『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』19
ミテラさんの病室は4人部屋の窓際で、背の低い棚には赤いコップと、本が3冊、黄色い花が生けてある小さな花瓶があった。
首は動かせないけれど、ベッドの背中が起き上がれるようになっているから飲食にはあまり不便はないらしいため、お土産で持ってきた果物のピザゼリーも食べられそうだ。
薄焼きのピザ生地の上に赤いゼリーが乗っている、一般的なお菓子らしい。
午前に来ていたマードレ・ピッツァの面々は、本を2冊持ってきたそうだ。さすがに友達だけあって、ミテラさんの欲しいものがよくわかってるみたい。最初に持ち込んだ1冊は早々に読み切ったらしい。
1時間程度お話してから、お暇することにした。病院を出てお店に戻る途中で、
「あの人、スインさんじゃないかな?」
という黄里先輩の指摘で道路の反対側を見る。スインさんが手にお花を持って歩いてるようだ。
「わかった!」
「あたしも~」
蜜柑先輩と茶子が何か気が付いたようで、スインさんから私の身を隠すように引っ張り、4人とも隠れた。
スインさんを眺めていると、そのまま道路を渡って病院へと向かう。
「あ、ミテラさんのお見舞い?」
「多分ね。あの黄色い花もスインさんが持ってきたと考えると――通ってるな」
これは楽しみな展開になってきた! ただお見舞いに来ているのか、何らかの進展があるのか……。
「もし恋人になったら、完全に吊り橋効果だよね? 3人居たらしいけど」
「アカネも居たのにね~」
「怪我1つ負わない頑丈なガキより、か弱い大人の女性のがモテるんじゃないのか?」
「……いいんですよ、別に。むしろ! 恋のキューピッドなんですよ、私は!」
私が対象外だったとか、どうでもいいのです。ミテラさんは素敵な人だし、スインさんと一緒になったらいいなーとも思うので気にしていません。
「負けヒロインから天使に昇格か。確かに飛んで助けに行ったからな」
「負けてません。最初から天使です! 猫天使です!」
「猫天使……そうか、すまんな」
「はい!」
蜜柑先輩も納得してくれて良かった。
「それで~、病室戻ります~?」
「いや、さすがに可哀想かな」
「ばれないように情報集めてきますよ~?」
「どうなってんだ今年の1年は」
「ミカンも毎日学校に来たらわかるよ、慣れるから」
蜜柑先輩はあんまり学校に来ないから、1年との繋がりが薄いからね。後輩との交流慣れもしていないんだろうね。
スインさんも居なくなったし、通りに戻ってお店に戻る道を進む。
[アカネ]シナリオの話振ってみる?
[チャコ]今なら何もないしね~
「キリ先輩?」
「ん、どうしたの?」
「先輩たちって、私たちとシナリオ分岐してますか?」
「どうしてそう思ったの?」
前を歩く先輩たちの、歩くペースは変わらない。黄里先輩はちらっとこっちを見てそう答えた。
「事故の時とか、その後の聞き取り調査とか、気になるところはいくつかあるんですけど、確信したのは今日ですね」
「今日? 何かあった?」
「ミッションクリアしたんですよ~」
「今朝の修道女さんの?」
「ううん。アンダーピールのです」
このゲームは、相手がどんなシナリオをクリアしたのか詳細はわからないけれど、アチーブでミッションのクリア数をカウントする関係上、仲間内でのミッションクリアの総計はそれぞれが等しい。もし先輩たちが別のストーリーに分岐しているのなら、ミッションのクリアするタイミングは私たちと違ってるのではないか?
