『テラパレット』06
「クエスト受注もあるんだね~」
UIには、『クエストを受領しますか?』と書かれていて、決定と保留のボタンが表示されている。
「うん。詳細も書いてある」
クリア条件:ゴブリンリーダーの討伐
クリア報酬:『レシピ:修理道具(装備)』、『レシピ:修理道具(施設)』
アチーブメント:『ゴブリンの敵』
「これ! このアチーブ!」
「クリア必須だねー!」
先輩から言われた目標のアチーブが報酬になってる! これはやるしかないね!
「じゃあ、決定押していいのかな?」
「あ、ごめん! もう押しちゃった!」
「じゃあみんな押そうか」
銀華がさっさと押したみたいなので、みんな押すことに。
システム:クエスト受注『ゴブリン拠点への襲撃』
「巻物が地図に変わった。多分、ここがゴブリンの拠点」
蒼奈が持っていた巻物が、四角い地図に変わっていた。地図を見ると、何も書かれていない白い空白の一か所が赤く光っている。地図の端の方では、海岸や川が描いてある。私たちが移動した場所だけ、地図に載っているんだろう。
「川のさらに上流かな~?」
「洞窟から真っすぐのが近そう!」
川の流れからすると、そのまま川沿いに進んだ方向にありそう。ただ、直線に真っすぐ進むのであれば、洞窟の方が近い。
「距離としてはさほど遠くない。10分か15分くらいかな? ただ、相手の情報が何もないから、偵察してから戦いたい」
「村の跡地にもゴブリン居たし、川沿いは偵察には向かないかな?」
「洞窟側は山越えっぽい気もするけどね~」
確かに、あの洞窟付近の崖を登るのは苦労しそうではある。でも、登った先はまだ探索していないから、偵察に向いているかどうかはわからない。
「とりあえず、方角だけでも調べよう。コンパス取ってくる」
そういって、蒼奈が家へコンパスを取りに行く。そういえば船から持ってきてた。コンパスを持ってきた蒼奈が、地図の向きを色々変えながら方角を確認する。
「ゲームらしく、きっちり東西南北に別れてる」
四角の地図のそれぞれの辺に向けて、垂直になるようにきっちり方位が決められているのがわかった。すごくわかりやすい。この地図とコンパスがあれば迷うことなく進めそうだ。
「朝になった~」
「地図もコンパスも1つしかないから、どっちかしか偵察いけない。どうする?」
「白紙の地図ってあったよね? 活用できないかな?」
「船から色々持ってきてたな! 持ってくる!」
家に銀華がダッシュして取りに行った。それを見送ってから地図を眺めていると、急に▽マークが現れて移動を始めた。
「アオナ、このマークって何?」
「移動してるね。何かな……」
「あれじゃない~?」
そういって茶子が指刺すのは、銀華だ。銀華というよりは、その手にある旗を刺したのだろう、船から持ってきた旗も持ってきているようだ。
「なるほど。旗の効果は地図に自分たちの位置表示をさせるアイテムなのか」
「おまたせ! 色々持ってきた!」
旗や地図を持ってきた銀華は、地面にそれぞれ置いた。すると、地図から▽マークが消えた。
「装備しないとだめなんだね~」
「ん? どうしたんだ?」
銀華に旗の効果について説明し、実際に私がもって歩き回った。その結果、やはり旗を装備した人を地図上で表示させるアイテムだと確信した。
「上手く使えばコンパスより便利だね。未使用の地図が機能すれば、2組に別れて偵察に行けそう」
「使っちゃおう。今のところ他に使う用途無いし」
茶子も銀華も頷いている。残しておいても意味ないからね。未使用の地図のレシピもあることだし、そのうち作れるようになるアイテムだからどんどん使っちゃえばいい。
「そうだね。じゃあ、使ってみる……選択肢が出てきた。地図をコピーするか、周辺地図を作るかの2択」
「コピーのが間違いなさそう~」
「うん。コピーして……できた。アカネが持ってる旗も表示されてる」
ということで、偵察をするグループを決める。近接攻撃がそれぞれ必要だろうから、私と銀華は別グループ。結果、私と蒼奈が洞窟側からコンパスを持って進むグループで、茶子と銀華が旗を持つグループになった。
私たちがコンパスを持つ理由は、洞窟から直線に進むので方位がわかるコンパスで問題ないからだ。定期的に座標を見ればコンパスの変わりになるけど、座標は常時表示できないし、持ちっぱなしでいいコンパスのが楽だ。
一方で茶子たちが進む川沿いは、カーブが多い場合でも自分たちの場所が常に地図に表示されているから、地図だけを頼りに目的地へ進めるので旗を持ってもらった。
その後は、パンを食べた後で別行動になった。私と蒼奈のグループは洞窟に到着。周辺を見渡してみるが、やはり崖のようになっていて、洞窟からすぐ上には登れそうにない。
横へ迂回すると、登れそうな斜面があったから、そこから一度登って、洞窟のすぐ上まで戻ることにした。洞窟の上は、いくつか樹木もあったけれど、ほとんどが岩場だった。
「ここから、おおよそ北北東。まずはコンパス通りに進んでみよう、進めない場所があるかもしれない」
目の前の景色は、左側に高い山があって、右に向かって斜面となり正面に近い場所が今の高さと同じ。手前は草原が広がって、奥には森がある。目指す北北東は、今の高さと同じ平地で、進みやすいように見える。ゴブリンの拠点は山裾なのかな?
