『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』39
ピザ窯に戻って、ピザを焼き始める。小会議室に居るのは、わかっているだけで8人。他にも、パルトさんを見張ってる人も居るだろうから、最低10人は居そう。
それを少し超える程度の数を焼けばいいと安易に考えていたけれど。
「お、ピザもやっと再開かな? 1枚もらっていい?」
という職員さんが次々に集まってきて、焼く枚数も10枚では効かなくなってしまった。さっきより人数増えてないかな?
「終わりそうにないね!」
「どんどん人が増えてねぇか!?」
終わりのないピザ焼きに、先輩たちも翻弄されている。それは私と茶子も同じで、ピザを会議室へ持っていく隙が全然ない。
どうしようか迷ってると、
「手伝いますね」
という声と共に、マーレさんがすぐ横に……えぇ!?
「職員にピザを焼いてほしいと、リーマトさんから直接ケータリングの依頼がありました」
「廊下にもたくさん職員の人がいるな、まだまだ焼かないと収まらないぞ!」
メエルさんもマドラさんも来ていた!
「こんなら……っと」
ミカン:クエストミッションが始まりそうだ。
ミカン先輩が言葉を止めて、チャットに切り替えた。クエストミッション?
チャコ:あたしはないよ~?
アカネ:私もないです。
キリ:私はあるね。それならふたりは別行動、というか会議室組だろうね。
ミカン:しっかりストーリー終わらせてきな!
アカネ:はい!
チャコ:いってきま~す。
マードレ・ピッツァの3人にもお願いをして、ピザボックスをふたりで抱え持って小会議室に向かう。
入口をノックすると、返事と共に内側から扉を開けてくれた。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
扉を開けたデリダさんは、目を丸くしているけど、奥のリーマトさんは、
「ありがとう、待っていましたよ」
と快く受け入れてくれた。来るのを予想してたのかな?
ピザと炭酸水を、座っている人全員の前へ並べていく。マードレ・ピッツァの3人も焼くのを手伝ってくれたので、余裕を持って焼けたから何枚か余った。
「せっかくだから、ふたりとも食べていきなさい。全員食事休憩でもしよう」
リーマトさんの勧めで、茶子と並んで席に座り、ピザボックスを開く。
「ふむ。この気が利く娘たちはリーマトさんの知り合いかね?」
「ええ。妻の知り合いと言った方が近いかもしれませんが」
ビルグスさんはリーマトさんと気軽に話してるような気がする。親しいのかな?
「はむ、むしゃ……ふむ。まぁまぁだな。久しぶりにコルニチョーネを食べた。刑務所でもピザは出るのだろうな?」
「当然。国民の権利ですから」
ビルグスさんの質問に、サフォさんが答える。その答えに、ビルグスさんは満足そうに頷く。
ビルグスさんは、本当にピザが好きなんだろう。1枚のピザをかみしめて食べてるような気がする。
「パルトさんは~、今回の関係者だったんですね~」
「そうだね。僕も少しは刑務所かもしれないな。犯罪の片棒を担いだみたいなものだからね」
「こんな事態になることはわかってたんですか?」
「いやいや。まさか土台を支えるプレートまで影響するとは思ってなったよ。提出したプログラムを解析してもらえばわかるけど、土台をわずかに振動させることと、護衛艦の固定金属に影響するプログラムしか組んでいないから。まぁ、腕試しをしたかったのは事実だけどね」
炭酸水を手に取ってごくりと飲むパルトさん。
「パルトさんは、今のところ今回の事件において、プレートを含む土台の落下に関係しているとは断言できません」
サフォさんが私たちを見て、話に加わってきた。
「護衛艦は先ほど別室での話の通りですし、土台のズレの発生時期について、住民から聞き取りをしたところ、数週間前から起きていたのが判明しました。パルトさんのプログラムが関係しているのであれば、もっと前から事件は発生していたはずです。仮に時限式だとしても、提出されたプログラムを解析すればわかることです」
話し終わった後、サフォさんはピザを食べる。
私も、ピザを手に取り口へ運ぶ。ピッツァイオーロとまでは行かないけれど、この世界に来てからずっと頑張って作っていたので、かなり美味しく作れるようになった。
