『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』21
「申請も終わったし、お城見学に行こうか」
「入れるの~?」
「正面の庭園までは入れるかな? さすがに奥の城内には入れないけど、庭園がすごく綺麗だよ」
さすがに、気軽にお城に入れる設定では無かったか~。
冒険者ギルドを出て、ギルド前の広い通りを右に進むと大きな噴水が見えた。あ、リバ石発見~。
セーブをした後、黄金音先輩は少しログアウトするから待っててって言うので、噴水の縁に座って街中をぼーっと眺める。。
人通りもそれなりにあって、平和な感じがする。この状況で戦争って言われてもよくわからないな~。お店にも食べ物はあふれているし、単に領土を拡大したいだけかな~?
「こんにちは、妖精さん。これをどうぞ」
背が低いひげもじゃの男性、ドワーフかな? その人からアップルパイの欠片を貰った。
「ありがと~」
その男性はそのままどこかに去っていった。お礼とか関係なく妖精に食べ物を恵む文化があるみたい。
パクリと食べる。甘い! 欠片とはいえ、あたしからみたら食パン1斤近いサイズだからお腹いっぱい食べれる~。
小さい男の子が手を振ってくるので振り返した。
若い女性が「可愛い妖精がいた」って恋人に話しかけていた。
年配の男性がビスケットを1つ譲ってくれた。
みんなこの街に住む人は気のいい人たちばかりで、すごく楽しい。戦争とか魔物とか、嘘みたいな世界に思えるけど違うんだよね~。
「おまたせ。……おいしそうなの食べてるね」
「貰いものだよ~」
「さすが妖精。それで、ログ見てきたけどミカンちゃんが王都に居るみたいだから、合流できるならここで待ち合わせようって伝えたよ。他の人はまだ遠そう」
「キリ先輩って早く村に着いたっぽいのにまだ来てないんだね~」
「到着した村が廃村だったみたい。街道を徒歩移動だから時間かかるって書いてあった」
廃村か~。魔物が居る世界だし仕方がないのかな? あたしの場合は運よく船で移動出来たけれど、場所によっては移動に苦労するんだね。クエストでそういった村に行く場合は移動手段を確保しないといけないのか~。
「ここで待ってるの?」
「いや、ログに残しただけだからね。ミカンちゃんが都合よくログを見るかわからないし。一応、1時間ごとにログを見に来るからって残しておいたから、会えるとしてももう少し後じゃないかな」
「そっか~。じゃあ庭園に行こう~」
高台になっている宮殿を見上げて、移動を開始する。お城まで続くこの道は、今までより少し広い通りになっている。道を登っていくと、通りの左右の家が豪邸になっていくので、貴族街なんだろうね~。やっぱり宮殿に近い家が一番身分が高いのかな~? 通りに面したお店も、ちょっと高級そうな感じがするよ~
高台を登ると、3メートル程度の低い塀が、遠くに見える宮殿の手前に、横断するように建てられている。今歩いてる道の先には、庭園へ入れるように塀にある門が開いていた。
門には兵士が居るけれど、あたしたちが通っても何も調べることなく通してくれる。
「無防備な気がするけど~?」
「そう思ったんだけど、入りやすいからこそ相手を誘導しやすいんじゃないかな? 塀が低い理由もね。後ろを見て?」
後ろを見ると、貴族の屋敷が塀を超えて覗いている。こっちから見える貴族の屋敷の屋根は、どの屋敷もお城みたいに頑丈な壁面になっている。段差があるその屋根は、こちらへ隠れて魔法を撃てるような形状をしてるな~
「あの屋敷が、矢とか魔法を撃ったりする狭間の役割があるんじゃないかな? この庭園もすごく広いわけじゃないし、離れた場所にある城壁は背が高いからね」
