『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』25
リーマトさんの書斎は、応接室と同じようにソファーとローテーブルがあるけれど、先ほどの部屋と違って豪華な家具というよりは実用的な感じ。ソファーも少し使い込んでいる感じがする。
そのソファーに私達3人が座り、対面にはリーマトさんだけが座っている。スインさんは奥にある机の書類を整理しており、いくつかの紙の束を持って遅れてリーマトさんと並びのソファーに座った。
「それでは、私達の方で確認したことです。まず、それぞれの通りの境界がズレている現象を目視で確認しました。アンダーピール側でも確認してもらいましたが、そちらもずれが発生しています。これに関しては内部の接続を確認しなければなりませんが、下部のプレートだけではなく、その他の接続する部品も破損している可能性があります」
そして、スインさんが書類の一枚を目の前に差し出した。
「ところが、センター側が受信した異常検知のデータは、正常だと表示されています。実際の出来事とデータ上の値が違っているんですね」
差し出された書類は、センター側が受け取ったデータらしい。細かいことはわからないけれど、緑色の数字が並んでいるから、おそらくこれが正常なことを表しているんだろう。
「制御装置ですが、型番から同型を調べたところ、どちらも一般的な用途に使われている制御装置でした。茶色の方は製造年月日が最新でしたが、赤い方だけは個別番号から製造が6年前の製品とわかりました。新規の車両に使うには古い型だと思いますが、制御装置が高価なので、ありえないわけでもないです」
個別番号は、製造会社が何かあったときに調査する目的でつけられているらしい。製造工程でミスがあったときに利用するのだとか。
「制御装置って、どんな役割があるんですか?」
「おふたりが見た茶色の制御装置は、車両の姿勢制御をしたり、観測した周辺環境をデータ化したりします。上位の制御装置はまた別の機能を持ちます」
スインさんが席を立ち、部屋の奥から親指の指先程度の茶色くて四角い部品と、赤い色をした板状の制御装置を持ってくる。茶色いのはT字車両に入ってたやつだ。
「この小さな部品だけで、普通の車やバイクならば自動運転が可能な程度の制御が可能です」
リーマトさんは茶色の部品を指さしてそう告げる。このサイズで?
「一方でこの赤い方は、これだけで10戸の家庭の電化製品や車両の全てを制御できるほどの性能を有しているんです。複数の茶色い制御装置から受け取った情報を最適な動作ができるよう計算しそれぞれに送信することで、有機的な連携を取ることができます。これをただの車両につけるとは思えません」
工事現場だと、この赤い制御装置を使って、茶色い制御装置を複数管理しているそうだ。
全体を見る装置が管理機器、受けた命令を実行するのが作業機器らしい。
「その建築現場にうちの者を送り、キスウさんに秘密裏に接触してもらいました。赤い制御装置を見せて、修理前に組み込まれたものがこれだったか確認をしてもらったところ、この赤い制御装置で間違いがなかったようです。用途としては上位互換の性能をしているので問題なく機能しますが、ただの車両に使うのはあまりに高価すぎる装置ですね」
茶色い制御装置の金額は2万P(Pは通貨単位)だけれど、赤い制御装置は40万Pもする。
「えっと、一般的な工事では、赤い制御装置が中心となって、茶色い制御装置に情報を送ってるんですよね?」
「そうですね」
「管理と作業の機器が、どちらも赤の制御装置でも問題ないのですか?」
「問題ないですね。同系統の装置なら管理機器をこちらが指定するだけで稼働します」
「赤同士の環境の中で、赤より上の制御装置が管理機器として割り込むことはあるんですか?」
「それもないですね。作業機器が、管理機器と比べて同等、あるいは下位の場合は、管理機器の対象を変更することはありません。逆に、作業機器が管理機器より上位の場合、そもそも管理機器が上位の作業機器に命令をすることはできません」
つまり、管理機器より上位の制御装置を使って、コントロール中の作業機器への命令権を取り上げることはできないってことか。
「あの、いいでしょうか?」
マーレさんが小さく手を挙げる。
「私は看護学科なのですが、医療機器の場合、下位の制御装置が上位の制御装置に命令することは可能です。下位の制御装置は単純なだけに、設定数の多い上位の制御装置より人為的なミスも少なくなるからだと言われています」
一瞬、沈黙が下りる。
「ということは~、工事車両も改造すればできるってこと~?」
