『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』31
「所長! 大変です!」
慌てて入ってきた職員は、リーマトを見ると慌てて背筋を伸ばす。
「会談中、失礼いたします。所長、緊急の報告があります」
それと同時に、リーマトの携帯電話に連絡が入る。
「今日はここまでにしましょう、私も出ますので」
ビルグスがそう伝えて会議室を出る。
誰もいない会議室で、リーマトは携帯電話に出る。
「……! 後でまた連絡する!」
31番通りより外の土台が海上へ落ちそうになっていると聞いて、部屋を出て真っ先にビルグスを探す。
慌ただしく走る職員を捕まえ、ビルグスの場所を教えてもらい、そちらへ向かう。
ビルグスが居る部屋の中を見ると、走り回る職員の中で忙しそうに電話をしているビルグスを確認して、話しかけられそうな雰囲気ではないことを知る。
自分も忙しい身なので、これ以上ここに居ても邪魔になると考え、部屋を退出する。
その際、これだけ忙しく職員が走り回る中、慌てることなく奥のソファーに座り何かを飲んでいる青年が視界に入った。
とはいえ、さすがにそこへ向かうほど暇ではない。部屋を出てエレベーターに乗り込み、自分の所属する部署へ移動する。
土木建築部門でも、長官、副長官が不在だったため、相当な混乱が起こっていた。長官もこちらへ急いで戻ってくるそうだが、まだ時間がかかるらしい。
しかし、各担当がそれぞれの判断で相談しながら進めていたおかげで、確認作業などの指示をしなくても情報が机の上に集まってきている。しかし、情報を確認すればするほど、最悪な事態になっていることがわかる。
リーマトは次々と送られてくる問題に対応し、積み重なる書類を処理しながら別の事を考える。
既に車が乗り上げることができないほど、段差ができている。それなのに、土台管理センターでは正常とされている。
(間違いなくデータが改ざんされている。ビルグスは知らない様子だったが、あれは本心か?)
リーマトはビルグスとの会話を思い出し、違和感を覚えた。
(土台がズレているかどうかの事実を確認することなく、都市環境システムに問題があったかもしれないと判断したのはなぜか――全て知っていたからだ)
土台のズレも、その理由が都市環境システムのエラーであることも知っているからこそ、リーマトの主張に反論することなく都市環境システムの全体精査と言い出したのだと思い至る。
(今の出来事を事前に知っていた可能性がある)
理由はわからないが、都市環境システムに介入したに違いない。だが、どうやって?
――今日の昼食に少女たちが持ってきた話。
下位の制御装置が、上位の制御装置を操作する可能性があること。
もし都市の制御装置が何らかの手段で操作されているのなら……。
そこで思い出したのは、慌ただしい情報管理部門で、ソファーに座っていた男。
(息子が大学時代、圧倒的な技術力でプログラミング部門の大会で優勝をし続けた男か!)
リーマトは立ち上がり、プログラミングに強い部下やシステムエンジニアを集めるよう指示。
集合の指示が全体に広がる前に、長官が帰還する。そのまま、長官室でリーマトは考えた推測を伝える。
情報管理部門の長官は都市環境システムのエラーを知っていること。
おそらく今回の現象は人為的になされたこと。
制御装置が下位から上位へ命令が出来る可能性があること。
優秀なプログラマーが情報管理部門にいること。
それらを踏まえ、センタービルの最上階に我々が行くべきではないかと主張する。
「何も証拠がない状態で都市制御装置の部屋に無断で入るのは犯罪だが、それでもかね」
「――それでも、現状最も怪しいと推測できるのは制御装置です。この状態で土台管理の情報が正常値なのは都市制御装置に何か不具合があるとしか考えられません」
リーマトの主張に、長官は「少し待て」と言っていくつかに電話をする。飛行管理部門長官、天候上下水道管理部門長官、ピザ衛生管理部門長官、他にも何ヶ所か電話を掛けているようだ。繋がるところもあれば、そうでないところもある。この混乱で平時とは違う行動をして不在なのだろう。
「全部門の4割の承認は得られた。過半数には足らないが、これで一方的な犯罪にはならないはずだ」
電話の受話器を置いて、長官はリーマトを見てくる。
