『テラパレット』04
目が覚めた後は周辺探索のために、それぞれ4方向にバラバラに分かれた。海岸沿いに2名と、森側に2名。私は森側に進んだ。前にお馬さんがいた草原に向かって、そこから森に入る予定だ。
今のところは草原だらけで、特にこれといって変わったものはない。
「羊さんもいないなぁ」
周りを見渡しながら、どんどん森に近づいた。木について詳しくないから、何の木かわからないけど、茶色い幹に緑の葉っぱのごく普通の木に見える。見た感じ、森に入るための道らしいものもない。そのまま入ると迷いそうだな。
「たしか、現在地の座標を表示できたはず」
シーポンを操作して、現在地の座標を表示する。親指と人差し指で四角を作って、座標を撮影。これでいつでも確認可能だ。
森の中に入ると、ところどころにキノコが生えている。入ってすぐだから、収穫がしやすいし、森に何もなかったらこれを持ち帰ろう。
しばらく真っすぐ進むと、川が見えた。少し慎重に進んでみるけれど、特に危険はなさそうだ。
拠点付近には、森から流れ出す川は見当たらなかったから、別の場所に流れて行ってるんだろう。川は広くはないが、浅くもない。渡るなら泳ぐ必要があると思うけど、川の事故考えると止めた方がいいかな。
川沿いを進むことに決めたが、どっちに向けて進もうか考え、上流に進んでみることにした。下流は、私と同じ方向側の、海岸を進んだ茶子が川の出口を見つけるかもしれないからだ。
しばらく進むと、自然ではない音が聞こえたので近くの茂みに隠れる。まだ遠そうだったけれど、念のためだ。周辺を見て、聞いて、音の方向を確認。慎重にそちらへ進む。
建物を発見。木や草が生え放題だけど、村かな? 何軒か家がある。音が聞こえたってことは、何かが居るんだろう。
自分の周りをもう一度確認。誰にも見つかった様子はない。とりあえず、現在地を座標で撮影し、チャットを開く。
アカネ:寂れた村が見える。草木が生え放題。座標の写真送った。
アオナ:了解。無理しないで。
チャットを閉じ、しばらく眺めると、遠くの家で音が鳴ったのでそっちを見る。ゴブリンだ! ここが拠点? わからないけれど、その1つと思った方がいい。
遠くに見える家は、ゴブリンが歩いたからか、草が倒れて道ができているけれど、一番近い家はそんな様子がない。安全なら、確認しようかな?
そろりそろりと、家に近寄る。周囲の警戒は怠らない。家の裏側に向かう。玄関側は、遠くのゴブリンから見られそうな気がした。
裏口はなかったけれど、家の壁が崩れていて、中に入れそうだ。聞き耳を立ててみるが、家からは何の音もしないので、中に入る。
ベッドと棚がある。
ベッドは、布のベッドだった跡はあるけれど、ズタボロになっているから、使えそうにない。ベッドの上の屋根が崩れているから、雨でボロボロになったのだろう。
棚を確認すると、目につくのは皿とスプーン。手に取ってみると、レシピが解放されたと通知が入ったけど、赤表示で知性2とある。二つを持ち帰って蒼奈に渡せばすぐ作れる。触るとレシピ解放なら……棚とベッドを触ると、アナウンスがあった。どちらも技術2知性3。機会があればみんなでまたここに来よう。
棚の下の扉を開けると、ロープ2本と、本が1冊ある! ロープは触ると知性1だから、持ち帰らなくてもいい。材料も草で可能だから、私が作ってみんなに持たせればいい。もう一本は……これちょっと違う? 持ち上げてみると、ペット用ロープだった。知性2だから持ち帰ろう。羊さんに使えるかも!
本は、今は見る暇ないから持ち帰ろう。本は、技術8知性10と高めだった。
他には、と思い見渡した時、ガサガサと音が鳴った! ゴブリン!?
隠れられる場所は……ベッドの布を少し引っ張って隙間をなくし、ベッドの下に入った。埃っぽい!
玄関が開けられた音がした。ゴブリンは中に入って歩き回っている。止まったかと思うと、棚を開ける音がする。
それからしばらくして、足音が止んだ。30秒数える……音がする様子はない。ベッドの布の端をそろりとめくるが、ゴブリンの足が見えないので、どこか行ったのだろう。セーフ! 外に出ようと這いずると、鉄の剣のレシピが解放された。あれ?
