第14話 プライベート 〜東君枝〜
班長が彼のことを魔法使いだと紹介してから、二ヶ月ほどが経過する。
両親があやかしに呪われたせいで、一年間休学中だと耳に挟んだ。
初戦で"運悪く"上位のあやかしと遭遇して、二度も命を落としかけたみたい。
少し塞ぎ込んでいた彼のために、班長は協会にとって重要で癒しでもある温泉旅館に連れて行った。
――私でも、あそこに行ったのは身体能力者になってから半年後だったのに……。
「――ずるい」
しかも、初めて会ったときから仲良くみえた。
話を聞いていると、二人は先輩と後輩の仲でもないのに班長は彼のことを先輩と呼ぶ。
たまに、下の名前も含めて……。
「私なんて、一年経った今でも『さん』付けなのに……」
昨日、緊急警報によって二人のところに急いで駆けつける。
あやかしが作った空間内に入った瞬間、目に留まったのは桜色の可愛らしいセーラー服をボロボロにした班長の後ろ姿だった……。
そして、班長に護られる彼の悲痛な表情。
「でも、やっぱり私のときとは全然違ってみえた……」
思わず班長をこんな姿にした上位のあやかしに強烈な殺意を覚えたけれど、血走った彼女の目に身体が震えた。
当然、恐怖ではない高揚感。
「私が惚れた、班長の姿……」
彼に向けられた感情だということは、この際置いておくことにした。
でも、班長の胸元を見て邪な眼差しを向けた光永雪璃は許さない……。
そんな私は、休みをもらって自室で寝転がっている。
普段はこんなだらしのない姿は見せない。
一年前のあの日、私を救ってくれた班長のためにも完璧を目指している。
けれど、班長は彼のために涙まで流した。
温泉旅館の夜。寝静まった中で、部屋を出て行く班長が気になって追いかけようとしたら、ドアの前で声が聞こえて聞き耳を立てたら彼だった。
二人を追いかけた私は中庭で話をする様子を陰からこっそり眺めていて衝撃を受ける。
しかも、班長の心に寄り添う振りしてあんなことまで……。
「私なんて、同性なのに……抱きしめたこともない」
班長は私たちには弱みをみせたことがない。
その前に、彼が現れる前と今の班長は別人のように明るくなった。
普通の女子高生にしかみえない笑顔まで。
あれが素の彼女なのか分からないけれど、昔より全然いい。
助けてもらった一年前。班長は、心がないように曇った瞳をしていたから――。
「――大丈夫? まさか、一軒家を襲うあやかしがいるなんて思わなかった……。貴女もそう……一人ぼっちなら、一緒に来ない?」
寝ている間に起きた事件。受験を控えて猛勉強していた私は、負の感情に飲み込まれていた。
「あの子は、努力もしていないのにA判定なんておかしい!」
そう、叫んだ夜。気が付いたらあやかしが家を破壊して、両親を――。
班長は華麗に舞う天女のように空から現れて、一撃であやかしを殺した。
今でも覚えている。
「――当時は、中学生だって聞いて、驚いたな……」
あの日から私は、班長を崇拝した。
まさかの能力者として班長の下に集ったのは、三人目だったけど……。
チャラ男から班長を守って、一番になろうと努力した。
それなのに、突然現れた新人の彼に奪われてしまう。
班長が求めていた"魔法使い"。
「唯一、あやかしの王を殺せる人間の希望……。私たち協会にとっても重要人物に変わりはない」
天井を見つめていた身体を横にして扉を睨みつける。
私の向かいには班長の部屋があった。
彼は班長の隣部屋らしい。
「……班長、私の部屋に訪ねてこないかな」
そんな調子の良いことが起こるわけがないことは分かっている。
今日は何も手がつきそうにない。
このまま寝てしまおうかと思ったときだった。
トントンとノックする音がして勘違いした私はすぐに扉を開く。
「はい! あっ……貴方だったの? なんですか?」
廊下に立っていたのは私の崇拝する班長ではなくて、ライバル視している彼だった。
「あっ、もしかして寝てた……? 悪い。その、みんな出払ってるみたいで」