周囲を見ると確かに遠くの城壁は背が高い。一方の庭園は背の低い花が中心で、お花畑って感じですごく綺麗だけど、ここに攻め込んだら隠れるところはあんまりなさそうだ。
「ま~、国の防衛を気にしても仕方がないか~」
「私たちはただの冒険者だからね」
あたしたちが気に病んでも仕方のないことだ。国の偉い人がきっとなんとかするんだろう。
城壁とかは忘れて、目的の庭園を堪能しよう。
色とりどりの花がそこら中に咲いているけれど、咲く花の種類や色が場所ごとに管理されているので、全体を見渡すと美しさが際立つ。
花の名前が書かれたタグも、花の形だったり動物の形だったりして、作ってる人のこだわりが感じられるのがいいね~。
庭園の花は背が低いけれど足元が隠れるくらいには高さがあるので、少し離れた場所に居る他のお客さんは、花畑の中に立っているように見えて幻想的。カーブしている道が多いから、道がすぐ途切れて見えなくなるからだろうね~。
カーブしているから道に迷いやすいと思うけど、所々に全体図の看板があるから、目的の花に行くため、どの道を通ればいいかすぐにわかるのも親切でいいな~。現在地だけでなく、どんな花があるか名前が書かれているので、目的の花に向かいやすい。
看板は立て看板ではなく地面に斜めに寝かせてあり、花の高さを超えないようになっているので、花畑の景色を一切邪魔しない徹底した配慮がされている。この庭を作ってる庭師さんはすごいな~。
花畑の中をふわふわと飛んで楽しんでいると、視線の先にあたしと同じように花畑に入ってる男性を見つけた。そして、あたしと違って普通の人だから、空を飛んでいないので花を踏んでいる。
「ちょっと~、おじさん花を踏んでるよ~?」
「んん? なんだ、妖精か。すまんな、ちょっと急いでてな」
そう言いつつ、花畑を直線に突き進むおじさん。どうやら向かう先にいる人達と合流するために急いでいるようだ。
いくら急いでても、花畑を突っ切る必要は無いと思うんだけどな~?
「遅いよキグイ。って、何だいその妖精は」
おじさんの知り合いか、数人の一団が居た。年齢がバラバラだから、職場の人の集まりって感じかな? 友達の集まりとは思えない。
「あのね~、急いでても花畑の花を踏むことないでしょ~?」
腰に手を当てて怒っているポーズをとる。小さすぎて迫力は無いだろうけれど。
「あぁ、すまないね。これで許してやってくれ」
女性は手持ちの袋から携帯食料を出す。いや、ちがうでしょ~?
「あたしじゃなくて、お花が可哀想だっていうの~!」
妖精に食べ物を渡せば何でも大丈夫って勘違いしてる。騙されがちな妖精も居なくはないけど、そこまで考えなしの種族ではない。
「そうか。ま、今度から気を付けさせるよ」
そう言い残して団体はこの場から移動し、うやむやにしてしまった。
あたしはこの庭園の管理者じゃないからその立場では引き留められないけど、なんか腹が立つな~。
離れていく団体の背中に向けて[妖精のいたずら]を発動。単体に向けた魔法なので、誰に当たるかはわからないけど、とりあえず花を踏んだおじさんを狙うつもりで撃った。
結果はまだ出ていないな~。この先どこかで魔法の効果が現れるのかな? 今回はそこまでヘイトも増えてないから、確実に悪い結果が出るわけじゃないし、いい結果の可能性もある。せいぜい、どこかで転ぶくらいだろうな~。
「チャコちゃん? いきなり飛んでどうしたの?」
あ、黄金音先輩を置いて来ちゃったんだった~。
「ちょっと腹が立ってね~」
経緯を軽く説明すると、黄金音先輩もその人達に怒ってくれて、警備している兵士へ一緒に通報~。
その後は、連絡の取れた蜜柑先輩と会うために噴水の場所へと戻ることになった。
花畑越しに写真を撮影すると幻想的な感じでいいですよね。妖精と花畑のセットは似合うと思います。




