第16話 新天地はお化けが出そうな廃墟?
数日後。彩に導かれるまま俺たちは、新たな施設を目指して集団で移動していた。
やっぱり、最初の施設と同じで入口は普通の階段だったのに、気がつくと異世界に迷い込んだような雰囲気をかもし出す空間にたどり着く。
ただ、あそこと違うのは不思議な店などもなく、寂びれた印象の門がそびえ立っているだけ。
どこかカイロスがいた施設に似てなくもない。
ただ、コンクリートに囲まれてはなさそうでホッとする。
「此処が、新天地か……なんか、廃墟じゃないか?」
門を開けた先は、お世辞でも綺麗とは言い難く、施設内が心配になるくらい建物は一部劣化していて、亀裂も入っていた。
ただ、何もないため施設の前には広い空間がある。
「はい。ここは昔、魔法使いを輩出した施設です。雪璃先輩も勉強したと思いますが、例の……心中事件です」
「あっ……なるほど。まさかの、あやかしの王と魔法使いが愛し合って……互いに殺せず、自害したってやつだな」
ハンター内では有名な話らしく、資料庫に大量の文献が残されていた。
「あやかしの王には珍しい、女性だったらしいので……」
「まぁ、基本的にあやかしは人間を真似ているだけで、子作りって概念もなけりゃ、恋愛感情なんてのもないって言われてるからなぁ」
「――あやかしは、人間が生む負の感情から生まれると言われているので、上位のあやかしは人型ですが、親などもいませんしね」
なぜか口ごもる彩をフォローするように、光と東さんが軽く説明してくれる。
まぁ、これは俺も知っているあやかしの常識ではあった。
「うーん……先ずは、この施設の大掃除から始まるのかねー? お兄さんもやるなら、頑張るけど」
「外回りは、見るからにボロいですけど……中を見てからにしません? この人数で、1日じゃ終わらない気がする……」
俺たちがいた施設の半数に減ってしまった人数に眉を寄せる。両親も、危険がない別の施設に移されて離れ離れとなってしまった。
広場を抜けて施設の前にたどり着くと、先頭に立った彩がくるっと回って向き直り、明るく宣言する。
「そこは安心してください! 実は、この廃墟……もとい、研究所として使われていたらしいので、中はキレイです!」
「研究所? あやかしについてとか……?」
研究所だったことに関しては、知っている人間の方が少なかったのかザワついた。
「そこは、アタシが説明しようかねー? 実は、身体強化能力者の少なさで、一般人の被害が絶えなくてねぇ。そこで、ハンターである国際協会はあるモノの研究を始めたんだ。それが、対あやかし戦闘兵器!」
ドヤ顔をするナギコ先生に反応が困る。
ただ、説明のおかげで再び静けさが戻ったのを良いことに扉を開こうとした彩より前に、中から開いてニ人の少年少女が立っていた。
「えっと……?」
「あっ! その子たちが、ナギコさんが説明してくれた戦闘兵器です」
「うへぇ……想像よりも、ちびっ子じゃん。でもって、どう見ても人間の子供にしかみえないとこがエグいねぇ」
雪のように白く、うなじが見える程度の髪に、青く光って見える双眸。色白で、身長はニ人揃って150センチ未満だろうか。
辛うじて中学生くらいに見える少年少女。少女の方が、小型のタッチパネルのような機械を彩ではなく、俺に渡してくる。
思わず彩に向いてから頷かれたのでタッチパネルを受け取った。
他の職員たちとは別で、施設内に案内される俺たちはニ人についていく。
「えっと……俺なのか? それで……これが、君たちの取扱説明書みたいな?」
《ハイ。わたしたちの、コードネームも記載されています》
「おー。明らかに人間じゃないのが分かる、機械音的な声だなー。お兄さん、オタク心がくすぐられるわー」
まさかの、ひっそり尊敬する南雲さんと共通点を見つけて密かに目を細めた。
タッチパネルを手にしたまま、案内された部屋に入るとそこは心臓部のような場所で、触ったら危なそうなコンピューターなどが動いている。
「コードネームか……。あっ、このニ人。少し似てるなと思ってたら双子設定らしいぞ」
「へぇ……どれどれ? ふぅん。コードネームは、LapisとLazuliねぇ。幸運を招く石の名前か」
「……光、顔が近いぞ。えーっと、宜しくな? Lapis、Lazuli」
横から顔を出してタッチパネルを見ているとみせかけて、肩に手を置こうとする光の腕をひねり上げるブレない彩に引きつった笑みを浮かべた。
