『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』23
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
バイクを横滑りさせながら急ブレーキをかける。このあとまだ4軒残ってる! 忙しすぎる!
今回は、例の建築現場。さっそくデリバリーをしてくれたようで嬉しいけど大変すぎる。
「よぉ、あんたが持ってきてくれたのか、ありがとう」
店員の証明書をキウスさんに見せて、料金を受け取りピザの箱を渡す。
「3箱ですけど、今日はどなたか休みなんですか?」
私がここで見た人の数は4人だ。ピザが1枚足りない。
「あぁ、パルトかな? あいつは別口で派遣された奴だから来たり来なかったりだぞ」
「別の会社の人なんですね」
「工事用の車両は借り物でな、その車両の保守点検がパルトの業務だ。居ないと困るが建築が滞ることはない。……あとまぁ、パルトが居てもピザの数は変わらないかな?」
「そうなんですか?」
「ああ。別口で来てるから、ピザは別のところで食べてるんじゃないか? 一緒に食べたことはないぞ」
「そうなんですね」
「それじゃあ、また注文させてもらうからな!」
「はい! またよろしくお願いします!」
急いでバイクにまたがって、次の依頼先へ進む。次は博物館だ。距離はここから近いものの、大通りから少し外れた場所に建っているので細い道を進まなければならない。
博物館の門を通過し、正面玄関に入る前にバイクを降りて、そのまま受付を通過して、奥の学芸員が過ごす部屋へと進む。ピザの店員である証明書は、ピザを運ぶ限りどんどん入れるのが面白い。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
「「「シーーー!」」」
「ぁ、すいません」
だからと言って、どんな場所でも元気にあいさつするのは違うよね。
「ピザありがとうね。でも、博物館ではお静かに」
「申し訳ありません。こちらご注文のピザです」
証明書を見せ、支払ってもらいピザを渡す。
ふと、目についたのが壁に張られている大きな額縁。長方形で全体的に緑色と茶色で描かれた絵がはまっているけれど、何だろ? 見たことないのに、なぜか見覚えがある。
「あの額縁って何かの絵ですか?」
「ん? あぁ、あれか。知らない人も多いよね。世界地図だよ」
「世界地図!?」
そうか、地図だ。見たことない異世界の地図だけど、地図を表しているって部分だけは感じ取れたのか。
「そう。明るい緑の部分が海で、深い緑と茶色の部分が陸地だね」
土地の形状は、ゲームオリジナルの形をしているけれど、雰囲気としてはヨーロッパの地域を曲げて異世界の土地へと形状したように見える。少なくとも、横に飛び出ているブーツっぽい土地は間違いなくイタリアである。なお、日本は無い。
地図上には文字が書いてあったり、線が引いてあったりするので、観賞用ではなく実用品みたいだ。他にも、地図の上に様々な見知らぬマークが貼ってある。いや、ひとつだけ見知ったマークがあるな。ちょっと覚えておこう。
「地図、初めて見ました」
「君くらいの年齢だとそうだね。政府や大企業、あるいは大学の研究室くらいしか無いんじゃないかな? 図書館でも申請しなければ閲覧できないはず。それも、秘密ではなくて、閲覧する人が少ないから破損しないために保管しているだけだからね」
そういうことか。このまま話が聞きたいけれど、次のデリバリー先が待っている。でも、最後にこれだけ聞こう。
「いろんな種類のマークがあるけど、あれはなんですか?」
「現在地上で人が住んでいる場所のマーク。国旗みたいなものかな?」
~~~~~~
「ただいまー!」
デリバリーを終えて、店の中に入ると昨日の私の状態が再現されていた。
「生地お婆さんが~~~」
そのまま、昨日と同じく倒れこむ茶子。まさかの2日連続で修行ミッションが来るとは……。
元気なのは私だけなので、まずは片付けだ。
ある程度綺麗にしたところで、先輩が復帰。茶子はまだ倒れていたから、地面から椅子に座らせたら少し復帰した。
「世界地図は、私達のストーリー側だよね」
「だな。アカネ側のストーリーには関係ないから、ストーリーミッションが発動しなかったんだろう」
私は移住側の話に関わっていないからね。けど情報を伝えられたのはよかった。
「人が住む街があるってのは大きいな」
「そうだね。インフラがある程度整っていれば、政府への説得の材料になるだろうし」
先輩達がふたりで話を始めた最中に、茶子が起き上がった。
「……パルトさんの話は、わたしたちだよね~~」
まだ疲れてる顔をしてるけど、話に加わりたそうな顔をしている。
「ストーリーミッションはシステムからも何もなかったよ」
「内容的には重要だよね~? なんでミッションなかったんだろう~?」
4人で何故だろうと考えてから、蜜柑先輩がぼそりとつぶやいた。
「パルトが居ることが重要なんじゃないか?」
パルトさんが居ることが重要で、パルトさんが居ない場面ではストーリーミッションが発動しない……ということは?
