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あちーぶ!  作者: キル
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『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』41

「くそっ……これで! どうだぁぁっぁあああ!!」


 蜜柑先輩が気合全開でピザの上に卵を落とす。そしてそのまま再度ピザをピザ窯に入れる。

 数秒の後、ピザをパーラーで引き出す!


「早すぎる! 白身を見てみろ! まだ透明な部分が見えるではないか。これではピザが水っぽくなってしまうぞ!!」


 太めのヒゲを生やしたおじさんが、蜜柑先輩に叱責をしている。ピザの種類のひとつ、ビスマルクが私たちの調理ではピザへの冒涜だとかで、厨房に入ってきて指導が始まった。


「焼きすぎだ! 半熟でなければソースと絡まないだろう! そんなものを出すくらいならピザと卵を別々で出せ!」


「落とす位置は中央にコントロールしろ! 偏ったピザなど誰が食べたいと思うか!」


「中央を素早く十字に切って黄身を広げろ! 家庭料理じゃないんだから出されたピザを客が食べやすいように工夫せんか!」


 ピザに卵を落とせばビスマルク、そう思ってた時期がありました。家庭料理だと、ピザの上に卵もふくめて全部乗せて焼いて終わりだったけど、ビスマルクおじさんの話を聞くとそれでは足りないらしい。

 ピザをある程度焼いて、完成前に引き出し、素早く卵を乗せて再度焼き、半熟で取り出して黄身を割って広げ、トマトソースと絡めるのだとか。


 相変わらずこの手の指導者さんたちは全てのピザを購入してくれるのでありがたいけれど、毎度のことながら巻き込まれて全員が地獄である。


「トマト髪女! チーズの位置を間違えるな! それによって黄身の広がりが変わることを肝に銘じて作れ!!」


「はい!!」


 今回はこっちにも注意が飛んでくる。チーズお爺さんの指導が無ければ絶対乗り越えられなかった。


 激闘の末、無事に厨房の3人は撃沈。今は床がお友達だ。


「ただいま~。……いつものやつね~」


 手馴れたように茶子が厨房を片付けていく。指導関係のクエストミッションでは、デリバリー担当だけが体力が余ってることが多いので、片付けはデリバリー担当がすると自然に役割が決定していた。


 茶子の誘導で椅子に座り、テーブルに頭を横に向けて倒れこむと、ちょうど目の前に見知らぬ綺麗な封筒と1輪のバラがある。


「……これ、チャコの?」


「うん。バラはブルダーさんからもらったんだけどね~」


「バラは? 手紙は違うの?」


「それが~、途中からチェリさんがやってきて、なんかブルダーさんと勝負してた~」


 チェリさん……リーマトさんの部下で、茶子のボディガードをした筋肉質な人だっけか。


「……え? その人も参戦?」


 少し意識が覚醒した。ほんとに、茶子って何のゲームしてるの? 乙女ゲーム?


「じゃあ、この手紙ってチェリさん?」


「そうだね~。読んでくださいって渡してきて~、そこからブルダーさんとチェリさんの勝負になって~、親衛隊がヒートアップ~」


 そっちはそっちで地獄だけど、茶子の口ぶりは他人事のような感じだ。

 そんな茶子は、奥から米が入った籠を持ってきて作業台の上に置いた。浮遊都市では売っていないし、米を作ってる場所もわからないから、限定食材『米』をアンロックしたのだ。


「そろそろ作るの?」


「この間ご飯を差し入れたら~、このお米は食べられたみたいだからね~」


 捕まっているパルトさんはピザの生地に使われている小麦が食べられない。茶子は約束通り米を使った生地を使って、ピザを作る準備をしている。


「米粉を作る段階だから、もうちょっと先だけどね~」


 そういって、籠に入った米を手動のミルでゴリゴリと削っている。水分を含ませたり、乾燥させたりと手間をかけて作っている。


 パルトさんを攻略? いや、でもよくわからないな。庇うでも止めるでもなく、牢屋に向かわせているし。パルトさん攻略ルートなら、地震発生の前に止める選択肢が出ただろう。

 ……牢屋に入ってからが本番?

 ちょっと怖い想像をしてしまったが、楽しそうに米粉を作る茶子を見たらどうでもよくなった。


 黄里先輩は復帰して、蜜柑先輩をいたわっている。

 先輩たちの襟には、まだあのバッジがある。組織を抜けるのではなく、改善する方に力を入れるのだとか。

 幹部の多くが逮捕されたものの、委員会としては継続している。地上の現状を知った現在、組織は大きく変わろうとしている。


 まず、地上への移民ではなく、この浮遊都市で農地を広げる方向に転換するそうだ。コルニチョーネ化現象の改善のために外周部の人へ呼び掛けるそうで、最終的には税金による外周部への移住を阻止するため、法改正を目指すのだとか。

 農地を広げれば食生活も変わる。そのために外周部は宅地面積を少なくするように訴えるとか。

 また、小麦の改良も視野に入れているそうだけれど、さすがに資金が足りなくてそこまで手は出ないらしい。


 ミルを回す茶子の背中、店舗の入り口側から小さな影が何人もやってきた。


「チャコちゃん、こんにちわ!」


「アカネさん、こんにちは」


「こんにいわ!」


 孤児院の少年少女が遊びに来た。ラータちゃんとコリちゃもいる。コリちゃんはそのまま抱き上げる。


「こんにちは。みんな元気な挨拶ができて偉いね!」


 孤児院を含む35番通りまでの地震はかなりの被害だったのだが、幸いにも死者や行方不明者は居なかった。海や隙間に落下した人がいなかったのはよかった。

 ただ、孤児院はもう使えないようで、今は22番通りの広い空き家を国の補助を受けて使っている。ご近所さんだ! おかげで、孤児院の子が時々この店に遊びに来るようになった。

 私と茶子はもちろん、先輩たちも時々通っているようで、お互いの交流が盛んになっている。


 聞き覚えのあるバイクの音がしたので、外を見るとマーレさんがデリバリーをしている。通りすがりに手を振ってお互い挨拶をする。

 マードレ・ピッツァの人達とは、たまに食事に行ったりクエストで勝負したりしている。


 ミテラさんは無事に退院。まだ仕事に復帰はできないけど、経過は順調。スインさんからの告白もOKしたようで、幸せそうだ。

 奥様なんかはミテラさんが学生であっても早々に結婚をさせたいとか。最低でも婚約とか言ってたなぁ。大企業のお嫁さんは早いうちから学んだ方がいいことでもあるのかな?


 エルマー? よくわからないけどうろついてる。


「アカネ、チャコ、新しい限定食材入ったぞ」


 疲労から復帰した蜜柑先輩が、こっちへ手招きをしている。コリちゃんは……降りたくないのね。そのまま抱えて移動する。

 なぜか孤児院の子たちが私たちを抜いて真っ先に蜜柑先輩の近くへ集まる。みんな新しい食べ物に興味津々なのかな? それとも、自分たちも呼ばれたと思った? なんかお店の仲間が増えたみたいで楽しい。


 隣の茶子を見ると、なぜか茶子もこっちを見た。きっと同じこと考えてるんだろう。思わずふたりとも声を出して笑い、コリちゃんもそれにつられて一緒に笑った。

『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』、いったんこれで終了です。

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