『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』07
「このあたりは冒険者ってあんまり来ないんですか~?」
パンとミルクで食事をしながら、おじさんを見て質問をする。
「いや、小さいながらもダンジョンがあるからそうでもない。秋と冬の期間だけ取れる薬草があるから、それを目当てに人が来るな」
「珍しい植物なの~?」
「いや、山に登れば年中採れるから珍しくもないが、ここだと手軽に手に入るからな」
なるほど~。確かに山まで行くのは、かなり面倒だからね。輸送料や、雪山に登るくらいならここで集めた方が良いとは思う。
「どんな薬草なんですか~?」
「ラブレーススって名前のスス科の植物でな、頭痛や魔力痛に効果がある」
ふむふむと頷く。魔力痛はMP切れで発生するので、少量のMP回復効果があるんだろう。
おじさんの様子を見て、もう少し質問した方がいいかなと思う。
「おっさん、その話もう少し詳しく教えてくれねーか?」
質問しようとしたら、いきなりあたしの真後ろに来ておじさんに話しかけた人が居た。別の席で話をしていた青髪の魔法使いだ。
「冒険者ギルドにある本を見ればわかるはずだが?」
「いや、そこのチビにはペラペラしゃべったじゃねーか」
あたしにビシッと指をさしてくる青髪。
「それに無料でメシやって、俺らは普通に金払ってんだぞ? おかしいだろ」
「お、おい。止めろって」
青髪の行動を止めようとする茶髪だけれど、迫力がない。性格的に戦士と魔法使い逆なんじゃないかな?
「何で止めんだよ。食いモンも情報もこのチビは無料なんだぞ?」
「そ、それは、ピクシーだから」
「この格好、どう見てもプレイヤーだろ? 平等にしようぜ、平等に」
そういってあたしとパンやミルクの間を手で遮り、パンとミルクをあたしから遠ざける。
あ~、ごはんが~。
「ほら、さっさとどっか行けよ、無銭飲食が」
青髪の男はあたしに向けてどこか行けと手を振るジェスチャーをすると、その手が故意か偶然か、あたしの顔に当たる。
「「あ」」
酒場のおじさんと茶髪の男性が同時に声をあげる。
痛い~、サイズの大きな人間の攻撃は結構なダメージになるんだよね~。妖精の欠点ではある。さすがにこれくらいで骨折とかはないけど、HPは10くらい減ったな~。
しばらく顔を抑えてたら痛みも少し引いてきたので、青髪の男性を見る。うん、条件を満たしてる。
「[妖精のいたずら]」
青髪に手を差し出して、妖精魔法[妖精のいたずら]を発動。妖精魔法は他種族には何を言っているかわからない言語で、部活の仲間は鈴が鳴っているようにしか聞こえないみたい。
さて、効果は……あはっ!
「あははははははは!!」
思わず机に寝転がって笑い転げる。酒場のおじさんも笑ってるし、茶髪の男性も顔を真っ赤にして笑いをこらえてる。
「あんだよ! あ? なんだ? おい、まてこれって!」
青髪の男性が。
いや、元青髪の男性が手のひらに集まる青い塊を手に叫んでる。
妖精魔法[妖精のいたずら]の発動によって、髪の毛がすべて滑り落ちるように無くなった。禿の男性の肩や手、あるいは床一面に青い髪の毛が広がっている。
禿の男性は自分の頭をぺたぺた触るが、そこにはもう何もない。そして、あたしを思い切りにらみつける。
「お前!!!!」
手にした杖を振り上げて、あたしに攻撃してこようと振りかぶる。
しかし、さすがにそれは茶髪の戦士さんに背中から羽交い絞めにされて止められる。酒場の主人も、あたしと禿の間に腕を差し伸べて、守ってくれる。
「おい、なんでだよ、攻撃受けたんだぞ!」
「先に攻撃したのはこっちだよ。あと、ピクシー相手にそれは致命傷でPKになる!」
