『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』19
~~~アオナ~~~
自分が出てきた瓦礫の穴を埋め、何もなかったように自然な感じに整える。その後、街か城のどちらに向かうか考えた結果、城に向かうことに決めた。どこかに記録が残されているかもしれない。
城といってもほとんど地上に瓦礫が落ちていて原型をとどめていないため、城だろうと予想を付けているだけだ。それでも、高台にある高層建築といえば城しか思い浮かばない。
「クレーター?」
歩いていると目につくのは、丸い形状に地面がへこんでいる場所がそこら中にあることだ。それこそ、月のクレーターのように見える。
空を見上げる。この状況を作れる、ゲームの魔法はあれしかない
「メテオストライク。このゲームにもあるのか」
隕石を呼び寄せ、地上に降らせることで攻撃する魔法で、どんなゲームでも広範囲高威力の魔法だ。巨大な隕石であれば、たった1つでも都市を丸ごとクレーターに沈めてしまうことが可能なその魔法は、多くのゲームでプレイヤーの使用に制限がかかる。
城の庭であろう場所から、城内に入る。外から見ても壊滅状態なのは分かりきっていたのだが、見事に瓦礫だらけで、何から探せばいいのかわからない。
目につくのは、水と龍を表現した彫刻だ。物によっては、髪の長い女性が龍の傍にいる彫刻もある。この国の紋章だろうか?
水と龍だけの紋章には、古代語っぽい言葉が書かれているが、単語にもなっていないので読めない。
紋章とは別に、近くに転がっている石のプレートに文字が掘られている。共通語だ。
「王都……マーキュラス」
マーキュラス? ランチの時間にチャコが話に出した、目指している場所だったような。ここを目指しているのか、遷都して別の場所に同じ名前の都市を作ったのか。
普通に考えたら後者だ。どう見ても都市ごと放棄されている。部活の全員が主要都市から離れた場所からスタートした以上、僕も離れた場所からスタートしたと考える方が普通だろう。同名の都市がどこかにあるに違いない。
地上を探し回るが、見事に瓦礫ばかりだ。流石にこれだけ崩れてしまっているから、考古学者でもないかぎり見取り図も無しで城の配置がわかるわけもないよね。
ん? 見取り図じゃないけど、外見だけなら!
急いで外に出て、先ほど埋めた穴を再度開け、穴に入りこむ。壁にかかっている城の絵を確認する。水と龍と少女の紋章がある。この城の絵で間違いないだろう。街の城壁が壁なのか、城に城壁はない。どちらかというと王族が住む宮殿のような佇まいだ。
額縁から絵画を外してみるけれど、特になにもない。まぁ、そうか。城の絵に城の地図なんて安直か。
いや、まだ絵画はあったよね。
人物画を壁から手に取り、額縁を外す。……あった。正確な図と言えるかわからないけれど読む限り避難経路の図だ。部屋のおおよその役割がわかるようになっている。他の人物画にも、合わせて3枚の似たような図が見つかったけれど、部屋の配置が違う。時代が違うのかな。ただ、壁や階段など主要な部分に変化はない。
絵画を元の位置に戻し、先ほど見なかった壊れた槍を調べるが、こちらは本当に何もなかった。
テーブルやイスを調べ、何もないのを確認して外に出る。改めて穴を塞ぎ、地図を片手に城へ戻る。
謁見の間や居住室など位置を確認するが、瓦礫しかない。宝物庫も3階にあったようで崩れた後持ち去られたのだろう、何もない。
書庫も2階だったらしく、該当箇所に行ってみたけれど、何も見つからなかった。燃え残った本は回収されたのだろう。
避難経路……城の外ではなく、内部に移動している。避難先に何かあるのかな? 王族専用の隠し通路なんてどの世界にもあるものだ。
そう思い該当箇所に移動したけれど、見事に瓦礫の山だ。これを崩すのは厳しい。かといって、出口がどこあるなんてそれこそ秘密だろうから分かるはずもない。
地図と瓦礫と避難経路を見比べる。図を描いた人による違いか、避難先がずれている気がする。1枚目の地図は壁際なのに、2枚目の地図は壁より内側に書かれている、残す3枚目はさらに離れているといった感じだ。避難用の地図なのに不正確でいいのかな?
