第20話 後輩と入れ替わった!?
物語が中盤に突入したので、投稿時間を変更しています。ご了承ください。
今日は、楽しみにしているガラス細工の夏祭りを明日に控えた、いつもと変わらない日。
――だと思っていたのに……。
「嘘だろう!? いやいや、これは夢だ……ナギコ先生による悪夢だ」
「えへっ。ちょっと失敗しちゃったー」
「普段はガサツで男っぽいくせに、こんなときに可愛い子ぶるのやめてください!?」
思わず暴言にも近い言葉を浴びせる俺は、彩と共にメディカルルームに来ていた。
ちょっと試したい実験があるといわれてニ人でベッドに寝かされて、頭に良く分からない機械をつけられて一時間後。
目覚めた俺は、姿見で映った姿に悲鳴を上げて甲高い声で叫ぶ。
「ふふふっ……。姿見から私の目に先輩が映ってる……」
「彩、気をしっかり持て!」
記憶を保存出来ないかという危ない実験に付き合わされたと思ったら、まさかの後輩と身体が入れ替わった……。
良くある男の方が変態化するでもなく、紳士でもなく。
後輩の彩が"変態化"した……。
思った以上に、彩と光は通じるものがあったらしい。
むしろ、今の状況は彩のが危険人物と化している。
ストーカーを甘く見ていた。
「せ、先輩の身体……ゴクリ。ちょ、ちょっとくらいなら……触っても良いですかー? いえ、変なところは触らないので」
「いや、明らかに視線が妙なところにいってるぞ……。俺の身体だけど、今は彩の身体であって、ダメージは自分に返って来るからな?」
「ハァハァ……。分かってますよー。でも、生理現象は仕方ないですよね!? 先輩も気にせず、トイレに行ってくださいね! あっ、一つだけ教えてほしいんですが、男性ってどうやってするんですか?」
明らかに危険なモンスターを生んでしまったナギコ先生を睨みつける。
いつの間にか床に転がって大爆笑している姿に、ため息しか出ない。
仕方なく、軽く説明してから、トイレ以外は一緒にいることを約束させる。
「面白すぎるだろう!? 一年分くらい笑ったわー彩嬢の変態っぷりに。まぁ、大丈夫だ。一時的に意識が入れ替わっているように感じるだけで、中身が変わったわけじゃない」
夜には戻るということで、俺は彩を引っ張って会議室に来ていた。もちろん、三人と双子を招集して話をする。
双子は、意識の入れ替わりによってどっちを保護対象と見なすべきか困惑していた。
「ぶはっ……! 雪ちゃんが、妙に可愛らしいのは班長のせいだったのかぁ。というより、変態的な目で見てない? でもって、俺に対して殺気しかないんだけどぉ」
「当たり前でしょう! 一時的でも、私は先輩の中に入っているようなもの……光さんには一切触れさせないから」
「――絶句。……私の崇拝している班長が、光永雪璃に犯された……」
ナギコ先生と同じ反応をする光に、俺の身体で殺気を放つ彩と、テーブルを見つめながらブツブツ呟く東さんの地獄絵図。
後輩の身体でため息をもらす俺に、横に座っている南雲さんが、肩に手を置いた。
この部屋は前の施設より狭くて六人席になっている。
「夜には戻るんだろー? なら、問題なしだ。俺たちもフォローするからさ」
「南雲さん……! やっぱり、大人でカッコイイ男代表だ」
「ちょっとー! 一仁さん。私の身体に入った先輩に色目を使わないで!」
自分の身体に入ったをやけに強調する彩に、手を放す南雲さんは苦笑いをしていた。
ただ、今日は当然任務なんて出来ないし、俺たちのフォローは南雲さんと、東さんになったことで、何かあったら光が一人でこなすことで話がまとまる。
「大丈夫だよぉ? こう見えて、戦闘力なら班長よりも俺のが上だったりするし……。これ、秘密ね?」
「そうなのか……。てか、距離近くないか? 意識は俺でも、彩の身体だけど……」
「あぁ……クセかなぁ? 見た目は、班長なんだけど。精神的に庇護欲がこう……。うわぁ……班長と同格の殺意がする。いや、殺意って殺気よりヤバくない?」
俺の横には東さんがいて、不埒な真似をしないか監視しているらしい。
それによって殺意を向けられる光は顔を引きつらせていた。
俺の身体で気分良く鼻歌を歌っている彩の横には南雲さんがいる。俺も、自分の身体が心配だから彩の行動は見守っていた。
「班長が不憫でなりません……」
「いや、俺の身体の方が心配だからな? アイツが、事故後にどういう思考回路してたか教えてやろうか」
「結構です。それよりも、班長の姿で汚い言葉を使わないでください。汚れが増えます」
普通に話すだけで東さんに怒られる不憫な俺……。
俺たちは昼食を済ませて、何もすることがなく彩に言われるまま訓練室に来ていた。
一階の一番奥にあって、体育館のように広くて天井も高い。
前の施設で俺もお世話になった訓練室よりも大きい気がする。
「それで、此処にきた目的は?」
「フッフッフ……。せっかく私になったんですから、先輩には出来ないことをしたいとは思いませんか?」
「えっ……。彩だから出来る、俺に出来ないことで……訓練室。あっ! もしかして、身体強化能力者としての能力?」
意識が入れ替わっているような状態なだけだから、意識しなくても身体強化能力者として能力が使えるのか?