チーズの甘みと癖になる香りに、トマトの酸味と旨味。それらが共に混ざって濃厚なソースとなり、そのソースが、生地の適度なサクサク感ともっちり感によって包まれることで、ソースを歯で噛むという特別な食感に変わる。そこへバジリコが加わることで、柔らかい中にも植物の繊維質がわずかに抵抗するため、ソースと生地の柔らかな食べ応えに、歯ごたえというアクセントが入って食べるのが楽しくなる。
私たちが頑張って作ってきた、自信作だ。事実、先ほど職員の人たちも笑顔で美味しいと言ってくれていた。初対面のビルグスさんやサフォさんもおいしそうに食べている。
だからこそ、この人の行動に違和感を感じる。
「パルトさん、ピザ食べないんですか?」
先ほどから炭酸ばかり飲んでいて、目の前に置かれたピザには手を付けていない。
「ごめんね、ちょっとショックで食欲が無くて。悪いことだと感じつつ依頼を受けて、それが発覚したからね。これからの事を考えるとどうしても食欲が出ないんだ」
「そうですか。でも、これからのことを考えると食べて体力付けた方がいいですよ?」
「そうなんだけどね。ま、後でゆっくり食べることにするよ。このピザを包んでもらおうかな」
そう言ってピザボックスの蓋を閉じる。せっかく作ったのに。ううん。これまでもこの人はピザを前にそう行動してきたのだろう。
「――パルトさんは、これまでピザを1度でも食べたことがあるんですか?」
瞬間、部屋の空気が一気に変わった。あり得ない言葉を聞いて、凍り付いたような感じかな。
「アカネちゃん、さすがにそれはないですよ?」
「そうだぞ、ピザを食べずにどのように生きればいいというのか?」
リーマトさんとビルグスさんは反論を述べてくる。サフォさんやムドリさん、その他の人も、茶子を除き全員が頷く。
「でも~、パルトさんがピザ食べた姿見たことないですよ~」
「工事現場の現場責任者の方が、パルトさんとは1度も一緒にピザを食べたことが無いと言ってました。ここでのピザのケータリングでも取りに来た様子はありません」
「そういえば、私がピザを勧めても断っていたな」
ビルグスさんも心当たりがあるみたい。
「そんな、偶然ですよ。アカネさんたちと常に一緒に居るわけでもないですし」
パルトさんが手を振って否定する。
「それなら食べてください、そのピザを。暖かくておいしいですよ?」
視線が、パルトさんに集中する。食べるのか、食べないのか。この街の住人なら、その選択肢なんて最初から存在しない。
「本当は食べてあげたいけど、やっぱり食欲が無くてね。ほら、気持ちが沈んで何も喉を通らないことってあるよね? 今は食欲が戻るまでそっとしておいて欲しいかな」
やっぱり、食べない選択を取れる。この街の住人でもなく、プレイヤーでもないなら、この人の出身はおそおらくあの場所だろう。
「それじゃ~、あたしから問題~? あたしとアカネの制服のワッペン、リーマトさんとビルグスさんのバッジ、デリダさん、ムドリさん、チェリさんのタイピン、サフォさんのネックレス、ロックスさんのネクタイ。共通点は~?」
「アクセサリー? いや、ワッペンやネクタイは違うな」
「それぞれピザがモチーフだな。ありふれたものだと思うが――」
視線がパルトさんに集まる。パルトさんがしているアクセサリーは、小さな地球に大きな家とビルが生えたバッジ。ピザのモチーフではない。服装のどこにもピザ要素が見当たらない。
「確かにピザじゃない。けど、どれを付けてもいいじゃないか。アクセサリーなんだから」
パルトさんが少し語気を強めにして答える。
「はい。アクセサリーだから自由です。でも、そのバッジは違いますよね?」
パルトさんの目をしっかり見る。お互い目つきが鋭くなっちゃったかな?
「アカネちゃん、そのバッジに何か意味があるのですか?」
リーマトさんが尋ねてきたので、リーマトさんを含む、他の人たちの方を向く。
「博物館で知ったのですが、あのマークは地球の国旗のようなものです。現在地上で生活している国家のひとつが、あのマークを使っています」
改めて、パルトさんを見る。
「私の予想では、パルトさんは地上の住人です」
ピザに敬意を払い、慣習的に名前にPは付けない文化です。ただ、絶対ではありません。