「尾行しろってことかな?」
「あり得そう~。本人が居ないと尾行もできないからね~」
「じゃあ、今から張り込み……は難しいか。午後に約束がある」
「帰りに一度寄ろうよ~。遅れて来てるかもしれないから~」
茶子の言葉にうなずき、今日はもう一度あの建築現場に行くことが決定した。
先輩達は、図書館で世界地図を見せてもらうように申請するつもりらしい。あわせて、人が住んでいる街を調べるようだ。
4人での話し合いが終わって、先輩達は席を立って図書館へ向かった。私と茶子は約束までまだ時間があるから、地震の発生でズレた通りを全部確認してみることにした。
確認した結果、31と32番通りの境界から外側全ての各境界で、地面がずれていることが判明した。
[アカネ]多分、30と31もズレるよね。
[チャコ]店の建築範囲を考えれば、確実に範囲に入るよね~。
初期設定のお店を立てる範囲に、31番通りから35番通りは除外されていた。となると、今は無事な31番通りも、何らかの影響を受けるのは間違いなさそうだ。
境界を確認したので、一度お店にもどって、リーマトさんの家にご招待されるための服装に着替えることにした。社長さんの家に招待客として行くんだから、服にもこだわっていきたい!
「大人っぽい服がいいのかな?」
「学生っぽい方がいいかも~。ディナーじゃなくてランチだからね~」
ランチだから気軽な感じの方がいいのかな?
そうなると――赤いストライプ……薄い赤のギンガムチェックのシャツが爽やかかな?
「ストライプのがすっきり見えるかな~?」
着比べて茶子に選んでもらったので、上は赤いストライプのブラウス。下は、濃い緑のキュロットスカート。上下揃って逆トマトコーデだ。この街の人のファッションがわかってきた気がする。
靴はサンダルだと失礼な気がするので、パンツの緑よりもっと濃いリ色のスリッポン。これで学生らしさがあるかな?
制服っぽくリボンも考えたけど、留め具がピザのループタイにしておいた。
茶子は……ジャボタイに薄黄色のブラウスで、首元にはピザのカメオ。濃い茶色のすねまで長さのあるフレアスカート。靴は明るい茶色のメリージェーン。
「……学生ぽくって言ってなかった?」
「大学生っぽくない~?」
「うーん、そうかも?」
学生っぽくってイメージから、高校生ってイメージしてたけど、そっちかぁ。
着ていく服も決まったことだし、多少時間は早いけれどリーマトさんの家に向かう。
移動途中で歩いているマーレさんを見かけたので、キックボードから降りてストレージに収納し、走って駆け寄った。この場所から歩いて移動すればちょうどいい時間かな?
世界地図がないだけで、住んでいる浮遊都市の上層の地図は簡単に入手できます。中層と下層の地図はあまり普及していませんが、世界地図ほど入手困難ではありません。




