『テラパレット』02
真っ暗な視界のまま、1分ほど過ごした後、『リスポーン地点で復活しますか?』のアナウンス。もちろん復活する。
目が覚めると、最初に居た地点で復活した。何も持っていないから、バケツは海岸で落としたのだろう。みんながいる場所はすぐ近くだから、走って合流する。
「ただいまー、なんか死んだみたい」
拠点に戻ると、蒼奈と茶子が迎えてくれた。銀華も突然倒れて消えたみたい。バケツは回収してくれたのか、近くに水が入った状態で置いてある。
「おかえり。アカネも倒れたとなると、理由はダメージと空腹の差かもね」
「ん? どういうこと?」
「ギンガは僕と同じ作業だったから、ダメージを受ける原因が何もない。それでもHPが減ったってことは、アカネもギンガも空腹でSP使い切って、SPが0の継続ダメージで死んだんだと思う。でも、僕もチャコもまだ空腹ゲージが3割ほど残ってる。多分だけど、最初に素手で木を削ってHPを消費したのが原因じゃないかな?」
「HPの自動回復に、空腹ゲージが消費されたってこと?」
「だと思う」
「じゃあ、食事はしっかり食べないとだめだね」
「うん。アイテムドロップ以外に何か変更ある? ステータスとか」
そう言われて、ステータスの確認作業をする。あんまり変化ないな。
「うーん。HPは全快してる。MPは消費していないからわからない。SPも全快。空腹は5割。何か他に……あ、経験値が0になってる!」
どれだけ経験値があったか覚えてないけど、レベル上がってからも作業をしているから、いくつかは入っているはずだ。
「レベルは2のまま?」
「うん。レベル2に上がったばかりの状態になってるっぽい」
「レベルダウン無し、経験値だけのデスペナか。空腹だから死んだ方が手っ取り早いみたいな行動はやらないほうがいいね」
「アイテムも落としちゃうしね」
「ただいまー! いきなり死んだー!」
「おかえりー、今話してたんだけど……」
銀華が帰ってきたところで、死亡原因について情報を全員で共有する。HPが減ったらおなかが減る。おなかが減ったらHPが減る。だから食事は大切。
「パン作りは止めたらだめだね。アチーブ達成のためじゃなくて、攻略に関わる」
「意外とおいしいからね~。作るのは賛成~」
試しで作られたパンを、皆で食べながら今後の相談をする。20本の小麦から、パンが5つできた。4本でパン1つだから、畑に植えたあの区画1つにつきパンが1つできる計算だ。
パンは1つで空腹が3割回復する。大きさもさほど大きくないから、すぐ食べられて手軽だ。
「でも、何十個も作っても持ち運べないぞ?」
「将来的に、収納袋ってアイテムで数や重さを無視したアイテムが作れるらしい」
「いいね~、半月型にしようよ~」
「それだ! 猫のポケットはやっぱり半月型だよね!」
相談からどんどん話題がそれて皆と楽しくお話してるけど、のんびりしてて楽しい。どんな食べ物が作れるのか、服はどう作るのかと話をしていると、空がかなり暗くなってきた。
「あのね、もう間に合わないから目をそらしてたんだけど」
蒼奈が、会話の流れを切って話を始めた。
「夜はおそらく、ゴブリンかゾンビが来るよ?」
「「「……」」」
「剣や鎧はレベルが足りないからレシピ解放されてないし、家は半日で建てられないのがわかったから、急いでも無理。襲撃はあるだろうと思い、石の斧は全員分作ったから、これで応戦しようね」
「「「……」」」
「サーバーは稼働しっぱなしだから、ログアウトして20分後くらいにログインしなおせば夜は回避できると思うけど、どうする?」
「……戦う!」
ゲームなんだから、逃げてばかりじゃだめでしょ!
