『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』38
「ここに来たのは、アカネさんとチャコさんに来てほしかったんです。例の件で聞き取り調査をしていてね」
例の件というと、パルトさん関係かな。先輩たちも来てもらった方が心強いんだけど、入れてもらえるのかな。
「お店の先輩も一緒に向かうことはできますか?」
「先輩? この件で関係があるのですか?」
私が先輩たちを示すと、リーマトさんは先輩たち襟元のバッジを確認した。
「……いいでしょう。ラネークさんも来てもらいますし、一緒に向かいましょう」
「あの、もうひとり良いでしょうか?」
黄里先輩が、近くにいる30代に見える女性を示した。この人もバッジを付けている。
「構いません。どうぞこちらです」
「ありがとうございます」
女性は丁寧に礼をした。リーマトさんが先導し、私が天井に上るために使った小会議室に移動した。
会議室には見知らぬ男女がふたり居る。
「この方たちは事件の調査をしている方です。別室のパルトさんの側にもいます。最初に皆さんに話を聞くために、こちらに来てもらいました」
そういって、席に座るように促される。それぞれ席についたところで、リーマトさんが調査をしている人に頷き合図をした。
「防衛警察部門、警察所属のサフォです。こちらは同じ所属のムドリです」
女性がサフォさんで、男性がムドリさん。どちらも30~40代に見える。サフォさんのが立場が上なのかな? 話の主導もサフォさんが執っている。
「リーマトさんから聞きましたが、アカネさんとチャコさんが、下位の制御装置が上位の制御装置を操作できる可能性を示唆した。それは建築工事現場にある車両の状況から推測したことで間違いはないですね?」
「「はい」」
茶子と声がはもった。
「それを証明するように、黄色の制御装置が都市の制御装置を阻害していた事実を確認しました。その黄色の制御装置は、そちらのラネークさんが設置したことで間違いありませんか?」
「間違いありません」
「ラネークさんは異他飯委員会に所属しており、そちらの指示で設置をしたということですね?」
「はい」
ラネークさんは静かに答える。そんな中、先輩たちが連れてきた女性が手を挙げた。
「発言よろしいですか?」
「どうぞ」
「私は、異他飯委員会で現在会長を務めるリマラダです。設置に関する経緯をお話することができます」
部屋のほとんどの人が目を向いた。それはそうだ、だってこんな事件を起こした組織の会長が来るとは誰も想像していない。
[アカネ]そんな重要人物を連れてきたの!?
[キリ]責任感ある人だからね。証拠探しをしてたら私が行くって。
[ミカン]書類も当然持ってきたけど、一番重要なのはこの人だよなぁ。
「3年ほど前に、あるプログラマーに依頼をしました。名前は――ありがとう。名前はパルト。フリーのプラグラマーで優秀ということで依頼をしました。依頼内容は、護衛艦の固定金属の稼働を操作するプログラムです」
キリ先輩が差し出した書類で、名前を確認した。この後に話した依頼をした理由は聞いたことがある内容だ。地上で生活を望む人たちのためだと。
「パルトさんからは、稼働用のプログラムと、センターへの接続方法を提出してもらい、制御装置への記録は私たちが行いました。それをラネークさんに接続してもらうこととなりました」
「護衛艦の固定金属は、本日解除しましたか?」
「はい」
「目的は?」
「地上から移住の受け入れに関する通信が届いて、近日中に上空を通過するので、希望者を送り届ける船として利用するつもりでした」
[アカネ]移住先あったんだ!
[ミカン]まぁ、今回の事件でなくなっただろうけどな。
[アカネ]移住先の書類とかありますか?