「もしこれが正確な図面だとしたら?」
その前提で考えるなら、避難口が移動していることになる。つまり、地下に通路があったとしたら、それはこの避難口を直線で結ぶように空洞があるということだ。時代によって隠し通路の入口を変えたのかもしれない。
図面を見て、それぞれの避難口の3か所を直線で結び、その直線状で一番瓦礫が少ない場所……先ほどの3か所より少し遠い位置だけど、瓦礫が少ない個所がある。
「この瓦礫、焼けた跡がない?」
周辺の瓦礫には焼け跡があるのに、目の前の瓦礫だけ焼け跡が見当たらない。押してみると、非力なはずの僕のキャラなのに、動かすことができた。魔法的な何かが掛けられた瓦礫のようだ。横に何かの石像っぽいのが砕けて倒れているし、元はこの像の台座として使われていたのかもしれない。
台座の下には、真っすぐ降りる穴が見つかった。中には梯子があるので、降りるのには困らない。台座の裏には持ち手があったので、移動させた台座を元に戻し蓋をして梯子を下りる。闇視があるのは本当に助かる。
下に降りたら、上下左右を石で組んだ通路がある。城の外側へ向かう道を進むと、下り坂が見えたので引き返す。内側へ進むと、横にそれる分かれ道があるので、そちらへ進む。
突き当りには部屋がある……扉を壊された跡も、こじ開けられた跡もない。マジックワンドを使って、扉や扉の持ち手を突いたり押したりしてみるけれど、罠がある気配はない。慎重に扉を開ける。
「わっ!」
白骨死体があった。豪華だったろう衣服はボロボロだ。異臭も何もないから、死後どれだけの期間が経っているのやら……。
「[フューネラル]」
光魔法を使う。これは死者を葬送する魔法で、これを掛けられた死体は不死の生物、アンデットにならない。ただし、1度アンデット化したものを冥界に返すことはできない。その場合は[ターンアンデット]だ。
部屋の中に入ると、いくつかの装備品や装飾品、硬貨に何冊か本がある。試しに1つ持って部屋を出るが、死体が動く様子も罠が発動する様子もない。戻って、それぞれストレージにしまい込む。
……所持金がずいぶん増えたな。ストレージがパンクして、なお収納しきれていない。
価値がわからないから、どれが高価なのかわからないけれど、一般市民としては宝石がある方が高いって判断しかできない。
あとは本は全部持っていきたい。歴史書、日記、魔法書が2冊。
歴史書を見ると、最新の年代で星暦988年。何年か経過したとして、今は星暦1000年代の初頭か。
7つの王国や位置関係の地図も本に描かれている。割と円形の大陸だ。それぞれが7方向に分けて円グラフのように国家が成立しているらしい。ここは北西の地域だ。とりあえず落ち着いたらしっかり読んでおこう。……ログアウトして、位置情報を書き込んでくるか。
書き込んできた。次は日記……この人は国王の弟か。最後のページを見ると、覇者の王笏をめぐる戦いで相手国家の魔法によって都市がすべて灰燼に帰したらしい。相手は……プルト王国。
選択肢になかった国家だ……8王国?
さっきの歴史書を見る。地図上では7王国だ。
マーキュリ王国
ヴィナス王国
マアズ王国
ジュピィタ王国
サアターン王国
ウラーヌス王国
ネプチュン王国
プルト。プルート。冥王星。太陽系の惑星から外された準惑星。
……ゲーム的なメタ読みをするなら、冥王――冥界。死者の世界か、あるいは地底世界か。
少し前まで居た、地底の底の巨大な穴を想像すると、あまり外れた予想には思えない。このプルト王国が大陸の覇者? 死者の世界からの国家って、ずいぶんと直球な敵役だ。
国家間の戦争が主になると思ってたけど、こうなると様相が違ってくる。7つの国家が協力して覇者であるプルト王国を倒すのかもしれない。
この日記も後で熟読だな。読む本が多い。
そして、ここからがお楽しみの魔法書。
1冊目は『根源魔法概説』。根源魔法とは? と思ったけれど、どうやらプレイヤーが基礎魔法と呼んでいる魔法が根源魔法らしい。
そして、根源魔法には7属性あるそうだ。僕が覚えているのは、光魔法、闇魔法、火魔法、水魔法、カゼ魔法、土魔法の6つで、これが基本魔法の全部だと思っていたけれど、どうも違う。
書かれている魔法は、光魔法、闇魔法、火魔法、水魔法、木魔法、土魔法、雷魔法だ。カゼ魔法が無くなって、木魔法と雷魔法が追加している。
カゼ魔法はそもそも雷魔法だったらしいので、表示バグではなく秘匿状態だったのか。
『システム:アチーブメント【根源入門者】を獲得しました』
『システム:スキル【カゼ魔法】が【雷魔法】に変化しました』
あ、変わった。これで正式に魔法を取得なのか。
本を読み進めると、属性はそれぞれ惑星に対応していて、火、水、木、土はそのまま。雷が金星、光が天王星、闇が海王星のようだ。冥王星に関する魔法は書かれていない。無いのか、知られていないのか、どちらにしてもそのうち情報がでてくるだろう。
この本はまた後で読もう。次が一番のお楽しみ。
2冊目を手に取る。装丁は非常に豪華で、革張りに金属の鍵付き。部屋の棚に鎖で結ばれて持ち出せないようにしてあった徹底ぶり。その鍵は丁寧にも本の上に置かれていたので、鎖も既に外して簡単に手に入れることができた。
本のタイトルだけ見ても、ゲームをやっている人であれば間違いなく強いとわかる魔法書だ。思わず口元がにやついてしまう。
本のタイトルは……『時空魔法』
避難経路の紙が出てきますが、この絵や槍がある空間を警備する騎士は、国のトップレベルの実力者が配備されます。ここは重要拠点です。