「ゴブリンやゾンビくらい、やっつけてやる!」
「今なら失うものもないから~、やられるなら今だよね~」
銀華もやる気になってる! 茶子のやる気は……やられる前提みたいだけど、戦う気ではあるみたいだ。
「了解。じゃあ最初に焚き火を何ヶ所か設置しようか。30分間の持続だから、夜の間は持つはず」
私が石を掘っている間に、木を切っていたようで、木材がいくつかある。それをつかって、拠点周辺に焚き火を6か所に設置した。中心は石窯。石窯は周囲を明るくする性質があるから、ここに4人集まって朝まで待機だ。
「HPポーションとかあるといいのにね」
「赤ハーブは~、お花畑の近くにあるみたい~」
この周辺では、お花畑は見たことないから、遠出しないとHPポーションは作れないのか。
「眠って夜をスキップとかはないのか?」
「ログインしている人が全員寝ればすぐ朝になるけど、ベッドが必要」
今の私達には無理な話だ。ベッドを作るための素材が木材しか揃っていない。結局、私たちは車座になって雑談しながら周囲の警戒をすることにした。4人が向き合っていれば、なんとかなるだろうってことで。
「あ、来たよ~」
茶子が蒼奈の背中を指さす。皆がそっちを見ると、緑色の皮膚で小柄な魔物のゴブリンが、3体こっちに向かってきていた。私たち4人とも、石の斧を持って立ち上がる。
「多いね~」
「うん。あと名前見えてる! 2体が普通のゴブリンで、1体がゴブリンシーフだ」
棍棒を持ったゴブリンが2体と、ナイフを持ったゴブリンが1体。ゴブリンシーフの方が格上だよね。ゴブリンの身長は130センチ程度かな? 薄っぺらい汚れた服を着ている。
「シーフにふたりのがいいか!?」
「いや。ノーマルにふたりがかりで早めに倒してから加勢に入ろう。シーフの人は防御に専念」
「じゃあ、ギンガがシーフもらうよ!」
そういうと銀華は側面からシーフに接近するために右へ回り込んでいった。
「じゃあ、私はノーマル1体相手するよ! アオナとチャコで1体ね!」
「了解」
「はーい」
銀華と逆側の左側から回り込んで、ゴブリンに接近する。
攻撃範囲に入ると、ゴブリンが棍棒を振り下ろしてきたので、一度止まってやり過ごす。
斧を両手で持って構えながら攻撃できるタイミングをうかがう。ゴブリンは、振り下ろした棍棒を持ち上げて、内から外へ振り払うように横攻撃してきた。
それも何とかかわし、ゴブリンの胴体ががら空きになったので、斧を前へ突き出し、手首のスナップで相手の胸にたたきつけた。この石の斧、切れ味もさほどなさそうだし、振りかぶって切るよりハンマーのようにして叩きつけた方がいいと思う。近寄りすぎるのが怖いってのはあるけれど。
威力はあまり無いが、ダメージは入った。その証拠に、胸の部分が黄色く色づいている。
さすがに血が流れる描写をするようなゲームではない。負傷した場所と、それによって使えなくなる部位の色が全面的に変更される。軽傷は黄色、重傷は赤色だ。年齢制限が低いゲームでは、この形式がよく見られる。
ゴブリンはダメージが入って後ろに一歩さがった。それでも、横に振った棍棒を持ち上げ、また振り下ろしてくる。
「んに゛ゃ!」
思ったより動作が早かったから、左腕に当たって、衝撃で左手から斧が離れた。けど、右手はまだ握っているから、片手でゴブリンに振るってみる。狙いなんかつけられない。どこでもいいから当てる!
ガキィ!
止められた! こっちの横薙ぎ攻撃が、相手が振り下ろした後に持ち上げた棍棒に、偶然当たってしまった。
ただ、相手も武器を攻撃されて構えるバランスが崩れたようで、一歩下がって仕切り直している。
HPは2割減。左手は、動く。しっかり斧を両手で持つ。今度はこっちから攻撃だ!
踏み込んで、突きの態勢と手首の動きだけで当てる! 相手は右に逃げたけれど、斧を振りかぶった攻撃じゃないから軌道修正は出来る!
ザクッ!
