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あちーぶ!  作者: キル
95/246

『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』25

~~~アカネ~~~


「このあたりでギンガさんに会ったのですわ」


 ベリクへ戻るのに時間がかかったのでゲーム内では1日経過した。チャコ達は今日戦争に参加してるはず。

 その間に私たちは、紫帆先輩とギンガが出会った場所へギンガに案内してもらった。森を出て草原を横切った後で街道に出たから、ダンジョンはもっと先だよね。


「精霊に聞いたら出てきた場所を教えてくれたりはしないんよ?」


「精霊はそこまで人に関心を寄せはしないわね。上位精霊なら違うのでしょうけれど、ここに居る精霊は覚えていないわ」


「街道と畑を目印に移動したってことは、斜めに歩いたと思うんよ」


 未黒先輩が街道から斜めにズレた方向へと鞘に納められた刀で示す。とりあえず、これといって目印も無いので森へ向けて斜めに進むことにする。


「シホ先輩は森で、精霊にどうお願いしたんですか?」


「とにかく森を出たいって話したわね」


 となると、最短コース? 周辺は……あのあたりが森と草原の境目がへこんでる。


「あそこから入りましょう」


 相変わらず未黒先輩の肩で子猫のまま乗っかりながら、前足を差し出して方向を示す。少しでも匂いなどの痕跡を発見したら、追跡するためだ。

 森の中に入っても、紫帆先輩の痕跡を感知することはできない。流石に場所が離れすぎてるだろうし、時間が経ちすぎたかも。


 時々現れる魔物のリッキーを倒しながら森を進むと、森を突き抜けて別の草原に出た。


「途中で草原に出ることはありませんでしたわ」


「通り過ぎたのかな?」


 後ろの森を振り返ると、銀華が何かを確認するために草原の離れた場所に移動した。


「こっちに川がある!」


 手を振る銀華の場所へ向かうと、川幅は細いけれど川があった。これが川の匂いか。


「しほちーは前の時代に川沿いを歩いたんだから、この時代もそうはかわらんと思うんよ」


「これだけ川幅が細いと見逃したかもしれませんわね」


 改めて川沿いを進みながら森の中を進むと、行く手に地面が盛り上がったような土の塊が見えた。


「あれですわ! ダンジョンの入口」


 紫帆先輩が指をさす。近寄ってみると、地面に掘られた直径1メートル程度の穴が開いている。ダンジョンというより、巨大な動物の穴みたい。


「よくこんな穴に入ろうと思ったんよ」


「森の精霊とは違った精霊がここに居たから、何かあると思ったのよね。それに、向こうの入口はこれではなかったのよ」


 紫帆先輩は精霊が見えるから、私達とは違った視点でこの穴を見ているのか。どう見たってただの洞穴だから、見過ごされそうだよね。


 穴の中に飛び込んで、正面を見ると、ダンジョンの入口である黒い壁が見えた。この黒い壁に入ると、ダンジョンというまったく別の空間に移動する。

 このダンジョンの入口は、私が猫状態だから普通に入れるけど、人間の状態だったら屈んで手を地面に着くように進んでようやくギリギリってサイズなほど狭い。


「先に入ってるね」


 子猫状態なので、フットワークは軽い。黒い壁に入ると、一瞬の浮遊間と共に別の世界、ダンジョンに移動した。


 ダンジョン内は、石で囲まれた四角い部屋だった。ここは初級ダンジョンだね。

 上級ダンジョンになると、地上と区別がつかないほど広いダンジョンになるんだけれど、部屋と通路で区切られたダンジョンは初級から中級。中級は部屋の中が豪華で、各所に装飾がされているので、ただの石壁のここは初級ダンジョンで間違いがない。


「あれ?」


 先輩たちが入った後で、最後に銀華が入ってきたけれど、銀華は声を出してから外に出て、また戻ってきた。


「おまたせ! アクアの声が聞こえなくなったから確かめたんだけど、ダンジョンに入ったら声が届けられなくなったんだって!」


「比喩ではなく、本当にダンジョンは別世界なのね」


「個人チャットとかは通じるから、あれは世界や時代は関係無さそうなんよ」


 4人が部屋に揃い、先へ進もうとしたところで全員が先を見るだけで止まる。


「この4人、探索系タイプが居ないわよね」


 戦士、戦士、治癒士、魔法使いだ。ダンジョン探索するにはちょっと心もとない。


「精霊魔法に探索系はないんですか?」


「精霊は見たものをそのまま感じ取るだけだから、探索向きではないのよ。魔物が居るかどうかはわかるけれど、罠とかは無理ね」


「ギンガが前にでるよ! レベル12あるからHPの余裕がある!」


「たっか! ぎん子圧倒的すぎるんよ」


 ということで、銀華が前で、後ろが未黒先輩、中央が紫帆先輩で、紫帆先輩の肩に私。


「あ、ギンガこれ使いなよ」


 ストレージから木の板を取り出す。島で流れ着いた船の素材だと思われる物だけど、丈夫な素材なので盾に使えそう。


「ありがと!」


 斧と板を手に、ギンガが部屋を出て通路を進む。紫帆先輩に話を聞いてもいいけど、どうせなら全部マッピングしようってことでくまなく探索することになった。


 魔物は普通に出る。頻繁に出てくるのは、リッキーとは別の、口が長い生き物だ。耳がとがって飛び出ている姿だけ見ればコボルドっぽいけれど、目玉が爬虫類のようにぎょろりと飛び出していて、ちょっとよくわからない。


「これってコボルド?」


「そう思いますわ。西洋のコボルドは爬虫類タイプですから。日本の犬タイプと混ぜたのでしょうね」


 なるほど、これもコボルドなのか。犬頭のコボルドばかり見て来たので、これがそうだとは思わなかった。犬タイプ可愛いから混ぜないでほしい。いや、倒しやすいと考えればありがたいかな?


