でボーリングや軽いエステなんかも体験してしまった。


「……エステとか初体験だったけど、なんかこう……凄いな」

「ですよねー。私も初体験でした! 女性は大変そうです」

「お前も女性だろう? まぁ、まだ女子高生には不要なのか……」


 浴衣はきっちり着込んでいる(あや)の辛うじて素肌がみえる手に視線を落とす。

 胸元を見ていると勘違いじゃなく、悪戯心でわざとらしく両手で自分を抱きしめる姿に、俺も聞こえるようにため息を吐いた。


「先輩は、えっちですからねぇ。そろそろお昼ですし、戻りましょうか」

「お前は俺に襲われたいのか……。あー、もうそんな時間なんだ」

「へぇ……(せっ)ちゃんて、意外とエッチなんだぁ? お兄さんにも教えてほしいなぁ」


 急に肩を抱かれると背筋がゾワゾワして、聞き覚えのある声にわざとらしいほどに嫌な顔をする。

 続けざまに俺から引き剥がされる(ひかる)の前に、眉をピクピクさせて顔を引きつらせる(あや)が立ちはだかった。


雪璃(せつり)先輩は、私とデートしているんで外野は立ち入らないでくれるかなぁ?」

「外野ってヒドイなぁ。俺と班長の仲なのに。可愛いモノは愛でたくなるのが男の(さが)だって」

「先輩は可愛いですけど、カッコ良くもあるので駄目でーす」


 バチバチと火花を散らしていそうな二人に集まる野次馬の中に、南雲(なぐも)さんも顔を出す。


「あー……うん。なんか、大変そうだなー雪璃(せつり)は」

「……他人事ですよね? あの二人って、仲悪いんですか?」

「いやー、今も息ぴったりだろー? まぁ、班長がここまで他人に執着するのを見たのは初めてだからなー。(ひかる)は、からかってるだけだと思うぞ?」


 なるほど……?


 二人がバチバチしている中、腹が減ってきた俺はお腹をさすりながら言い合いが終わるのを大人しく待っていた。

お読みいただき有り難うございます。

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