ベッドの下を、暗い中手探りで探すと、重い棒状のものが手に当たったので、引き出してみると剣があった! ボロボロだけど、鉄の剣だ! これが剣として使えなくても、レシピ解放に使えるはず。ぜひ持ち帰りたい。
ベッドから出て開け放した玄関を見るけれど、視界内にゴブリンはいない。けど、長居は危険かな。今回手に入れたものを持ち帰るだけでも大収穫だ。あれ、ロープがない! ゴブリンが持っていったのかな? 幸い、本とペット用ロープは抱えながらベッドの下に入ったから無事。皿とスプーンは……ゴブリンに使う文化が無いから残された?
それから、注意深く裏側から出る。周囲を警戒しながら元来た道を戻り、座標を確認しながら森を抜ける。途中で見つけたキノコを拾い、拠点へ帰還。
アカネ:もどったー
アオナ:お疲れ。僕は船の残骸を見つけたけど、大きくて持ち帰れない。
ギンガ:いいね! 海に出れる!
チャコ:川があるから~、上手く渡れるかも~?
アカネ:あ、その川の上流がさっきの村だと思う。
他のメンバーは戻ってきていないけど、チャットで会話をする。会話しながら、雑草を刈ってロープを作る。
「ただいま~、なにしてるの~?」
「おかえりー。レシピで覚えたロープ作ったんだ。これ触るとレシピ解放されるよ?」
「わ、助かる~」
戻ってきた茶子は、そう言いつつ、手にしているアイテムを地面に置いていった。
「布袋が落ちてたのと~、海岸を進んだら砂浜があった~。たぶん~、ガラスの材料になるはず~」
「ガラス作れたら便利そうー」
布袋を持つと、レシピが解放された。知性1。材料がないだけで作りやすいのか。砂の方は触っても何にもならなかったけれど、あの村にガラスがあることを期待。
ギンガ:拠点の座標が欲しい! 場所わからん!
チャコ:は~い、送るね~
アオナ:ギンガの座標付近まで行こうか?
途中で、反対の森側に行った銀華が迷ったようで、時間はかかったけれど、夜になる前には戻れた。その間に小麦畑の手入れと、木を伐採して木材を増やした。
「あ、おかえり~」
蒼奈と銀華が揃って歩いてくるのが見えたから、手を振る。
「ただいま。無事合流したよ」
「ただいま。助かったー! 森だと方向がわからなくて困った」
「あ~、森はそうだよね~」
合流したふたりが、いくつか荷物を下ろす。
「僕は、船の中からコンパスと未使用の地図、旗、釣り竿、金貨7枚を持ってきた。船本体や船のオールとかは置いてきた」
「地図が作れると探索が便利になりそう!」
「旗も何か意味があるだろうし、一応持ってきた」
「ギンガは、この石と土、あと洞窟を発見した!」
どさっと落とした石と土……土を触ってみると、弾力がある。
「粘土かな?」
「アイテム名は『柔らかい土』だった。作業台で変えられるかも!」
「もう一つは、『金属を含む赤石』。このままだと種類がわからないね」
「試してみる」
蒼奈がそれぞれ作業台に乗せて作業を開始する。しばらくして、1つは粘土が出来上がった。もう一つは変化がない。
「これは作業台じゃなくて石窯みたい。あと、木炭が必要だから、木材を石窯で木炭に変えてからじゃないとだめだ」
ということで、私が木材を木炭に変える。手順さえ正しければ、レシピが無くても作れるようだ。もちろん、技術や知性は必要になるけれど、木炭は初期状態で作れたからありがたい。
出来上がった木炭を、先ほどの金属と合わせてまた石窯で生産すると、少量だけど鉄材が出来上がった。
「おお~。新文明~」
「これでいいアイテム作れそうだ!」
盛り上がっていたら、空が赤くなってきた。そろそろ夜ってことで、持ってきたものを全て家の中に運んで、夜を過ごす準備をする。
「アオナ、このキノコって食べられるの?」
「調べる……食事で確定のスタン30秒。空腹はほんの少し回復する。スタンポーションの材料だけど、錬金釜が必要だからまだ作れない」
「確定は強い!」
「ポーションにすると成功率7割のスタン10秒だけど、食べなくても振りかければ効果が出るから、戦闘だとポーションじゃないと使いにくそう」
