第22話 あやかしからの挑戦状
夏祭りから一ヶ月ほど経ち、夏が終わりかける頃。
あやかし国際協会であるハンターから、知らない区間の訃報が届く。
しかも、それは俺にとって衝撃的で、畏怖するものだった。
「……まさかの、身体強化能力者が殺されるとはねぇ。相当な手練れじゃん」
「それに、この写真は……光永さんを名指ししていますね」
「雪璃先輩……」
双子が届けてくれたハンターからの封筒には写真も入っていて、殺された身体強化能力者の背中に刻まれた文字は『魔法使いを連れてこい』
つまり、俺のせいでこの人は殺されたことになる……。
自分も死にたくはない。だけど、自分のせいで他人が死ぬのは少し前まで一般人だった俺には堪える。
力強く握りしめる右手に触れる温かさに目線をあげた。
「雪璃先輩のせいじゃありません! 私たち身体強化能力者は、沢山のあやかしを殺してきました。殺される覚悟は出来ています」
「だけど……これは、俺のせいで……!」
「自惚れないでください。魔法使いに覚醒していない貴方のことは秘匿として扱っています。私たちと、ナギコ先生、カイロスさんに、本部にいる一部の人間しか知りません」
会議室に集まっていた俺は、興奮して立ち上がっていたことに気がついて椅子に座り直す。
知らない情報に翻弄された可能性はあった。だけど、東さんは、強い口調で俺を慰めてくれている。
「ごめん……。俺は、本当に外の情報を知らないんだな」
「班長である私が、先輩の耳に入れていないのもありますね……。ですが、君枝さんの言う通りです! 同じ身体強化能力者ですから、訃報は悲しいですが……断じて先輩のせいではありません!」
「お兄さんも、若い子が亡くなるのは辛いけどねー……。でも、今は……この要求について呑まなかったら、どうなるのか」
痛々しい写真の被害者に目をつぶりそうになるのを必死に開いた。
居たたまれなさに、自然と彩の手を強く握ってしまう。
「上位のあやかしでも、長命だったり、人間と関わりを持たない限り覚える言葉は多くありません。なので、この写真から見るに……魔法使いを連れてこないと、他の身体強化能力者も殺すぞ。ですかね」
「班長の言う通り、その区間の身体強化能力者が、もう一人故不明で連絡も取れないらしいねぇ」
「うちの区間から離れていない場所だし……うちの施設を襲った上位のあやかしかなー?」
優しく握り返される手に、視線を下に向けて力を弱めた。
彩たちは避難優先で、当時倒したあやかしは中位以下だったらしく、上位がいないのはおかしいと話をしていたことを思い出す。
「ただ、こうも名指しするために手練れの身体強化能力者を殺してメモ代わりにするヤツだ。行方不明のもう一人も生きている保障はないねぇ」
「私もそう思います。酷なことですが、先輩に危険は冒せません。送られてきた手紙にも、同じように書かれています」
「これは、ハンター側の警告として送られてきたのは分かる……だけど、俺は……1パーセントに賭けたい! 頼む……危険なのを承知で、力を貸してほしい」
テーブルに頭をぶつける勢いで俺は頭を下げた。
俺のわがままで、みんなの命を危険にさらす可能性は十分ある。
しかも、頼み込んでる俺は未だに何も出来ないお荷物だ。
「そういうと思っていました。光永さんは、砂糖のように甘い人間なので」
「ですね! 仕方ない、ここは身体強化能力者最強の美少女である後輩の私が一肌脱ぎましょう!」
「俺も、先輩として雪ちゃんに良いとこ見せて惚れてもらおうかなぁ」
……残念ながらそれはない。
加えて、横にいる後輩の握る手が強くなって俺に被害がきている。
声をそろえるように頷いてくれるみんなに、俺は再度頭を下げた。
すぐに軽い準備をして、被害者が倒れていた現場に向かう。
「場所の指定はなかったけどー。多分、同じ場所にいるんだろうねー?」
「捜査はしたらしいけど、遺体以外何も見つからないのは臭すぎるよねぇ……」
「私もそう思うよ。多分、この間倒した三足目烏と同じで、別空間にいるんじゃないかな」
新しく引っ越した施設は悟られていないため、以前いた施設から一番近い区間の身体強化能力者が被害にあったことで、それなりの移動距離を走った。
先導していた東さんの足が止まり、俺は一息つく。他のみんなは当然、息すら上がっていない。
「ハンターは場所の詳細を教えませんでしたが、あの写真と区間からして此処だと思います」
「さすが、東ちゃん。伊達に、施設の防犯カメラをハッキングして班長の動向を追ってないねぇ」