 出てくるコボルドは、弱くて数も少なく、ドロップも小さな魔石だけだった。今のところ罠も無いので、マッピングも快適に進む。


「とりあえずこの階はマッピングが終わりました。何もないですね」


 先輩たちや銀華は周囲の警戒をしているので、マッピングは私の仕事。システムのメモ帳を取り出して、紫帆先輩の歩く歩調に合わせて距離を測りながら書き込んだ。


「じゃあ、端の下り坂に向かうんよ」


 まだ進んでいない下り坂に入り、先へと進む。紫帆先輩は坂を上ったかどうかハッキリ覚えていないけど、とにかく壁際に沿って狩りをしていたそうだ。


 下り坂の途中に分かれ道がある。さらに下るか、途中で横に寄るか。分かれ道の先を見ても、魔物が居る様子はない。


「階ごとに下りを探すんじゃないんですね」


「戦いたいレベルの相手に一直線に向かえるから、ゲームとして考えたら親切なんよ」


「古代技術の階層エレベーターよりは原始的で安心感あるわね」


「エレベーターは壊れるかもしれないからな!」


 下に行くか横にそれるか相談した結果、下に向かうほど魔物の強さに変化があるかもしれないので横に進むことにした。


 予想通りというか、コボルドが強くなっている。上の階では棍棒みたいな武器を持っていたのが、ショートソードに代わっているし、体格も少し大きくなっていて、性格もやや好戦的になってる気がする。


 とはいえ、レベル12のギンガの敵ではなかった。数が居たとしても余裕で受けきれるし、横から飛び出した相手も、未黒先輩が難なく倒してくれるので、ヒールを使うこともなかった。


 ドロップ品は、相変わらず魔石のみ。ショートソードなど、魔物が持っていたものはそのまま消えてしまう。変化としては、魔石のサイズが大きくなった程度だ。


「あれって出口じゃないか?」


 先頭を進むギンガが、正面の黒い壁を指さす。入口にあった壁と同じだ。こちらの出口も高さが低いのか、私以外は屈まないと入れないサイズだ。


「マップは完成してないですけど、どうします?」


「目的はこれなんだから、進むんよ。入ったときと同じく、あかちゃん先行してもらっていい?」


「はい。それじゃあ行ってきます」


 屈まなければ入れない入口の性質上、出た先でアクシデントがあったら素早く黒い壁を潜れる人が最初に出た方がいい。部活のメンバーだと一番いいのは探索向きのスキルを持っているチャコで、時点が子猫の私だから、ここでは自然と私の役割になっている。


 黒い壁を越えて進む。

 出た先の光景は、掘られた土の中だった。上を見ると穴があるので、そこから出るとすぐ真上に木があった。振り返って後ろを見ると、木の根本の隙間がダンジョンの入口になっていた。


 木の周囲は草で覆われていて、子猫の高さでは周囲がよく見えないけれど、耳を澄ますと川の流れによる水の音が聞こえた。


「あの細い水の流れが川になったのかな」


 木を登って周囲を見ると、大河ではないものの立派な川が流れている。さらに周囲を猫五感で調べてみるけれど、危険な動物や魔物は居なさそうだ。


アカネ:動物も魔物も居ません。

ミク:了解。危険がないならシホ、ギンガ、わたしの順で進むんよ。

アカネ:入口狭いのでゆっくりお願いします。

シホ:ええ。じゃあ行きますね。


 しばらく待つと、紫帆先輩が穴から体を起こして地上に降り立つ。


「あぁ、確かにこんな感じの風景だったわね」


 土で汚れた服を払いながら、周囲を見渡す紫帆先輩。ここで間違いなかったのか。

 ここから紫帆先輩が入ったのだとしたら、本当になんでこんな妙なところに、入ろうと思ったのだろう。普段は綺麗好きなのに、こんな土の中に嬉々として潜り込む先輩はイメージできない。


シホ:外に出たわ。

ギンガ:じゃあ、次はギンガの番!


 そして、次のギンガが出てくるのを待つ。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 精霊と妖精は別物です。精霊は人に興味が無いので、姿も人の姿をしていません。上位精霊だと似せることは可能ですが、自分の意思で人の形をとることはありません。もし人の姿をした精霊が居たなら、それは誰かが頼んだ姿です。

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