「まだ作れないのが残念だね~」
話をしながらだと準備も順調に進んで、もう寝るばかりだ。
布団に潜り込んで銀華の話の続きを聞いた。あの石は洞窟付近に転がっていて、洞窟内の壁にも同じ石は見えたが、道具を何も持ってなかったから掘れなかったらしい。座標はチェックしたので、すぐに向かえるとのこと。
「いろいろありすぎて、どこに向かえばいいかわからないね」
「ガラスに関しては、村でガラス探してからでいいかな。船も、川の対岸に渡るときに作ればいいから後回し。村と洞窟、どっちを優先するかだね」
「鉄の剣作って、村のゴブリン退治!」
「ゴブリンを後にしすぎると村を荒らされるかも~」
「確かに、ゴブリンに色々持っていかれても困るなぁ」
「鉄の剣は技術5知性5で、レベル上げないと作れないから、戦うのはレベル上げた後だね」
「必要ステータス高すぎる!」
「共同制作って項目があって、制作に関わる人の最大ステータスを元にして制作可能だって。鉄の剣の場合なら、誰かが技術5で、誰かが知性5あれば作れる。作業速度は、参加者の不足ステータスによって色々変わる」
「ひとりで全部やる必要がないのは助け合いって感じでいいね」
「結局、本はどうだったの~?」
「文字が読めないから、知性の上昇待ち」
結局、二手に分かれての行動に決定! 今日はそのまま就寝。本当に寝るわけじゃないから、眠気とは関係なく、全員が布団に入ったらすぐ暗転した。
朝、心なしかすっきりしている! そう蒼奈に話したら、一瞬で眠りから目覚めても、精神的な疲労の回復は少しされているらしい。便利だなと思ったけど、そういえば本来の体はほとんど寝ている状態だから、疲れたって感覚の方が疑似的な感覚なのかも。
今日は、私と銀華が洞窟へ、蒼奈と茶子が村へ移動となった。ひとつきりの袋を蒼奈達が持っていくことになったのは、村に細かい道具があるかもしれないから。こっちは石の回収だからね。袋に入れるほど細かいものはないでしょう。
それじゃー、座標に向けて出発!
と、勢い込んで出発してすぐに、大発見!
「ギンガ! 羊さん!」
「おお! もこもこしてる!」
急いで、近くの雑草を刈りこむ。それを束にしたあと、羊さんに見えるように草をゆっくり振る。
こっちに寄ってきたけれど、一定距離からは寄ってこない。こちらが少し前に出ると、羊さんは後ろに下がる。でも、気のせいかもしれないけれど、距離が縮まってる気がする。
しばらく続けていると、急に羊さんが寄ってきて、手に持っている草を食べだした! やった!
「食べてる!」
「おいしそうに食べてる!」
もしゃもしゃと草を食べる羊さんを、ぼーっと眺めてると、銀華がチャットを開いた。
ギンガ:羊見つけた。草食べさせてる。
アオナ:拠点まで連れていける?
蒼奈の返事を見てから、銀華と目を合わせて、羊さんに草をあげつつ、拠点の方向へ移動すると、草につられて羊も移動してきた。
ギンガ:いけるかも。
アオナ:じゃあ、拠点まで誘導出来たら、家の中に入れてあげて。壁とロープでつなげられたら、さらにいい。
ギンガ:了解!
草を食べさせつつ、誘導してなんとか拠点まで連れてくることに成功。ペット用ロープを羊さんに当てたら、自動で首輪になった。反対の端を壁に当てたら、こちらも壁に結んだ状態になった。
拠点の家の中しか安全な場所がないんだよね。荷物もこれから増えるし、増築やペット用の建物も作らないと手狭になってきそう。
時間的にはまだ昼前なので、もう一度洞窟へ向かう。今度は何事もなく到着。切り立った崖の下に、その洞窟はあった。山の一部が削られたのだろうか? 洞窟は奥が暗くて先が見えないけれど、探索メインじゃないから崖の表側だけ確認。確かに銀華が持ってきた赤石に似た石が、崖の中でも垂直の壁になった部分にたくさんある。
「じゃあ、掘ってみようか!」
銀華と一緒に、持ってきた石のツルハシを壁に突き刺す。しばらく削っていたが、あまり順調とは言えない。赤石がドロップしないのだ。
「石のツルハシじゃ掘れないのかな?」
掘れない理由はなんだろ……ステータス?
