『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』29
店に到着し、更衣室にて一瞬で店の制服に着替えた後、急いで飛行ユニットを載せたバイクにまたがる。
チャコ:先輩~! 店のお金使います~!
キリ:了解!
カタログを調べて、梯子を10台を購入する。外が大混乱な状態なのに、注文が届いた。
バイクの後ろにある牽引用の金属ロープを使い、バイクの左右に5台ずつ縛る。
「チャコ行くよ!」
「了解~!」
茶子がバイクの座席の後ろに乗る。かなり狭くなるけど、飛行ユニットを載せたバイクは1台しかないから仕方がない。
バイクを走らせて、孤児院の子どもを超え、31・32番通りで避難する人の手伝いをしている男性がいる場所に到着。
梯子を2台下ろす。
「これ使ってください!」
「助かる!」
そのまま先へ進み、32・33番通りでも2台、33・34番通りは3台、34・35番通りも3台を、茶子が地上に投げ捨てた。
乱暴なようだけど、混乱の中でバイクを奪われる可能性を考えると、丁寧に下ろすのは怖かった。
見た感じでは、34・35番通りは、段差が3メートル、隙間は2メートルにまでずれてしまっていた。おかげで、避難できなかった人が何人もいて、梯子を見た瞬間に人が沢山集まっていた。
そして、その人だかりから少し離れたところで茶子を下ろす。人が多い場所だと混乱に巻き込まれそうだからだ。
「確認よろしく!」
「了解~」
茶子を残して、私はそのまま海岸線へ向かう。ここからが本番だ。
茶子を下ろしたときに気が付いたけれど、地面が海へ向けて斜めに傾いている。本来は内側に傾く設計がされているはずなのに、海へ物が落ちているのだ。
近くに避難が必要そうな人はいない。海へ落下したかどうかは正直わからないけど、今の傾斜なら、まだ問題なく歩ける坂道だから、34番通りの方へ向かって逃げていったんだろう。それでも現状、目で見てわかるほどに道が傾き続けているのはわかる。
飛行状態のバイクを操り、35番通りの崖部分を降りる。崖といっても、金属で出来た崖なので、探してるものはあるはずだ。
「見つけた。土台の支柱」
35番通りの側面を、縦横に走る太い金属の支柱が等間隔に並んでいる。その支柱の、縦横が重なった部分に、金属ワイヤーを巻き付ける。
そしてそのまま上へとのぼり、バイクを都市の中央に向ける。
[アカネ]チャコ、こっちは準備できた!
[チャコ]こっちもいいよ~!
茶子の返事を受けて、そこからバイクを全力で走らせる。当然、牽引ロープが引っ掛かり、進もうとしても進めなくなる。
[チャコ]う~ん。確かめるから、ちょっと止まって~。
走るのを止め、地面に降りる。
[アカネ]どう?
[チャコ]うん。ほんの少しだけど影響あるっぽい~! 段差や隙間が広がる速度が遅くなってる~!
[アカネ]本当に効果あるんだ!
[チャコ]びっくりだよね。
[アカネ]あとは数か。
[チャコ]先輩に連絡しよう。
私はバイクを走らせて、段差の進行を遅らせる。その間に茶子が連絡係だ。
先輩に連絡をしたところ、今の作業が終わったら店のバイクに飛行ユニットを追加して参加すると言っていた。
マーレさんにも携帯電話で連絡をした。マードレ・ピッツァにもアンダーピールのミッションで飛行ユニットのバイクが追加されている。
[チャコ]あとは~。うぅ、しかたない、連絡するか~。
[アカネ]あてがあるの~?
[チャコ]ブルダーさん~……。飛行ユニットでドライブを誘われたことがある~……。
[アカネ]それは……どうするの?