「――上位のあやかしを相手にする前に、この男を葬っていいですか?」
東さんが示す場所は、血の一滴すらない静まり返る住宅街の路地裏だった。
ただ、その場所に似つかわしくない赤い電信柱が立っている。
違和感しかなくて、目をこすってからもう一度見てみると、灰色の電信柱だった。
「たまに、視線を感じてたのは君枝さんだったんだねー。大丈夫! 私は全然気にしてないよー」
「……さすが、自分がストーカー気質なだけあるな。俺だったら怖いけど……」
「先輩ひどいです! 私は、雪璃先輩が心配なだけで、ストーカーじゃありません」
目の錯覚かと思って気にするのはやめ、東さんの意外性に驚かされる。彩を崇拝しているとは聞いていたけど……。
自分のことは否定する彩には顔を引きつらせ乾いた笑い声がでる。
「緊張感ないところ悪いけど。お兄さん、別空間見つけちゃった」
「さすが、頼りになる大人な南雲さん!」
「えぇ!? 雪璃先輩が、一仁さんに懐いている気がするんですが、気のせいですよね!?」
懐いてるって、子犬のようにいうな……。
悲劇的な顔をする彩に、南雲さんは大人の対応をしている。
南雲さんが教えてくれた場所は、先ほど目の錯覚だと思った電信柱だった。
さっきのは、目の錯覚じゃなかったらしい。だけど、中に入るときも通常の色をしていた。
別空間は、臭い妖気で充満していて思わず鼻を押さえる。
しかも、中は靄で覆われたように視界が悪かった。
「ここから気をつけてください……別空間は、あやかしのテリトリーですから。それに、このあやかし……大量の人間を食べてます」
「ああ……あのときに痛いほど知ったからな。……人間を殺した数で、妖気は臭くなるのか?」
「うーん……俺たちは知らないけど、臭いに敏感な子もいるって聞いたことあったかなぁ? っと……あそこに、人影があるような。あー……雪ちゃんは見ない方がいいかも」
俺の感じた臭いは能力者全員が同じではないらしい。
一番に何かを見つけた光が、俺に忠告してくる。
同じ方向に目を凝らすと、何かの植物に巻かれた人の姿が見えてきた。
緊張から研ぎ澄まされる耳に血が滴る音が聞こえてきて、半裸に剥かれた背中に『ようこそ』と血文字で書かれてある。
俺は目の前が暗くなると同時に口を押えた。人型のあやかしが死ぬところは、何度も見てきたのに、同じ人間が死んだところは見たことがない。
ただ、視線をそらしたときに小指が動いた気がして、みんなの静止を無視して身体が勝手に動いていた。
「先輩! 罠です!!」
「あー……嫌なタイプだよ、本当に――」
後ろから伸びてきた大きな手に身体ごと掴まれて、首だけ振り返り南雲さんが変形させた腕だと分かる。
直後に、走りこんできた東さんが、被害者を救出して俺たちは植物から遠ざかった。
すると、数秒の差で植物が地中へと潜っていく。
「南雲さん……ごめん」
「大丈夫大丈夫。若い子はこうでなくちゃねー? それで、そっちの子は?」
「……光永さんのいうとおり、辛うじて生きています。ですが現状、私たちに回復の手段はないです」
腕が縮むことで抱きとめられた俺は思わず下を向いた。
優しい言葉をかけてくれる南雲さんに、駆け寄ってくる彩がホッとした顔をしている。
『おや? 虫の息の獲物で釣ったところを、美味しく頂こうと待ち構えていたのに、どちらも居ないのは何故かな?』
「――上位のあやかし……!」
「まぁ、良くしゃべることでぇ? 残念ながら、美味しく料理するのは俺たちなんだよねぇ」
土に潜った植物の代わりに這い出てきたのは、人型をした男。身体の一部が蔓や棘に巻き付かれている。
『ほう? そんな君たちに朗報だ! その彼は、この空間では死なないよ。外に出たら……すぐに止血しないとアウトー!』
「それは良いことを教えてくれるねー。お兄さん、感動して泣いちゃうよ。準備万端な状態で、お前さんを殺れる」
「この空間でも、変わらずに緊急警報は使えました。事前にナギコ先生だけには話をしているので、救護班を送ってくれるはずです」
俺と被害者を守るように立つ四人の背中を見て息を呑んだ。
集団によって施設を狙った割に、上位のあやかしは一人。
少しだけ不安が残る中、俺は邪魔にならないよう被害者を抱えて端に寄る。
ただ、被害者に触れた瞬間、俺にとって第ニの心臓である魔力器官がドクンと脈打った。
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