筋力のステータスに、1ポイント振ってみる。それから掘ってみると、さっきと違う感触がする!
「おお、掘れてる!」
「掘れてるね! 筋力だったかー」
その後、銀華も筋力に1振って、採掘を開始する。前の石を掘ったときと同じように、30センチの立方体の石がドロップした。重いけど持てない重さじゃないため、ひとり3個持ち帰ることにした。掘っている最中に、レベルが上がった。レベル5、ポイントは1振ったので余り3。これも相談だね。
拠点に到着するも、まだ蒼奈達が帰っていないので、羊さんを見て和んでから、木の伐採に向かった。期待していた通り、切る速度が少し早くなってた。筋力を上げると効率が変わる! おかげで、筋力も生産活動に関わってくるステータスということがわかった。加えて、切り取った丸太を運ぶのも少し楽な気がする。運搬できる重量にもかかわってくるかも。
拠点に戻ると、銀華が木炭を作っていた。石窯がもう一つ欲しいな。しばらく生産をしていると、蒼奈達が無事にもどってきた。
「ただいま~」
「おかえりー。どうだった?」
「収穫あり」
蒼奈が親指を立てる。うん、機嫌がよさそう。
「村の施設に色々触ってきたからレシピかなり増えた。細かいものは実物も持ってきた」
建築レシピ……藁葺屋根、ガラス窓、井戸、門、梯子、柵、ペットの柵、餌箱、看板。
機材レシピ……調薬机、金床。
道具レシピ……棚、ベッド、木製の食器各種、ガラス瓶、松明、鏡
装備レシピ……鉄のハンマー、鉄の斧、鉄のツルハシ、鉄の杖、皮の靴、
「鏡もあったんだね」
「これ~、小さな手鏡が落ちてた~」
掌サイズの、小さな鏡を見せてくれた。触ると、レシピが解放。実際作るのはまだ先かなぁ?
「銅装備って、このゲーム無いのか?」
「あるのなら、鉄より前に出てきそうだよねぇ」
「それより~、みんなで羊の柵作ろうよ~」
「見本の柵作るよ。ステータスは初期値で行ける」
蒼奈と茶子が隣同士でペットの柵を作っていく。高さ1メートル、横幅2メートルの柵が出来た。家の壁と違って、作成時間も短い。さっそく触って、レシピの解放をした。
「外から丸見えだけど、これでゴブリン対策になるの?」
「なるみたい~。柵の扉をしめたら~、攻撃されないって~」
「ペットに限るけどね。人の場合は柵の中でも攻撃される」
柵を作りながら効果のほどを聞いてみたけど、すごい効果だ。羊さんが安全に過ごせると思うと、作るのも気合が入る。4人で作ると、短時間で作れるだけあってすぐ作れた。1か所が柵の扉になっているけれど、ペットの柵のレシピが解放されたと同時に、それも覚えていた。
柵の中の一角に、蒼奈が餌箱を作った。ここに餌を入れておけば、自動的に食べてくれるらしい。
家から羊さんを連れ出して、柵の中に入ってもらった。うん、可愛い。でも一匹だと寂しいかも。
「屋根もつけてあげたいね」
「小さな小屋を作ってあげたい」
とはいえ、時間的にはそろそろ夜だ。荷物を家に移動して、夜を過ごす準備に入る。荷物を運び入れて、今日も減った空腹ゲージを回復するためにパンを食べると、
システム:アチーブメント『グルテン好き』を獲得しました。
とのアナウンスが!
「アチーブ取れた!」
銀華が叫んで、周りを見ると、同じく頷いている。みんな取れたんだ! 食事回数かな?
「あと1つだね!」
「このまま続ける? ゲーム内8時間経ったから、現実だと4時間だけど」
「昼ごはん食べてからスタートしたから、まだいけるよ!」
「水分補給はした方がいいかも~。警告出るよ~?」
「そうだねー。強制ログアウトになる前に、一度休憩しよっか?」
「「「はーい」」」
というわけで、それぞれが家のベッドに入ってログアウトしていった。
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