「あの子たちの反応からみて、この施設のボスは雪璃先輩です! 魔法使いに覚醒しかけている先輩に反応したのかもしれません」
「へっ? 嘘だろう!? 俺が、ボスとか……でも、班長は変わらず彩だよな?」
「もちろんです! 心配しないでください。あの子たちの管理者が先輩なだけです。雪璃先輩を守るのは私でありたいですが、護衛が増えることはいいことです!」
思わず双子に視線を向けると、指示を待つように部屋へ入ってから微動だにしない。
指示を出すより受ける人生を送ってきた俺は、どうしたら良いか分からず眉を寄せた。
「一階は研究所になってはいたが、ニ階の個室とかは変わらなかったから、各自同じ場所を使うでいいかー?」
「私は問題ないですー。先輩の隣は私が死守します!」
「いや……俺は、どこでも寝れたらいいんだけど」
双子は一旦、自分たちが普段していた行動をしてくれと指示を出していなくなったことでニ階に来ている。
先ずは全員別れて個室を確認することになった。
個室は扉が開放されていたため、レプリカを試すことなく中に入る。
「俺の愛用ベッドも無くなって、簡易ベッドかー……。まぁ、命があるだけマシだよな? 大事な物とかは……これだけは、肌身離さず持ってて良かった」
俺は、首からぶら下げていた古びたお守りを取り出した。くすんだ水色をしていて、歴史を感じるお守りの中心には、家内安全と書かれている。
「せんぱーい。私は、もう準備終わったんですけど。入ってもいいですか?」
俺が中に入ったことで、気がついたら自動で閉まっていた扉の向こう側から聞こえてくる声に振り返った。
「ああ、いいぞー。あっ……気づかなかったけど、此処でも同じバッジが使えるんだな?」
お守りをシャツの中にしまうと、普通に班長権限があるらしいバッジで扉を開いて入ってきた彩に、別な施設でも使えることに目を丸くする。
「これは、協会の施設ならどこでも共通で使える優れものなんですよー。便利ですよねー? そろそろ先輩のレプリカじゃないのも来てもいい頃ですが」
「まぁ、俺たちも忙しくしてたわけだし。きっと、どこも忙しいんじゃないか?」
「それもそうですねー。なんせ、私たち身体強化能力者は数が少ないですし。一般人が呼ぶハンターは、協会の人間に対してですしね」
他の身体強化能力者や、ハンターについても知らないことだらけのまま、色々経験した俺はどこか他人事だった――。
「簡易ベッドに、本棚とミニ冷蔵庫も完備されてて良かったわぁ。しかも、あの双子が電気系統だけじゃなくガス関係も使えるようにしてくれてたからぁ、風呂にも入れるみたい」
「へぇ……。朝からバタバタして疲れたし、風呂入ってまったりしたいかも」
「んじゃあ、一緒に入っちゃう? 背中流してあげるよぉ」
諦めを知らない光の言動に、背後から殺気がして俺まで振り返る。
俺の腰に腕を回そうとしていたらしい光は顔面蒼白だった。
自業自得だけど……。
「いえ、あのときに誓ったように雪ちゃんには、何もしません」
「あのとき誓ったって?」
「なんでもありません! 光さんは、先輩のあとに入ること!」
俺の知らないところでニ人は何かの誓いを立てたらしい。
そもそも光が俺にちょっかい出すのは彩に構ってほしいからだと思っている。
「私たちも戦闘で汗をかきましたし、お風呂に入ってきますねー」
「……そうですね。お背中、流させていただきます」
「いいなぁ……。東ちゃんはぁ……」
実際は泣いていないが、涙目の光は羨ましそうにニ人の後ろ姿を目で追っていた。
普段から頻繁に互いの名前は呼んでいないが、不意に疑問が浮かぶ。
「いまさらだけど、東さんだけ、苗字呼びなんだな?」
「あぁ……それね。俺も、一仁さんみたいに君枝ちゃんって名前で呼んだらさぁ。鬼の形相で睨まれてねぇ…汚れそうだから、やめろってひどくない?」
「あー……それは、自分の胸に手を当ててみたらいいんじゃないか?」
どこまで本当か分からない顎に手を当てて悩む仕草をする光に、俺だけじゃなく南雲さんまで苦笑いしていた。
比較的に穏やかなムードになって、数時間が経った頃には落ち着いた俺も風呂に入ってサッパリする。
体から湯気を立て、出て来た俺を二つの小さな人影が待っていた。
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