「私はここから離れるわけにはいかん。頼む」
「はい!」
あらかじめ集めておいた選抜メンバーを長官室に入室させ、現状と推測を説明し、長官の命令のもと31階を目指す。
~~~~~~
土台管理センターのモニターが正常値を示してる表示を見て、黄里も蜜柑も混乱をしていた。
「どう見たって正常じゃないだろ!」
蜜柑の叫びは、他に集まってきている市民も同じように叫んでいる内容だ。土台管理センターの怠慢だという声も聞こえる。
センターの窓口で対応している職員も謝ってばかりだが、怒鳴っても謝ってもなにも進展しない。
「ここに居てもしょうがない、帰るぞ」
蜜柑は黄里にそう告げて帰ろうとするが、黄里はモニターをじっと見ている。
「この都市の土台は、側面が直線じゃないんだね」
「ん? そうだな。雷みたいにギザギザだけど、それが?」
黄里が見ているモニターを蜜柑も見上げる。
「いや……この構造って、端から押し上げられるんじゃないかな?」
「押し上げって――まさか?」
蜜柑を見てにこりと笑顔を見せる黄里。
「どうせ戻らないのなら、役に立ってもらいたいじゃないですか?」
それからは、ふたりとも事務所へ全力でスクーターを走らせる。
途中茶子から連絡があったが、あとから向かうと返事した。
なだれ込むようにして事務所に入り、通信室へ一直線に走りこむ。
「護衛艦! やってほしいことがあるんだが!」
通信士から通信を取り上げて、護衛艦にいる委員会の仲間に連絡をする。幸い、相手と繋がっていたのですぐ返事が来た。
「頼みがある、その護衛艦で35番通りを下から押し上げてくれ!」
~~~~~~
護衛艦の職員が交渉の末、艦長までその希望が届けられた。安全保障担当と説明を受けたカマンダさんが、艦長だった。
黄里たちの頼んだ内容は、護衛艦がその船体で直接土台を上へ押し上げるということで、当然ながら護衛艦の破損や、下手したら航行不能、あるいは海上への落下もあり得る提案だった。
その上で艦長としては意義のある行動だとして承知してくれた。
実行は限られたメンバーだけで行うと艦長が宣言したのだが、全員が手伝いたいと申し込むので、フルメンバーで実行することになった。
護衛艦には何機か艦載機があるので、先行して現場の確認をし、どこを抑えれば効果的かを検証した。
全ての土台を1隻で押さえつけることは不可能なので、落下している土台の中央部分を押し上げることに決定。その中で、さらに中央を真下ではなく多少斜めから押し上げるようにして飛行ユニットを全力で稼働させれば、落下する土台を押さえることが可能だと計算をした。
全ての調査が終わり、護衛艦がドックから離れて目標地点へ移動する。
~~~~~~
護衛艦への依頼が終わり、蜜柑と一緒に店へ戻ると、店先には飛行ユニットを搭載したバイクが3台あった。これを使えってことだろう。
茶子が使うバイクを運ぶために、私が使うバイクにつなぐ。茶子のバイクを飛行状態で機動しておけば、牽引できそうだ。ただ、ふらふらしそうなので何ヶ所かでしっかりと結んでおく。
「都市をピザに見立ててんだよな。焼いたピザも運べば完璧じゃね?」
「天才」
蜜柑の急な閃きに、急いでピザを焼く。NPCが使っていたので、窯の準備も問題ない。4枚を速攻で仕上げて、箱詰めしていて気が付く。
「そういえば、他のピザ屋も来てるよね?」
「あ~、ついでに焼いておくか」
時間がどれほどあるかわからないけど、都市を運べる謎な性能のバイクなら、多少の時間をロスしても可能性に賭けたほうがいい。
一気に焼き上げて、茜と茶子にピザをデリバリーする。
ピザを入れた結果、出力も上がって土台の落下スピードがさらに下がってきたので、無事に賭けに勝ったようだ。
マードレ・ピッツァの、マドラとメエルも合流して、バイクで落下を防ぐ作業をする。 海の方を見る。護衛艦の艦載機が調査に来ているな。これなら、上手くいけば落下を防げるはず!
そんな中、携帯電話の音が鳴った。音の発信源を探すと、茜が電話を取り出している。
「こんにちは! はい、はい。……はい。――! はい! わかりました! 今すぐピザのデリバリーに伺います!」
……何を言ってるんだ?
ピザを運ぶだけでバイクの出力が増える謎システム、仕組みは何も考えていません。リアボックス内部でピザが高速回転もしていません。