コンパスと座標を確認しながら進む蒼奈についていきつつ、周辺を見渡しながら進む。
「ねえ、アオナ。ちょっとストップ」
「ん。どうしたの?」
離れたところに、気になるものが見つかった。あれって花畑?
蒼奈と一緒にそちらへ近寄ってみると、赤い花がかなりの数咲いているのが見えた。1つ採集してみると、赤ハーブの表示が!
「これ、赤ハーブ! 集めよう!」
「まって、袋を持ってきてない。座標だけ覚えて後で来よう」
そういえば、集める袋を何も持ってきてなかった。それにしても、崖の上にあったのかぁ。これでヒールポーションはどれだけ作れるんだろう!
元の位置に戻り、再度コンパスを頼りに進む。森に到達し中へ入っていくけれど、山道になることもなく平地のように進めた。
「アカネ、これ道に見える?」
途中で蒼奈が立ち止まり、少し前の地面を指さす。そちらを見ると、草や枯れ葉が積み重なった森の中で、一直線に続いた地面が見えた。
「けもの道っぽいね。ちょっと離れよう」
推定けもの道から距離を取り、隠れるようにしゃがんで相談をする。
「動物かゴブリンかはわからないけど、位置的にゴブリンと関係ないとは思えない」
「一応、どんな足跡か調べてくるね? ゴブリンの足跡はわからないけど」
「……そういえば、そんな特技あったね」
何しろ、小学生の頃から私は『もふれ! もふもふの里♪』を遊んでる実績がある。全部は覚えてないけれど、動物の足跡コレクションはフルコンプしているのだ。
周囲を警戒しながら、けもの道へと近寄る。蹄の跡があるな。馬よりは小さい? 鹿だろうか。あまり大型の生き物は通って無さそうだ。他には、爪のある動物の足跡もある。人型じゃないからゴブリンではなさそうだ。爪が出しっぱなしだから猫じゃない、残念。じゃあ、ちょっと大きめのイヌ? でも全体的に細長い……キツネ?
顔を上げて周辺の木や草を見る。木の皮が削れている。食べたのか、角をこすったのか。草も、むしられた後がある。食べてる可能性はあるよね。
他には……ん? 地面をこすったような一本の線がある。近寄って周辺を確認してみる……これかな? サルっぽい足跡。足跡の横は地面に線を引くような跡。何かの道具かな? その場所にある道具を拾って使うんじゃなくて常備しているってことは、サルではなくゴブリンかもしれない。
蒼奈の所へ戻って、見た内容を伝える。
「アカネがゴブリンって思ったのなら間違いないね」
「ゴブリンの足跡の大きさはわからないけど、歩幅は大きそうだったからね。小型のサルじゃないはずだよ。道具もそれっぽい」
「それじゃあ、どう進もうかな」
地図を確認する蒼奈。目標地点にはかなり近づいたけれど、まだ距離がある。けもの道の内側に入るということは、相手のテリトリーに入るということだ。
「川とは反対側に続くけもの道に沿って進んでみよう。あまりに離れるようだったら内側に入る」
けもの道付近をしばらく進んでいくと、道が目標の拠点の方へカーブしていった。途中、道が分岐していた。山に向かう側は利用頻度が高そうで、もう一方はなんとか道だとわかる程度。足跡を確認すると、なんとか道だとわかる方向がゴブリンの足跡があるので、そちらを選び進むことにした。
蒼奈が足を止めて、こっちを見てくる。頷いて、近くの隠れられそうな場所に移動してふたりともしゃがむ。蒼奈が指さす方を確認する。
「アカネ、見えた?」
「うーん、なんとなく動いてる感じはするんだけど」
「そっか。僕にはゴブリンが1体居るのが見える。ナイフを持ってるからゴブリンシーフかな」
「よく見えるね……知性の影響かな?」
「かもしれない。知覚判定とか他のゲームだと知力が関係するよね」
蒼奈が開いた地図を見ると、ゴブリンの拠点が近い。というよりは、今ゴブリンが居る場所がそうなのかな? 建物らしいものが無いので、判断がつかない。
「ゴブリンを迂回しながら、周辺を回ってみよっか?」
「全容が知りたい」
ゴブリンを中心に、円を描くように歩いていると、川にぶつかった。渡れるかどうかは微妙。水流がちょっと速そうだ。
地図を確認する限り、拠点は川を渡らなくて大丈夫そうだ。
「さっきのけもの道は、本当に動物のための道かも」
川付近を拠点にしているなら、川へ移動するためにあんなに大回りなけもの道を使わなくてもいい。おそらく、動物がゴブリンを避けるために通った道だろう。さっきの分かれ道の反対側の先が、動物が生活している場所かもしれない。もふもふへの道はあちら側だったか……。
「別のゴブリンが地面から出てきて、さっきのゴブリンが潜っていった。地中に居るなら、全体の把握が難しい」
「アリの巣みたいだと難しいよねー」
「出口の数だけでも把握したい。もう少し近づいてみよう」
アオナ:ゴブリンの拠点を川沿いに発見。地中で生活しているから注意。
チャコ:は~い。こっちはまだゴブリンに会ってない~。
さすがにちょっと遠回りだから大変そうだ。
じりじり近づいてゴブリンを観察するけれど、どうやら出入りしている穴は1か所だけのように見える。その穴もさほど大きくなく、1体が出入りするのが限界のようだ。
「蓋ができそうだねー」
「あれしか入口がないなら、入るしかないのか」
「煙とかで討伐できればいいんだけど」
そのあたり、ゲームで設定されているかどうかで大きく変わる。リアルよりのゲームであれば、一酸化炭素中毒もあり得るけれど、このゲームみたいに色々簡略化されているゲームの場合、現実の当たり前も簡略化されていることが多い。
チャコ:ゴブリン見えた~。地面じゃなくて洞窟っぽいところにいる~。
地図を確認すると、ゴブリンが出入りしている穴を挟んだ反対側に茶子達が居るみたいだ。
アオナ:そこ以外に入口はなさそう?
