『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』18
~~~アカネ~~~
斜めから差し込んだフォークでクルクルとパスタを絡めとり、口の中にパッと入れる。スパゲッティのパスタを取る量は多すぎないのがベスト。
「茜ってナスが好きだったりするの~?」
「そうかも。何となく選ぶんだよね」
カレーのときも野菜はナスを選んだけれど、今回も数あるスパゲッティの中から、ナスのミートソースを選んだ。無意識で選択するとナス率が高くなる。
「ナスからも茜に寄ってるんじゃない? 一緒に買い物にいくと、高確率でナスの特売やってる」
蒼奈は五目あんかけ焼きそばのナスを箸でつまみながら、私とナスについて話す。蒼奈ひとりでいくと、ナスの特売はないらしい。
「今日のカフェテリアはナスの日だぞ! 日替わりドリアにもナスが入ってる!」
銀華の食べるドリアの具に、輪切りのナスが沢山並べられている。ナスの上にとろけたチーズが乗っていておいしそう。
「たしかに~、あたしの味噌汁にもナスが入ってるね~」
茶子は、ご飯に味噌汁、おかずはアジフライとエビフライにキャベツの千切り。和食セットのお任せだ。ご飯も小盛なので、量的には私たちと変わらないのに3皿あるせいか豪華に見える。
「確かにナスが多い」
「和食セット、焼きナスを選ぶか迷ったんだよね~」
「あー、焼きナス美味しいよね」
「美味しい焼き方教えてもらった!」
ナスに切れ目を入れずにそのまま皮ごと焼くと旨味がこぼれずに美味しいらしい。
「ヘタは切らなくていいの?」
「そのまま、上下左右の4か所を3~4分焼くだけ!」
なるほど。今度やってみようかな。
「おひたしも美味しい」
「漬物もいいよね~」
「天ぷらも美味しいんだよー」
ナスは食べ方が無限だ! ナスを食べてるのに、ナスを食べたくなるランチだった。
~~~アカネ~~~
猫の姿のまま、村の入口で先輩を待つ。その間に設定を色々確認する。
シープの接触制限とは別に、動物形態での接触制限も状況別に変更できるらしい。理由はわからないけれど、多分馬に変身する人も居るだろうし、誰かを乗せるのに必要なのかもね。
もちろん、猫のような小さな動物を抱え上げたい場面もあるだろうから、そういった意味でも有用な設定だ。すばらしい気配りだと思う。
部活の仲間みたいに、シープの接触制限がある程度解除されてる人は関係ないので、設定が必要なのはフレンドでも何でもない一般人相手の設定だ。
頭、背中、手足、尻尾に対しての、撫でる行為は問題ない。膝に乗せたり、丁寧に抱きかかえるのは良いけど、猫吸いはアウトで自動攻撃対象。
動物変身だと、そもそも服を着ない前提だから生殖器官などは最初から表示されてない。これはゲーム内の動物や魔物など、服を着ない生物に共通している。それでも、それがあるだろう場所へ、許可のない相手が意図的な接触を試みた場合は、自動で運営からアカウントに対して何らかの措置が下る。
[ミク]待たせたんよ。
[アカネ]いえいえー。
個別チャットで先輩が話しかけてくる。そのまま直接会話をしたら、猫と会話する人に見られちゃうからね。
先輩は私を抱え上げ肩に乗せた後、村の近くにある船着き場へ向かう。ここから川を下って大きな都市に向かうのだ。
お金は昨日無事に魔石を換金できたので、問題なく船に乗れる。私の場合は猫の姿で無賃乗車だ。少しでも節約!
「こんにちは、お願いします」
船着き場に到着した未黒先輩は、オールのような棒を持った船頭さんに話しかける。
「おう。もう少し待っててくれよな、輸送商人が来たら出発だ」
未黒先輩は船の付近にある長椅子に座ると、近くにいる女性に話しかける。
「こんにちは~、プレイヤー?」
「え、あ、はい。同じですよね? 私はさっき村に付いたばかりなんです」
「わたしもなんよ。友達とバラバラになって、王都で会おうってなったんよ」
「私も同じですね。いきなりバラバラになって驚きました」
女性プレイヤーのラーケアさんと会話をしていると、男性のプレイヤーが話に入ってきた。この男性は周辺の地理について調べたらしく、色々教えてくれた。
この川を下った場所は公都バイロンという都市のようだ。王都マーキュラスとは離れた位置にあるらしく、王都に行くのなら川の途中にある街ベリクで降りて、徒歩か馬車でフローベールという街に移動した後、そちらの川から下流の王都に向かうのが良いそうだ。
「遅くなりました!」
待っていた商人の人だろう、慌てて走ってきた。
「それじゃあ、船を出すよ。前払いだ、行き先を言ってくれ」
目的は王都マーキュラスなので、ベリクで途中下車だ。それに応じたお金を先輩が支払う。
船のサイズは、押し込めば20人くらいは乗り込むことのできるサイズで、中央にマストが1本立っている。船員さんは2名で、ひとりはすでに船の中に居て、お客さんがどこに座るか指示をしてくれている。
無事に乗り込むことができた。先ほどの女性と並びで座る。未黒先輩は私を膝の上に乗せ、女性は未黒先輩に撫でていいか確認を取った後、私の頭を撫でる。
「商売も大変なんよ」
先ほどの商人が未黒先輩を挟んで逆側に座ったので、先輩が話しかける。
「そうですね。マーキュラスに行くのなら、この街から逆側の川に向かった方が距離が近くなるんですけど、そちらの川の上流は船着き場が整備されていないんですよね」
この国には山から流れる大きな川が2本あるらしくて、そのうち1本がこのトーバーン川らしい。川は下流に向かうほどお互い距離が離れるようで、上流で行き来ができたら便利なのだけれど、まだそちらへ向かっても船の定期便が無いため商売には向かないようだ。
船が動き出す。船の帆は閉じたまま、船頭さんが水底にオールを押し当てて進む。ある程度川岸から離れたら、船の帆を張り風を受けて進みだした。
「ラブレーダンプリングはいかがですかー。1個4G、2個で6Gですよー」
隣の商人さんが突然大きな声を出したのでビクッとした。ダンプリングって、饅頭だよね。
「どんな商品なんよ?」
「山菜と肉を練りこんだ饅頭ですね。さっきの村で仕入れたんだよ」
未黒先輩の質問に答えた商人さんは、ラブレーダンプリングを取り出して見せてくる。皮に包まれて中は見えないけれど、手のひらサイズの大きなお饅頭だ。
「ふたつ買って分ける?」
「はい、ぜひ」
「お兄さん、一番おいしいの2つ頼むんよ」
未黒先輩がラーケアさんと相談し、饅頭を2つ買い3Gを受け取った。饅頭を割ると中から肉と野菜の入った餡が見えておいしそう。
[ミク]猫って食べてよくないの何があるんよ?