当たった感触がした。ゴブリンの左肩がダメージを受けた赤い表示になり、その赤い表示が広がって左肩から左の指先まで真っ赤になった。かなりのダメージでは?
そう思って油断してしまい、ゴブリンが横薙ぎに振ってきた棍棒を、よけられずに胸に受けてしまった!
「ぐっ」
痛みはないけど……残りHPを半分以上持っていかれた! 後ろに下がって、体勢を整え――いや、攻撃だ!
「にゃぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!」
今回は、気合を入れて思いっきり振りかぶって攻撃! ゴブリンも危険と思ったのか防御態勢に入った。けど、狙いはその防御態勢!
私の攻撃が防がれるのと、後ろから茶子がゴブリンの頭を斧で叩いたのが同時だった! そのまま、ゴブリンは倒れ、赤い光の粒子となって消えていった。
茶子がもう1体のゴブリンを倒した後、こっちに来たのが見えたから、気が付かれないように声出しの全力で攻撃をした。思った通りゴブリンは立ち止まって防御態勢に入ったので、茶子は頭部への攻撃が狙いやすかったんじゃないかな?
「シーフは!?」
銀華の方を見ると、すでに銀華は倒されたのか居ない。今は蒼奈が応戦している。
慌ててそちらに走って向かうが、SPの減りが速い。HPの自動回復に加えて走っているため、消費が加速してるからだ。それでも、足を緩める選択肢はない!
蒼奈が倒れる前にたどり着き、斧を構え攻撃を仕掛ける。この位置なら相手は後ろを向いているからいける!
そう思って振り下ろしたら、一歩前に出て避けられてしまった。構えなおし、今度は突きのように斧を真っすぐ前に向けて叩きつける――当たった!
当たったけれど、それと同時にゴブリンシーフの攻撃が蒼奈に当たって、蒼奈はそのまま倒れてしまう。間に合わなかったー。
わずかな時間差で、茶子の攻撃がゴブリンシーフに入る。見れば、ゴブリンシーフの両腕は黄色で、脇腹あたりは赤い。
あと少し! というところで、ゴブリンシーフは近くにあったバケツを手に持って、逃走した。
さすがに追いかけるほどHPもSPも無い。逃げられたかぁ。
しばらくして、蒼奈と銀華がリスポーンして帰ってきた。
「シーフ強かった!」
笑顔で銀華が感想を報告してきた。うん、負けても笑顔ってのは強いな。
「バケツ持って行ったんだね、さすがシーフ」
蒼奈も妙なところに関心して、盗まれたものを確認する。被害としてはバケツ1つで、あとはふたりの経験値が消えたこと。まだ序盤だから、大きな被害ってわけじゃない。とはいえ、悔しいのは悔しい。
「撤退させても盗んでいくんだから、全滅してたらもっと盗まれてたかも」
「家の外に置きっぱなしだと盗まれそうだ」
「ありそう~。室内に片づけておかないと~」
「柵とか無いの?」
「ある。でも根本的な解決にならない」
対策を話し合った結果、とにかく家が必要ってことは決まった。夜が明けたら、小麦栽培と同時進行で、木材を集めて家を建てることに集中する。
「あ、やばい」
銀華が指を差す方向を見ると……ゴブリン3体と、バケツを持ったゴブリンシーフ1体。シーフが笑った気がするのは気のせいか。
当然、持てる物を持って逃げた。相手も追いかけてきたけど、とにかく逃げた。残念ながら私はまだ負傷していたのでSP消費も早く、すぐに走れなくなる! 荷物を蒼奈に託した後、追いついたゴブリンの一撃でリスポーンした。
最終的に、銀華だけ逃げ切った。
被害は、石の斧×2、石のツルハシ×1、木材×2、小麦×16本、パン×1。
経験値、全員ゼロ。
ゴブリン、許さん。
茜は、気合を入れたり驚くと猫語が発症します。
小学2年までは猫語マスター、中学1年までは猫語ユーザー、現在は猫語ビギナーです。