「そう言われると、わからないですね。そもそも工事車両には茶色の制御装置しか使われていないので、改造をしたところで上位の作業機器が無い限り効果があるかどうか調べることができません」
「けど、実際に赤い制御装置の車両が存在したってことは~、調べれるよね~」
今までは調べられなかったんだろうけれど、あの建築現場ではそれが可能だった。
そして、実験を行うにはもう一方も例外の可能性がある。
「あの建築現場の管理機器が下位の可能性があるかも?」
「ちょっと調べさせますね」
リーマトさんがそう言って、スインさんが即座に立ち上がり後ろの電話へと向かい電話をかけた。
しばらくして電話が鳴り、スインさんが対応する。
「予想通り、あの建築現場の管理機器は茶色の制御装置だったそうです。建築開始当初から変更はしていないそうです」
電話から戻ったスインさんが調べた結果を報告してくれた。
つまり、あの建築現場では普通はあり得ないことが起こっていたってことだね。
「一定期間、下位の茶色が上位の赤色を制御していた。そして、君たちが来るまで問題はなかったと」
「あの日だけ赤色の制御装置が接続されていたと考える方が妥当でしょうね」
「キウスさんが事故前に制御装置を見ていないのであれば、なおさらですね。片方だけしか中を開けられなかったということは、工作された可能性がありそうです」
リーマトさんとスインさんが話す通り、私たちが来た瞬間に不具合を起こすよりも、あの日だけすり替えられたって方が納得は出来る。
「下位による上位操作の実験をしたか、あるいは、それが出来るのをわかっているのなら、制御するためのプログラムを稼働させる実験をしていたのでしょう」
そう言った後、リーマトさんは立ち上がり、書斎の左奥へと進んだ。そこで箱と鞄を取り出して持ってくる。
「これらは、主に使われている制御装置です」
箱の中には、指先ほどの茶色、カードサイズの赤に続き、携帯電話サイズの緑、お弁当サイズの黄色と、大きさがどんどん大きくなっている。
「もしT字アームを外部から操作し、先日の護衛艦の事故を起こした場合、赤か緑の制御装置でしょうね」
T字アームの操作に限るなら、赤か緑で可能らしい。ただし、護衛艦の固定金属を全て解除するような物を外部から操作した場合、黄色い制御装置が必要とのこと。
ただ、さすがにそこまでの大掛かりな制御装置を使うよりは、護衛艦内部から操作をした方が簡単に済むらしい。
そして、四角い金属の鞄を机の上に乗せる。鞄は鍵がかかっていて、厳重に保管していたのがわかる。
「そしてこれが、この都市最大の制御装置です」
そうして見せてくれたのは、内部を透明なカバーで覆った精密機械。半導体って言うのかな? 丸いピザみたいな大きさと形状をしている。
見た目がキラキラ輝いて、性能のすごさはわからないけど見た目の美しさはよくわかる。
「すごい、写真でしか見たことないです。なぜこれがここに?」
マーレさんがすごく感動している。その雰囲気からすると、この制御装置は国宝級なものなのかもしれない。
「浮遊都市は、我が家の祖先が開発と設計に携わりました。その際、制御装置は現在使われているものと、予備としてこちらを残したんです。あぁ、予備はこれだけではないですよ。他に開発に関わった企業にもあります。複数枚が様々な個所に分散して保管されています」
「キラキラして、高級そうですね~」
「そうですね。値段はつけられそうにないですが、10億Pは下らないです」
おぉ、こんな円盤に10億……。想像もつかない世界だ。
「こんなすごいもの、普通に見せてしまって大丈夫なのですか?」
マーレさんが心配そうにするけど、確かにその通りだ。
「現在は私と妻の承認が無ければこの家から持ち出せないようになっています。おそらく、来客に見せびらかしたいご先祖がそう設定したんでしょうね。まぁ、今見せている私もご先祖のことをとやかく言える立場ではないですけどね」
そう言って笑うリーマトさん。これだけの物を持ってたら、誰でも見せびらかしたいって気分になるよね。この家から出せないって制約があるから安心して見せられるんだし。
その後はまた奥様を交えてお話をした。私たちが携帯電話を持ったので、さっそくマーレさんと番号を交換したところ、奥様とも交換することとなり、流れでリーマトさんとスインさんとも交換をした。
しばらく過ごした後で解散になったので、帰りに念のため建築現場に寄ることにした。
『ストーリーミッション:CLEAR!』
色々ややこしく書いてますが、下位機器でも上位機器を操作や介入ができるってことです。