[アカネ]野菜だとネギ類ですけど、この世界の猫は制限がありません。
そうして、未黒先輩が少しちぎった饅頭を両手で受け取り、抱えて食べる。んみゃい!
細かく刻まれた少し苦味のある山菜は、肉と一緒に練りこまれていて、シャクシャクといい歯ごたえを感じる。味付けは塩だけなのでやや頼りないかと思ったけれど、肉をよく練って作ったのか肉そのものの旨味がよく出ていて美味しい。
食べ終わって顔を上げると、ラーケアさんが饅頭を食べながら私を見ている。目が合ったので、ゆっくり目をそらす。会ったばかりの人を見つめたり瞬きするのは変だろうから、そらすのが正解だろう。
それからすぐに頭を撫でてきたので、ラーケアさんを見ると、未黒先輩と同じように饅頭をちぎって見せてくるので、ありがたく食べる。ラーケアさんは手から直接食べさせることを希望しているような動きだったので、期待に応えてそのまま食べた。
私は今、すっごく猫してる!
その後もゆらゆら船に揺られ、小さな村にふたつ寄った後でベリクに到着する。船を降りたのは全員プレイヤーだけで、あとの人達はこのまま下るみたいだ。
王都がわかりやすい集合場所だから、きっとここに居ないプレイヤーたちも多くが王都を目指すんだろうな。
ギルドが各種揃っているようなので、3人と1匹で冒険者ギルドへ向かう。さすがに猫のままで登録はできないので、ここでの登録はパス。
向かう途中、街道付近に鎧を着た一団を目にした。ある程度装備が一緒だから、軍隊なのかな?
「戦争でしょうか?」
「かなりの数が居ますね」
ラーケアさんのつぶやきに、男性プレイヤーのタンさんが答える。100人を軽く超える規模の人達が居る。
「豪華な馬車も何台かありますよ」
「戦争にしては、派手なんよ」
「お貴族様の旅行か?」
集団の正体について想像をめぐらせた話をしながら、冒険者ギルドに到着。それぞれ冒険者登録をすませる。試験は武器による戦闘か魔法の技術を見せればいいらしい。
試験会場でのんびり座りながら様子を眺めていたけれど、他の人と比べて未黒先輩の攻撃力が高すぎるのはわかった。さすが公開配信のステータスだ。
試験終了したので、先輩に抱えられて受付へ向かい、注意事項など最後の確認をして終了。
「外に居た兵士の人たちは何してるんよ?」
先ほどの兵士について、未黒先輩が受付をしてくれたギルド職員の男性に質問をした。
「あれか。国の行事のひとつでな、成人した王族の関係者が山の神に面会をするそうだ。」
「神様? 簡単に会えるん?」
「何やら光り輝く御姿をしている女神様のようでな、もちろん会うこともできる。怒らせたらあの程度の数の兵士なら一瞬で消し炭になるほど強いんで、普通は近寄らんのだが、王族は許されているんだ」
なるほど。……なにかひっかかる。聞き覚えがある気がするけど、未黒先輩が疑問に思っていなさそうなので、関係ないか。
「わかってると思うが、兵士たちにも近づくなよ? 王族警護なんだから無遠慮に近寄って捕えられてもギルドは庇えないからな」
「はい、肝に銘じておくんよ」
お礼を言って受付の人から離れる未黒先輩。依頼票の付近に居るラーケアさんとタンさんに合流する。
手ごろな討伐依頼があるらしくて、ふたりは受けたいそうだ。
「わたしは仲間のリーダーだから、王都に急ぐことにするんよ」
未黒先輩はそう言って依頼を受けないことを伝えると、ラーケアさんは依頼を受けるのを撤回して王都へ向かうことにした。
タンさんとはここで別れて、ラーケアさんと商業ギルドに向かい、フローベールまでの運搬依頼を受けた。しばらくは馬車旅だ!
ラーケアさんとしては、3人なら安定して狩りが可能だと思ってたのですが、ふたりなら難しいと思い依頼を受けるのを止めました。タンさんの方は、依頼が良さそうなので、ここで誰かプレイヤーを誘って依頼をこなしたいと思っています。