「そう……。それで、何か用ですか? 私も、忙しいので」
「悪い! その、施設の外に出て店とか見てきてもいいかなって」
光永さんが言っているのは、この施設を出たところにある町のような広場みたい。
あそこも施設の一部だから、あやかしの心配もないけれど……。
どう答えるのが正解だろうか。
「そうですか。施設の外である、あの広場もあやかしに感知されない場所なので安全です。その先にある階段を上って、本当の外には出ないでくださいね」
「そっかぁ。有り難う! もし、彩が戻ってきて探してたら教えてやって」
嬉しそうな表情で感謝を述べて走っていく彼の後ろ姿を見つめる。
彼に何かあったら、班長は悲しんで、きっとまた前に戻ってしまうのは嫌だった。
「彩か……。私も、名前を呼び合う仲になりたい」
扉を閉めた私は誓いを立てる。
光永さんのことは好きになれないけれど、班長のために魔法使いである彼を守ろうと。
「けれど、魔法使いとして覚醒した彼が、本当のことを知ったらどうするかしら……」
暇なのに変わらない私は、ノートパソコンを開いて監視カメラをハッキングする。
町のような広場に飛ぶドローン型の監視カメラで探すのはもちろん――。
「いた……。もうお昼時だったのね」
彼は肉を挟んだサンドイッチを食べていた。
しばらく追いかけていると、軽食も買っている。
部屋に戻ってからも食べるのだろうかと眺めていたら、突然大きな音を立てて扉が開いた。
「ごめーん! 君枝さん、雪璃先輩知らないかな? 部屋にはいなくて、施設内を探したんだけど」
「あっ……班長。お帰りなさい……その、彼なら――」
「あー! こんなところにいた。えっ……待って。監視カメラをハッキングまでして、先輩を監視してるなんて、もしかして……」
コロコロと表情を変える班長が良からぬことを考えているのは容易に想像がつく。
まさか、彼のおかげで部屋を訪ねてくれるとは思わなかったけど……。
「断じて違います。私には、恋愛よりも大事な方がいるので」
「えっ? そうなの? 知らなかったなー。あっ! 先輩、戻ってくるみたい」
すぐに誤解が解けて施設内の監視カメラに切り替えると、まっすぐ目指しているのは自室のようだった。
この部屋を通る前に彼の部屋があるから、扉を開けて出ていこうとした班長が大声をあげる。
「班長! どうかしたんですか――えっ?」
「あっ、寝てなくて良かった。まさか、彩までいるとは思わなくて悪い。一つしか買ってなくてさ」
「いえ、私は大丈夫ですよー。外で昼食も済ませてきたので!」
彼が手に持っていたのは、さっき購入していた軽食だった。
私は目を疑って思考停止していると、笑顔が返される。
「あー……昼まだかなって。迷惑じゃなかったら、これ」
「えっ……。これ、私の好きなサンドイッチとスープ……」
「それ、私が教えたんだよー。雪璃先輩、早くみんなと仲良くなりたいからーって」
ライバル視していた光永さんのおかげで、知れたことが二つあった。
一つは、班長が私の好きな食べ物を把握していてくれたこと。
もう1つは……彼は根っからのお人好しだ。
班長が、魔法使いとしてだけじゃなく好意を寄せる理由が分かってしまう。
「――認めたくないけれど、今日は完敗しました。それと、昼食はまだでした。有難うございます……」
「えっ? 完敗って、なんの……あ、うん。どういたしまして」
「雪璃せんぱーい! このあと、お部屋に行ってもいいですか?」
立ち去っていく二人の姿を視界に入れながら、手に持った軽食に視線を落とした。
そして、彼がしきりに寝ていたかと言っていた理由も判明する。
班長はまったく気がついていなかったけれど、履いていたスカートの裾が少しだけめくれていた。
「――優しい、変態さん……」
片手で裾を直した私は、扉を閉めてから小さなテーブルの前に座って、彼が買ってきてくれた昼食に口をつける。
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