[キリ]あるよ。はい、これ。
[アカネ]ありがとうございます。
「稼働させた時間は?」
「16時頃です」
16時頃って、ちょうど地震が発生した頃だ。間違いなく関係がある。私たちが犯人ですって言ってる様なものなのに、堂々と答えている。確かに、責任感が強い人だ。
「丁度、事件が発生した時間帯ですね。間違いなく関連はありそうですが、心当たりは?」
「ありません。これまで護衛艦の固定金属を解除する実験は何度も行ってきましたが、今回以外は全て問題なく護衛艦だけを対象にできました。先日事故は1件ありましたが、それも護衛艦のみの影響で、土台に影響を及ぼしてはいません」
「先日の事故が土台に影響を与えていないかどうかは、まだわかりません。あの事故から数日以内に地面が数センチずれているのを確認しています」
リーマトさんが話を補足する。たしかに、あのズレの原因が事故と関係あるかはわからないね。
「ただ、設置が3年前で、その後に何度も稼働させていたとすると、地面への影響は限りなく無いに等しいですね。土台の定期点検でズレが発生した報告は10年以上ありません」
「わかりました。リーマトさんは後で点検書類の提出をお願いします」
「あと、1つだけいいでしょうか?」
リマラダさんがサフォさんに向けて軽く手をあげる。
「ラネークが黄色の制御装置を設置する際に、赤色の制御装置がすでに設置されていたそうです。それを黄色の制御装置に差し替えて設置しました。既にその制御装置は委員会には存在していないので、どんなプログラムが入っていたのかわかりませんが、何らかの意図があったのではないかと思います」
うん。絶対怪しいよね、それ。ただ、いつからそれがあったんだろう。
「廃棄したのですか?」
「いえ、保管していたのですが、今日ここへ来る前に探したら紛失しているのがわかりました」
「わかりました、情報提供ありがとうございます。次は……そのふたりはどんな役割でしたか?」
サフォさんが先輩たちふたりに目を向ける。
「ふたりとも異他飯委員会所属の会員ですが、会員歴はまだ半月以内の一般会員です。そちらの少女たちの知り合いだということで、ここへ来るのに都合がよかったので案内してもらいました」
サフォさんは頷き、先輩たちの話はこれで終わった。
ムドリさんと何やら話をしている。
「リマラダさんとラネークさんは、もう少しお話させてもらいます」
サフォさんはリーマトさんを見てそう伝えたので、リーマトさんは席から立ち上がる。それを見て私たち4人も席を立ち揃って部屋を出る。
部屋を出て、廊下の隅に移動する。そちらに、天井裏を一緒に調べたリーマトさんの信用できる職員の人もいた。
「ふたりが見つけた、地面のズレについてですが……」
地面がズレていた理由を教えてもらった。あの汗を流して一生懸命だったビルグスさんが、パルトさんにプログラムを依頼したそうだ。
そして、そのプログラムもここまでひどくなるようなものじゃないらしい。土台のズレも、小規模な振動を起こすのが目的だったそうだ。
プレートの交換については、5年前に欠陥が見つかったらしく、それを修正したプレートへの交換が進められているだけで、今回の件とは関連が薄いらしい。
理由は色々あるみたいだけど、ビルグスさんが言うには浮遊都市のためらしい。必死になって働いている姿を思い出すと、心底悪い人ではなさそう。
「それと、パルトさんに関しては判断が難しいですね。どちらにもかかわってるので彼が主犯にも思えますし、別組織な上に依頼を受けた時期も違うので、関連が無いとも思えます」
関連がない? そんなことはないよね。間違いなく裏で糸を引いている。とはいえ、あとちょっとだけ知りたいことがあるかな。
「リーマトさん、32階にあった通信装置ですけど、通信記録ってわかります?」
「通信記録? またどうして」
「ラネークさんは、設置後は32階に上がってないって言ってたんです。それなのに、制御装置が埃っぽいのに比べて、通信装置は少し綺麗だったので」
「そういうことですか。デリダさん、通信記録を調べる指示をしてあるので、記録を持ってきてくれませんか?」
「はい」
そう答えてデリダさんが急いで記録を取りに行く。一緒に32階へ行った人で、黄色い制御装置を調べていた人だ。通信装置を運んだ人はロックスさんで、茶子の護衛についた人はチェリさん。全員男性だ。
「もう調べてたんですね」
「いえ、今の事件前に、アンダーピールの事件関係で護衛艦から地上への通信があったのを確認したので、センタービルからの通信も調査対象にしただけです」
それって、かなりの先読み? 仕事ができる人は違うなぁ。
「それにしても、埃は気が付かなかったです。見た目にどちらも汚れていませんでした?」
「通信装置も汚れてましたけど、受話器だけ綺麗だったので、使ってるのかなぁって」
[ミカン]チャコみたいな目ざとさだな。
[チャコ]もう教えることはないんだよ~。
[アカネ]先生!
[チャコ]こんど授業料もらうね~。
[アカネ]先生!?
デリダさんが通信記録を持ってきてくれた。ありがたいことに、32階の通信装置で使われた通信記録は、赤で線が引かれている。
通信先が、さっき先輩から受け取った書類と一致していた。
小会議室からサフォさんとムドリさんが出てきた。
「応援が来たので、彼らに2人を任せました。リーマトさん、それでは再度あちらに行きましょう」
ムドリさんがあちらと言って指をさすのは、反対の小会議室。パルトさんとビルグスさんが居る場所だ。
「あたしたちも行くの~?」
茶子がリーマトさんに聞き、リーマトさんはサフォさんを見る。
「彼女たちから聞きたい証言は取れたので、来ていただかなくても問題ありません」
むむ、もう関わるなってことを遠回しに言ってる感じかな? プレイヤーとはいえ、ただの一般人であることには変わりないからなぁ。
サフォさんを先頭に、ムドリさんが会議室へ向かった。リーマトさんはこちらに軽く手をあげてから会議室へ向かい、デリダさんたち3人もそれについていった。
「見事に断られちまったな」
「勝手には入れないでしょうしね」
「今はストーリーの進行中だから~、関わった方がいいんだよね~」
招待されていない会議室に入る方法か……視界の片隅に、ピザを食べ歩く職員が見える。
「そうだ、ピザだ!」
「ピザ?」
「ピザの配達がどこでも届けられるなら、会議室も受け入れてくれそう!」
会長を30代に設定したのは、何となくそのあたりの年齢の女性が指揮する組織はかっこいいと思っただけです。




