第23話 魔法使いの誕生
「えっ……? この人、なんか変だ……」
「どうかしましたか? 光永さん」
「いや、この被害者に触れたら、俺の魔力器官が脈打った気がして……気のせいかな」
そう思った瞬間、俺の目にも辛うじて捉えられる速さで銀色に光るモノが振り下ろされる。
俺と被害者の間に割って入った東さんが、両手で刃物を受け止めていた。
重体だと思っていた被害者の手には鋭い刃が握られている。
『おや? 気付かれるとは思っても見なかった。最高傑作の傀儡人形……被検体としては最高だったよ?』
「なっ……それじゃあ、俺が動いたと思った指先は」
『我が動かした。ただ、生きているのは本当だ。この空間内、だけではあるけど……。これ以上、傷をつけなかったら、外に出ても生きている可能性はある、かも?』
これが本来のあやかしなのか……。
東さんが、跳ね飛ばすように腕を振るうと、高く飛び上がり男の横に着地する。
目を凝らしてみて分かった。被害者には細い蜘蛛の糸のような蔓が身体に巻き付いて動かしている。
「なんて卑劣な……。先輩! 大丈夫ですか!?」
「あっ、ああ……。大丈夫……だけど、その人は」
「厄介だねー。君枝ちゃん、大丈夫?」
俺を庇ってくれた東さんに向き直り頭を下げた。
緊迫する状況に東さんは、一瞬俺を見てから再び前を向く。
「問題ありません。作戦は、どうしますか? 班長」
「先輩の意向を汲んであげたいですが、被害者の彼も身体強化能力者なので分かっているはず。上位のあやかしを狙いつつ、やむを得ない場合は彼も叩きのめす」
「了解っ。それじゃあ、始めますかぁ!」
勢いよく走り出す光は、被害者には見向きもせずあやかしに握った拳を振り下ろした。
その速さは人間とは到底思えないもので、俺の目では捉えられない。
「それじゃー、俺は雪璃のことを見守りながら、後方支援するよー」
「私も……上位のあやかしは、班長とチャラ男さんに任せます」
「オイオイ。チャラ男さんって、なんだよ……ッ! 意外と硬いなぁ」
振り下ろした拳は、あやかしの胸元を強打したにも関わらず吹き飛びもしない。
当の本人は、薄ら笑みすら浮かべている。
一旦離れる光は、気合を入れ直すように力を込めているように感じた。
「さすがに、上位のあやかし相手に20パーセントの威力はないかぁ……」
「光さん、上位のあやかしを舐め過ぎでは? 私みたいに、常に全力あるのみだよ!」
「いやいや……班長は、そんな成で怪力なのか、理解に苦しむんだよなぁ」
まぁ、光が言いたいことは分かる。
俺も、小柄な彩のどこに身体強化能力者の能力があるのか不思議で仕方ない。
『こっちのお嬢さんの方が、鋭いナイフのようだ……。ただ、他の上位のあやかしがどうか知らないけど……それじゃあ、我は壊せないよ?』
「壊せない……? 殺せない、じゃなくて」
「光永さん、あやかしの言葉は流してください」
東さんに注意されても、何か引っかかるものを感じて眉間にシワを寄せる。
直後に、後方支援として振り下ろす巨人のような南雲さんのかかと落としも避けずに潰されてもいなかった。
「これは、裏がありそうだなー。君枝ちゃん。ちょっとの間、雪璃のこと頼めるかい?」
「問題ありません。光永さんも、相手の動向には気を配ってくださいね」
「分かってる……。火力は四人の中で、上だろうニ人の攻撃で無傷なのは、あり得ない……それに一切避けないなんて」
すべてを受け止めて、無傷なのは明らかにおかしすぎる。
そんなとき、俺は一瞬横に向けるあやかしの視線を見逃さなかった。
「えっ? 俺たちが通ってきた電信柱がある……しかも、あのとき見た赤だ」
「はい? 光永さん、何を言っているんですか?」
あやかしの視線を追った先に、最初に見た赤い電信柱が佇んでいる。
まさかの東さんには見えていないらしい。
俺にだけ視えてるのか……?