[チャコ]仕方ないから連絡する~。
連絡先は出会った瞬間に渡してきたそうだ。茶子は、ずいぶんとヒロインしてる気がする。
しばらく続けていると、坂を滑るようにキックボードに乗った茶子が現れて、私のバイクの後ろに乗った。さすがに地上に立っているのは危ないのと、ブルダーさんが来たら後ろに乗るように言われるかもしれないからだとか。
うちの店の本部にも連絡を入れてもらった。別の地域のバイクも同じように行動するようにお願いをしたところ、快諾してくれた。浮遊都市の外周部の、この場所と反対側が同じ状況のようで、何らかの解決できる手段が欲しかったそうだ。
「チャコちゃん、連絡ありがとう! ぜひ街のため、いや君のためにも頑張らせてもらうよ」
「街のみなさんのために頑張ってください~」
飛行ユニットに乗ってブルダーさんが真っ先にやってきた。相変わらず茶子しか見ていない。それにしても、来るのが早くない?
「チャコちゃんに応援されたら、何でもできる気がしてきたよ。そうだ、アカネちゃん。エルマーにも連絡しておいたよ。飛行ユニット調達してやってくるってさ」
バチコーンとウインクをしてくるけど、それって何の合図? 私のためにエルマーへ連絡を取ったって感じに聞こえるんだけど、ただのデリバリーのライバルですよ? ブルダーさんみたいに茶子へ迫るような言葉も言ってこないからね。
そんなブルダーさんは、私がやっている方法を真似て同じようにバイクを走らせる。
「アカネちゃん、チャコちゃん! ほんとにこれでいけるの!?」
次にやってきたのはマーレさんだ。うん。正直こんなバイクだけで街を引っ張れるなんて非常識だよね。
「落下の速度は落ちました!」
「なるほど、デリバリー用バイクはすごいね」
それだけで納得してくれるマーレさん。さすがだ。
そもそも、この方法を考えたのはマーレさんとの会話にある。アンダーピールで、デリバリー用のバイクについて『ピザの名が付くものなら何でも運べる』と言ったのがきっかけだ。
『ピザの名が付くもの』は、つまりこの『円形浮遊都市・第1番艦 マルゲリータ』も、ピザの種類マルゲリータを名乗っているのなら、運搬できるのではないかと思ったのだ。
「来たぞアカネ! 俺が来たからには勝ったも同然だ!」
ブルダーさんと同じカラーリングのバイクがやってきた。
「フラテッリ・ピッツァ! 頼りにしてるよ!」
「エルマーさんって呼んでいいんだぞ!」
エルマーも加わって4人で落下を防ぐ。
しかし、徐々に下がりつつある状況は改善することなく、当初と比べてかなり下がってきているのがわかる。
「おまたせ!」
黄里先輩と蜜柑先輩だ! それぞれバイクに乗っている。うちのバイクの余りって、あと1台じゃなかったっけ?
「本部から追加のバイクが届いたんだ! あと、茶子の分のバイクも持ってきた!」
先輩たちのバイクは、もう1台牽引していた。既に地上はかなり傾斜しているから地面には下ろせないので、茶子が空中で乗り込む。
「それと、効果があるかわからんけど、これ追加な!」
そうして蜜柑先輩が出してきたのはピザの箱。それを私の乗っているバイクのリアボックスに入れる。
「出力が上がった!」
バイクのエンジンが今までと比べてかなり強力になったのを実感する。なんだこれ?
「やっぱりな。実際のピザを運んだ方が出力はあがるんじゃないかと思って、焼いてきたんだ!」
なるほど! 設定を考えれば、確かにそういったこともあり得るかも!
先輩は他の人のバイクにもピザを運び入れ、それから都市の牽引に参加する。
降下速度はかなり下がった。それでも、完全に止まるまでにはならない。
「もう少し頑張ってほしい。秘策を用意してきたから」
「秘策?」
黄里先輩は秘策に自信があるのか、余裕がある声だ。
「護衛艦が来る」
ゲームの解説を拡大解釈したら通った状況です。ブルダーさんとマーレさんは救助活動をしていたので、割とすぐ近くに居ました。