チャコ:まってて~
移動して探している様子が、地図の▽の動きでわかる。しばらく移動した後で、最初の位置に戻った。
チャコ:なさそう~
アオナ:ありがと、合流するから待ってて
チャコ:了解~
川沿いはさすがに見つかりそうなので、大きく迂回して茶子達が居る場所へ向かう。穴の付近に居たゴブリン以外は見当たらなかったため、安全に移動出来た。途中でけもの道と合流し、半周を超えたあたりで下り坂になった。そのままけもの道を下ったら、けもの道から少し外れた川沿いの木の陰に茶子達が隠れていた。向こうもこっちに気が付いたようで、お互い小さく手を振った。
「こっちのが入口みたいだね」
こちら側のゴブリンが利用している洞窟は、人間でも立ったまま入れそうな程高さはある。そのかわり、横幅は狭くひとりしか入れなさそうだけど、潜り込む穴よりはよほど出入りが容易そう。崖を利用した天然の洞窟で、縦に割れた亀裂を拠点にしているみたいだ。
「ゴブリンの出入りはどうだった?」
「普通のゴブリンと、ソルジャーがいた~。ソルジャーは棍棒と盾だったよ~」
「今2体居るけど、途中見張り交代したから確認したのは4体」
「上の見張りも1体だけだったけど、交代してた」
「リーダーも入れると、確認しただけで最低7体は居るのか」
こそこそ話をしながら、見張りをしているソルジャーを見た。外見は普通のゴブリンとよく似ているけど、盾装備と、あと服装も分厚そうな服を着ている。普通のゴブリンがペラペラの服だから、防御力も上がってるのかも?
夜になる前に戻りたいから、私と蒼奈が来た最短のコースを戻っていく。途中で、赤ハーブを採集して拠点に戻った。袋はないけれど、人数がいればそれなりの量を持ち帰ることができた。
夕方まで小麦栽培をしながら、どうやって拠点を攻略するかの話し合いをした。
「入口を片方ふさぐのは決定だよね?」
「できればね。逃げられても困る」
「挟み撃ち回避だね~」
「見張りもすぐ倒さないとね!」
裏口のように小さい穴だと、4対1へと簡単に持ち込めそうだから、まだ戦っていないゴブリンソルジャーやゴブリンリーダーとの戦いも有利になりそう。けど、それには崖の入口を塞がないとそちらから大量にやってきて挟み撃ちされそうだ。そして、崖の入口を防ぐのは簡単ではなさそう。
逆に小さい穴の方は簡単に防げそうだから、挟み撃ちの心配なく戦えそう。それでも、次々と出てきたら戦うのは大変そうだ。
「理想としては、挟み撃ちされない状況を作って、相手が少数になればいいんだよね?」
「そう。ただ、見張りを倒す時間と、入口を塞ぐ時間がかかりすぎると失敗するかもしれないから、手早く穴を塞ぐ方法も考えないと」
「崖や土を崩すのは時間がかかりそう~」
「木の建築も、隙間ができそう!」
うん、木の土台や壁で塞ぐことも考えたんだけど、穴の方はともかく亀裂の方は隙間がスカスカで抜け出しやすそうだから、塞ぐのには向いて無さそう。もっと容易に加工できそうなのがあれば……あ、確かあれがあった気が。家へ取りに行って、それを持ってくる。
「あ! 粘土!」
「これがあれば細かい隙間は防げないかな?」
みんなに見せてから、蒼奈が試しに加工したところ簡単に実行できそうなことがわかった!
「じゃあ、沢山集めなきゃ!」
「うん。あ、それとポーションの瓶も作りたいから砂も必要」
「赤ハーブも集めよ~」
「新しい拠点も!」
やることが一気に増えた! とりあえず今日はパン食べて寝よう!
『もふれ! もふもふの里♪』の動物素材は何種類か無料アセットとして配布されています。テラパレットの動物も、それを利用しています。