第17話 地下室で新たな恋物語
その正体は、LapisとLazuliの二人。
じっと見つめてくる双子と対峙して、考え込んでいた俺のもとにタイミング良く現れた彩を加え、四人で一階にある秘密の部屋から地下の階段を歩いている。
普段から無口なのか、他の人と話すのが久しぶりすぎるからか、終始無言の双子に眉を寄せた。
「彩……。本当に、この双子に着いて行って大丈夫だったのか?」
「大丈夫ですよー。協会の人間が去った後も、この施設を守ってくれていたんですから。良い子たちです」
「まぁ……でも、どうして置いていかれたんだ?」
疑問は残る。
まぁ、俺が次の管理者だとしたら聞いたら応えてくれる可能性は高い。
現状では重要とはいえなさそうなので、一階に戻ってからにしよう。
高さ的には一階分ほど歩いた感覚で地面に足をついた。
ただ、薄暗くて何も見えない。
「あっ……俺、このくらいの暗さなら大丈夫みたいだ」
「そうですよー。先輩の頑張りですね!」
「いや……彩が傍にいてくれたからだろう?」
素直に思ったことを口にしただけなのに、くねくねと身体を揺らして照れる姿に笑いそうになる。
俺たちの会話を聞いていないように、歩みを進める双子についていき揃ってピタリと止まった。
「そ、そうですかぁ? 照れちゃいますねー」
《――こちらです。再び、魔法使い様が現れたとき……此処に導くよう、プログラムされていました》
正面を向いたまま妹のLazuliが語る。話し方も仕草もすべてが同じで、声質でしか判断がつかない。
たどり着いた部屋は扉もなく開放されていて、一歩足を踏み入れた瞬間近くの壁から何かが作動したように明りが灯されていく。
薄暗かった場所に広がっていたのは、スチールシェルフが立ち並ぶ空間だった。
「うはっ……凄いな。こんな地下に、資料庫みたいに本や資料が並べられてるぞ」
「えっ? あっ! は、はい……私も知りませんでした」
「彩? 大丈夫か?」
部屋に入った瞬間、少しだけ様子がおかしくなった彩を心配する。
血の気が引いたような顔色に頬へ手を伸ばすが空を掴み、横に移動した彩は誤魔化すように笑った。
「だ、大丈夫なので! さぁ、中を見回りましょう!」
《――それでは、私たちは、階段前におりますので、御用の際はお申し付けください》
今度は兄のLapisが要件を伝えて双子は階段の方へと戻っていく。
一瞬目を離した間に顔色が戻った彩のあとを追いかけた。
「魔法使いと、あやかしの王についての詳しい資料とかでもあるのか……?」
「分かりませんね……適当に漁ってみましょうか? 時間はありますし」
「そうだな。俺にもだけど、有益な情報になりそうだし。ただ、人数が欲しかったなー……」
背後にある出入り口に立ったままの双子に視線を向けたあと、俺たちは手分けして資料漁りに励む。
「えーっと、なになに……魔法使いの能力とは、魔力器官を感じながら一つの魔法を創造すること?」
「ふーむ。そう言われると、魔法使いは特殊な形態で一つの魔法を使いこなすと過去の資料にあった気がします!」
「なるほど……? 特殊な形態で、一つの魔法しか使えないのか? 思っていたのと違うな」
俺が思い描いていた魔法使いは、漫画やアニメにあるような沢山の種類を使うチートだったんだが。
まぁ、一つの属性だけを扱う作品も多くある。
「うーん……魔法の種類とか、詳しいことはコレには書いてないなぁ。資料多すぎだし……」
「えっ……? 先輩、見てください。重要そうだけど、ちょっと先輩には刺激が強いことが書いてありました!」
「なんだよそれ……」
俺よりも先に何かを見つけたらしい彩が悩むような仕草をしたあと、資料を手に駆け寄ってきた。
「先輩も資料庫で読みませんでしたか? あやかしの王にまつわる伝説を」
「んー。おとぎ話じゃないのか? 一つだけ、なんでも願いが叶うって」
「そうです! それで、自害したあやかしの王は『次に優しい王が生まれ、女の形だったなら、魔法使いの口付けで能力を奪う』って書いてありました! 口付けとかロマンしかありませんよー」
まさか、あやかしの恋物語を聞くことになるとは思わず、彩が見せてきたページに目を通す。
つまり、共に自害したニ人が恋仲だったということを示すものだ。
これについてはハンター側で心中事件が公になっているから、大したことはない。
だけど、おとぎ話が実在して、その唯一の女性だったあやかしの王が次世代に願いを込めたのなら、新発見だ。
そもそも施設に来た際も話をしたように、あやかしは人間らしい感情が欠落しているのが一般常識のはず。恋物語なんて、人間でも出来ないやつは出来ないぞ。
俺のように……!
「魔法使い限定なら、俺はどんなに美人でも……あやかしと口付けなんて考えられないけどなぁ」
「ま、まぁ……そうですよねぇ。私もそう思います! それに、お子様の雪璃先輩には刺激が強すぎますしねー?」
「そういう彩はどうなんだよ……。いつも俺ばかりだけど、男と付き合った経験あるのかぁ?」
少しずつ視線をそらす彩は分かりやすかった。
こんなに美少女なら引く手あまたな気がするが、身体強化能力者じゃ分かる気もする。
「もしも能力を奪ったら、あやかしの王を殺さずに、新たなあやかしが生まれないように出来るのか……?」
「この資料によると、あやかしの王が能力を失うだけで新たなあやかしが生まれないようですねー」
「新たなってことは、現存しているあやかしは寿命が尽きるまでは存在出来るわけか。俺たちがいた施設にあった資料と、そこは変わらなさそうだな?」
だから寿命や自害した、あやかしの王が死んだあと、一時的に減ったあやかしの数が前と変わらなくなったとかの資料は、あやかしの王が復活したのを意味するわけか。
「うーん……あやかしの存在を数ヶ月前に認知したばかりの俺には難しすぎる……」
「仕方ないですよー。少し複雑ですし。まぁ、魔法使いによってあやかしの王を葬るか能力を奪えたら、あやかしの時代が終わるってことです!」
「それって、すべてが俺の肩にかかってないか……?」
また頭が痛い問題が増えた気がしてため息を吐く。
横にいる彩は励ますように両手でガッツポーズを作った。
「大丈夫です! 雪璃先輩には、私という美少女の後輩がいるんですから」
「ははっ……すべてが美少女で片付けられそうだな」
最近は特に、彼女の笑顔をみているだけで元気が出る。
俺は気合を入れなおして拳を握りしめた。
「よしっ。此処で見つけたことを三人とも共有するか」
「……いえ、もう少し様子を見ましょう。一日では、ざっとしか見れませんでしたし」
「えっ? 彩にしては珍しいな。分かったよ。俺と彩の秘密だな?」
俺は、いつも彩がするように、わざとらしく悪戯な笑みを向けてみる。
だけど、今日の彼女は少し遠くを見ているようで、誤魔化すような笑みを返した。
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