「君枝ちゃん! 危ない!!」
「えっ? あっ――」
傀儡人形にされた被害者の攻撃を軽くあしらっていた東さんに、俺だけが視えていた赤い電信柱の中心が横に開いて、先端が鋭い触手が伸ばされる。
その瞬間、すべてがスローモーションに視えた俺には、東さんが行動する前に触手が彼女の心臓を貫いて倒れる姿が映像化された。
とっさに東さんの前に飛び出した俺は、魔力器官と心臓が同時に震えるような凶音に両手を前に突きだす。
「嘘ッ……雪璃先輩!?」
「あっ――駄目ぇぇえ!!」
全員の心配をよそに、スローモーションによってすべてが視えていた。
背後から伸ばされる東さんの手。耳をつんざくような音がして身体が熱くなる。
その瞬間、漆黒に裏地が白金色をしたローブをまとった姿に変わった。
一瞬のうちに姿が変わった俺は、指で触れた触手が凍りついていることに気が付いて目を見張る。
『――まさか、土壇場で魔法使いが覚醒するとは、なんとも運が悪い……』
「へっ……? って、うおっ!? なんだ、この服装……コスプレみたいで、とても恥ずかしい」
「光永さん!! 大丈夫!? 怪我はない!?」
取り乱す東さんに、身体中隅々まで調べられる。
コスプレよりも恥ずかしい……。
そんなことよりも!
「みんな! そいつの、核はこの触手の先にある!」
「あー……なるほどねー。コイツは"容れ物"だから、攻撃が無効化されたわけね」
「先輩! 私たちには、その核が見えません! 殺っちゃってください!」
まさかの攻撃してきた触手は見えたけど、本体の脈打つ宝箱は俺にしか視えていないらしい。
口を開けたままの赤い電信柱の中央に置かれた宝箱に振り返る。
「えっ……。やっちゃってって言われても……俺、無意識なんだけど!?」
「あそこに書いてあったことを思い出してください!」
「確か……魔力器官を感じながら1つの魔法を創造すること。つまり、触手が凍ったってことは……氷!」
光に照らされて輝いてみえる触手が伸びる先に、ドクンと脈打つ宝箱がある。
それ自体が生きているかのように。
すかさず動く上位のあやかしと、俺の前に立ちはだかる被害者に俺は息を呑む。
「コツはなんとなく掴んだ気がするのに……一か八かだ!!」
『させるか……! 人間の魔法使いに、仲間を殺せるのか?』
「雪璃先輩には指一本触れさせないって、言ったでしょ!!」
上位のあやかしを彩が繋ぎ止めている間に、隣で俺を見守る東さんの前で一直線に魔法を放った。
強大な魔力が両手を介して放射されると、一本の氷が被害者を突き刺して脈打つ宝箱に到達する。
その瞬間、苦しみだした上位のあやかしの胸からドクドクと青い鮮血が流れ出した。
――パキパキッ……
宝箱からも青い血が滴ると、全体が凍結していく。
そして、粉々に砕けて空に舞った。
『グァァァアア!! よくも、我の心臓……魔法使い、如きが……』
「ハァハァ……殺ったか。それと、被害者の男性は!?」
「――大丈夫です。あの状況下で、初めてなのに……被害者だけ、攻撃無効にするなんて」
上位のあやかしは名乗ることなく、砂のように崩れて消えていく。
それにともなって、傀儡人形にされていた被害者の身体強化能力者は、地面に倒れた。
駆け寄って確認した東さんの言葉で安心した直後、再び目の前がスローモーションになる。
自分に向かって駆け寄る彩の姿が目に入った。
「あっ……なんか、目の前が暗く――」
「雪璃先輩!?」
「うおっと! 大丈夫か? 雪璃!」
誰かに抱きとめられた気がして、何か言葉を絞り出すが声にならず力が抜けていく。
変身が解けると同時に目の前が暗くなり、魔力器官が激しく軽快な音を鳴らして記憶が途切れた。
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