少しだけワクワクする俺の表情に気がついた様子の彩は、俺の姿で不敵な笑みを浮かべている。
敵キャラに見えなくない顔だ。俺なのに……。
「それじゃあ、本人の許可をもらったから、ちょっとだけ……。先ずは!」
自分の身体じゃ、その場で跳び上がっても、一般人を少し超えるくらいだけど、彩の身体で同じことをした瞬間、天井に手がつきそうなほど飛躍した。
しかも、身体が軽い。
「嘘っ……だろう!? 跳びすぎ……ッ!」
「先輩ー! 全力すぎますー!」
「良く跳んでるなー……でも、着地出来るのかねー?」
着地の仕方が分からず、空中で騒ぐ俺を下で見守るみんなの姿が目に入る。
そして、跳べる高さに到達したら当然あとは落ちるだけ。
室内だから風圧はないが、身体の軽さによって背中を引っ張られるような感覚で、足と頭が逆転して落ちる。
思わず頭を抱えて目をつぶる俺は衝撃に備えるが、痛みはなく誰かに支えられる感覚にまぶたを開いた。
「――班長の身体だからって、無茶しちゃ駄目だって」
「……あっ。光……。東さんが怖い!」
「……貴方って人は。1回、死にますか? 元の身体に戻ったら……」
お姫様抱っこ状態の俺は、顔が近い光よりも、横にいる殺意しかない東さんに恐怖して震える。
「とてつもなく面白い絵が見れちゃったねー。班長が、お姫様抱っこって……」
「私のフィルターには、先輩が光さんにお姫様抱っこされて見えるんで、速やかに下ろしてください!!」
「うへぇ……班長は、ブレないねぇ。ハイハイ、おろしますよぉ」
これは女子がされたら相手を好きになるワンシーンに思えるが、俺はなんの感情も芽生えなかった。
多分、俺だったら……少しは、ドキッとしていたぞ。男同士でも。
彩の身体だからとか、関係あったりするのだろうか。
床に足をついた俺は深呼吸する。
そして、今も鋭い視線を向ける東さんに顔が引きつった。
「まぁ、当然。私の身体なので、頭から落下しても大丈夫ですけどー。先輩が精神ダメージを負いますからね!」
「頭から落下しても大丈夫って、どうなんだ……。まぁ、光も助けてくれて有難う」
「むぅう……本当なら私が助けたかったのに。先輩の身体で、同じことをしたら先輩の腕が折れる……」
普通に怖い……。
身体強化能力者と一般人、一応魔法使いの卵? だけど、肉体的には、一般人と大差ないからな。
他にも注意しながら色々と楽しんでいたら、気がついた頃には夕方になっていて、移動した俺たちは談話室のソファーに座って談笑している。
「施設内にいると、外の世界と隔離されてる感覚で、空が見えないのがなぁ」
「風も空調くらいですしねー。まぁ、この姿でさすがに外へは行けません」
「夜って言ってたけど、風呂に入る前に戻るといいなー?」
南雲さんの言葉で、彩が口許に手を当ててニヤケ顔を隠した。
女子高生で、美少女がそれでいいのかと俺は冷めた目で見る。
「合法的に先輩の身体を隅々まで見てしまうわけですか……。先輩、優しくしてくださいね?」
「いや、良く分からない危ない発言をするな……。俺は絶対風呂に入らないぞ」
「――服を脱ごうものなら、班長が精神的に痛い思いをするかもしれませんが、貴方の肉体を葬ります」
横に座っている東さんが、怖すぎて顔を見れない。
全部彩の変態発言のせいなのに、すべて俺に返って来る。
ソファーはニ人用なのに、俺を挟んで東さんと彩が座っていた。
ニ人が女子だから、なんとかって感じである。向かいに座る男性陣ニ人は笑ってみているだけ。
「なんか悔しい……。でも、今日は平和で良かったよ。精神的には平和じゃないけど……」
「ですねー。あっ! 私は、精神的にホクホクですけど。今日は良い一日でしたー」
「なんか、戻るのが怖くなるな……。トイレで変なことしてないだろうな……」
わざとらしい笑みに、急激な疲労を感じた瞬間。意識が途絶えたようにソファーの背に身体が倒れる。
それは、彩も同じだった。
一つだけ違ったのは、彩は俺の方に身体を向けていたこと。
「おい! ニ人とも、大丈夫か!?」
「班長!! しっかりしてください!」
「大丈夫でしょー? そろそろ夜だったし……って、君枝ちゃんは、気を失ってる雪璃の身体を強引に班長から引き剥がそうとしないであげて……」
どのくらい意識を失っていたか分からない中で、薄く目を開ける。
先に目覚めていたようで、上から覗き込む彩と視線が重なった。
この状況は……一体。
「あっ! 先輩、お目覚めですかー? 美少女の膝枕は最高でした?」
「やっぱり、膝枕!? あっ……東さんの視線が痛い……」
「おはよーさん。もう夜だけどねぇ。急に意識を失うから心配したよぉ。やっぱり、雪ちゃんは、男の姿がいいねぇ」
急いで背中を起こすと、身体の不調は感じなかった。
ようやく自分の身体に戻れたことで、思わず両手で抱きしめる。
「先輩の身体で、したいことが沢山あったのになー……。先ず、身体検査でしょう。それから――」
彩は残念そうな顔で、念仏のようにしたかったことを口にしていて怖いけど……。
やっぱり、自分の身体が一番だと感じて俺たちは夕食を済ませて風呂に入って、秒で眠りについた。
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