PKと聞いて、禿が止まる。妖精のピクシーサイズに杖を叩きつければつぶれて死んじゃうからね。プレイヤーやNPCを殺したら、例え相手が復活しようが犯罪になる。お互い合意した決闘なら別だけれど、今回はそうではない。
「じゃあ、どうすんだよこの髪はよ! 俺は何もしてねーのにこうなったんだぞ!」
「えっと、パンとミルク奪ったよね。あと顔への攻撃」
「100歩譲って顔はまだしも、食いモンはそいつだって貰っただけだろ!」
「あ~、それは」
茶髪が禿に説明をする。
その間、あたしは酒場の主人に顔を向ける。
「守ってくれてありがと~。どれがいい~?」
酒場の主人も条件を満たしている。
「いいのか? なら、この酒瓶お願いしてくれるかい?」
カウンターから隠されていたお酒の瓶を主人が取り出す。封も開いていない新品のお酒の瓶だ~。
その瓶に向かって手を差し伸べる。
「[妖精のいたずら]」
先ほどと同じく、妖精魔法[妖精のいたずら]をお酒の瓶に使うと、今度はお酒の瓶が輝きだし、中のお酒がキラキラと光りだす。
うん、成功~。
「ありがとうよ」
「いえ~」
そう返事を返して、遠ざけられたパンとミルクに近寄って食事を再開する。
[妖精のいたずら]は、魔法を掛けた対象にランダムで効果を発揮する魔法。何も考えずに対象に魔法を掛けたら、良い結果と悪い結果が半分の確率で発生する。
その効果を良い方に傾けたければ、魔法を掛ける妖精が喜ぶことをすればいい。悪い結果を引きたければ、嫌がることをすればいい。
間接的に、例えば誰かが人助けをして、それを見た妖精が「良い人がいるんだ」と喜んだところで効果はない。妖精本人に向けて喜ばせることをしなければならない。
一番簡単で効果的なのは食べ物をあげるか奪うこと。妖精の好感度の偏りが攻撃と同じくらい偏る。
おじさんに質問をしたのも、魔法の成功率を高めるためなんだよね~。質問に答えてくれるだけで確率アップ~! ただ、嘘発見には使えない。あたしが嘘を見破れずに信じたら、そのまま妖精の好感度は上昇してしまう。疑って聞いたら上昇も下降もしないので、妖精側の気分次第だ。
気分次第といっても、食べ物だけは本人の気持ち以上に上下幅があるっぽい。野良ピクシーが食べ物大好きだから補正があるんだと思う。
この魔法はいたずらの域を超えないので、お酒を美味しくしたり髪を無くす程度で、致命的な結果は引き起こさない。……髪が無くなることを致命的だと言われたら、反論はしにくいけれどね~。
禿は茶髪に説明を受けて、それでも納得ができない態度をしつつ、冒険者ギルドを出ていった。
手を振ってふたりが出ていくのを見送る。おたっしゃで~。髪の毛は課金するか自然に生えるまで待てばいいからね~。
パクリとパンをかじって、そういえば質問しようとしたところだった。けど、魔法使ったしおじさん答えてくれるかな~。
ちらりとおじさんの方を見る。
「ん? どうした?」
「えっと、この国の首都ってどっちにあるのかな~って」
「王都マーキュラスか? 移動手順が知りたいなら、冒険者ギルドに船や馬車の乗り換え表があるから教えてもらえるぞ」
そういって冒険者ギルドの受付方向を指さす。
「そっか~、ありがと~」
確かに、そういった情報は冒険者ギルドとかが充実してそう~。さっきの薬草情報もギルドにあるって言ってたからね~。
パクパクとパンを食べて、ミルクも飲んで、手を合わせる。
「ごちそ~さま~。ありがとうね~」
ふわりと浮き上がり、手を振っておじさんと別れ、冒険者ギルドの受付に向かうことにした。
ピクシーの会話は鈴のように聞こえるらしいので、妖精魔法の詠唱はそう聞こえる設定にしました。それ以外の魔法は普通に唱えます。