そう予想を立てて、護衛艦の事件後にミッションクリア数を定期的に確認することにした。
アンダーピールでのストーリーミッションをクリアしたタイミングは、私と茶子はメイドさんと別れた時だった。しかし、アンダーピールで最後のデリバリーが完了した直後、システム側からなにもアナウンスが無かったのにミッションクリア数が増えていた。
バトルをした様子もないし、特別なにかイベントがあった様子もない。先輩たちが何かミッションをクリアしたと教えてもくれなかった。
となると、私達には伝えられないストーリーミッションが進行しているのではないか。
「先輩たちの会話もだけど~、これで確定したんですよ~」
「なるほどね。確かにそれはわかりやすい判断方法だ」
「町中のミッションならなんとでもいえるけど、鉄道移動だけの変化がない状況で増えてたらおかしいわな」
黄里先輩は前を向いたまま、蜜柑先輩はこっちを見て笑いながら答えた。
「そんで、うちらの分岐が何かわかったのかな?」
「いえ、ハッキリはわからないです。まだ断片情報しかなくて」
「とりあえず、話の続きはお店に戻ってからにしようか?」
黄里先輩の提案に、みんなキックボードを取り出して移動……あれ? 先輩たちはキックボードじゃなくてスケートボードのような、浮遊する板だ。
「先輩たちの乗り物って違うんですね」
「キックボードと違って、最高速が100キロまで出せるんだよ。乗るのにコツが必要だけどね」
「その速度、危なくないですか?」
「さすがに、そこまで速度出すと警察に捕まるから出さないけどな。ま、いざって時に速度が出るのはいいことじゃないかってね。ふたりで買い替えたのさ」
キックボードも50キロまで出せるから満足してたけど、スピードが必要な時も確かにあるかもしれないね。
「アカネはスケートボード乗れるの~?」
「ううん。無理」
「じゃあ、だめだね~、あたしといっしょ~」
うん。最初から検討にも入らないんだよね。仕方がないのであきらめるしかない。他の手段があればそれにしよう。
そのまま揃ってお店に向かい、到着後は休憩室の椅子に座ってそれぞれ話を再開した。
「予想では、船の固定金具を外したグループに所属していること。聞いた話では、ピザ以外の食事を取るグループであることですね」
「違うのは、アームを外したグループかな~。地震のグループではないと思うけどわからない~」
「まって、地震って?」
地震については知らなかったようなので、下のプレートの話と合わせて今朝起こった出来事を話す。
「なるほど。地震については正直よくわからないな」
「一応、うちらの組織の話をしておこう。とはいえ、その組織でもふたつの派閥にわかれているんだけどな」
先輩たちが所属している組織は『異他飯委員会』と言うらしい。基本的な方針としてはピザとは異なる他の食べ物も食べて生活したい組織のようだ。
そのためには、地上で生活し様々な作物を育てることが必要となってくる。
現在の浮遊都市では土地も限られており、農作物も多くの種類を育てられない。結果、主食をピザに特化した生産にすることで、生活に必要な食料を確保してる。嗜好品としての果物は生産可能だが、主食となるとやはり限界があるようだ。
そのための手段として派閥がふたつに分かれている。
ひとつは、希望者だけで浮遊都市を離れて、この都市と決別する、決別派
もうひとつが、この浮遊都市ごと地上に下ろし、この都市を基盤として周辺の土地で農作物を作る、共生派
護衛艦の固定金具を外す方針は、双方の派閥の計画でも共通している。
決別派は、希望者を護衛艦に乗せて地上へ輸送する計画。
共生派は、護衛艦を浮遊都市から切り離すことで、飛行ユニットの補助エンジンとしての機能接続を解消し、徐々に地上へ浮遊都市が下降するように誘導する計画。現在の浮遊都市は護衛艦による飛行ユニットの補助が無くても航行可能だが、40番通りができる頃には補助エンジンが無ければ航行は不能になるとのこと。
「けっこうな強硬手段って感じだけど、話し合いはできないの?」
「すでに何年も交渉はしているらしい。それに同調する政治団体もあるけど少数政党の野党でね。その政党が護衛艦を利用して降下する法案を出しているけどずっと否決され続けているから、正当な手段では地上へ降りれないって考える人が多数になっているんだよ」
「それに、当初は決別派が主流だったんだけど、人数が多くなった今は共生派が多くなってね。そうなると法案を作る前の段階でまとまらずに複数の法案を提出するんだけど、似たようなものだとして審議でもまとめて否決されてるんだ」
「それで強硬手段なんですね~」
「そういうこと。現状では護衛艦の固定金具を解除する目的が一致しているから、各自がまとまって行動しているんだけど、これからどうするのかはまだ上層部が話し合いの真っ最中かな」
「バイクとかの飛行ユニットで降下するわけにはいかないんですか?」
「飛行ユニットは、法律上では政府所有の装備で、普通なら付けられないんだよね」
「今回、うちらのバイクに飛行ユニットが付いたのも政府関係の会社の要請ってことで許されただけじゃないか? 一般的には飛行ユニットは多くないだろ」
町中を飛行することが不便ってだけじゃなくて、許可の問題もあって空を飛ぶ車やバイクが少なかったのか。
そう考えると、少数しか乗れないバイクなどで地上に行くより、何百人乗せても問題なく移動できる護衛艦で地上に向かうのが手っ取り早いのか。
「それで~、先輩たちはどっちの派閥ですか~?」
「それがだな~、どっちの意見もわかるし、情報が足りないから今は保留になってるんだ」
「一番わからないのは、地上の様子だね。世界地図をさがしてるんだけど、見つからなくて」
「なぜ空を飛ぶ必要があるのか。農業が出来るほど地上に土地はあるのか。正直わからないことだらけだ」
確かにそうだ。当たり前のように空中に浮かぶ都市で生活しているけれど、そもそもなぜこんな事態になっているのかがわかっていない。アンダーピールにいる間、ずっと地上を見ることができたけど、どの時間帯でも海しか見ることができなかった。遠くに陸地がある様子はなかった。
「地上に向かうって意見が出るくらいだから、生存できそうな陸地はあるんだろうね。ただ、それがこの都市を降ろしても大丈夫な状況なのか判断できない」
「話によると、近いうちに陸地の上空に向かうって噂があってな。だからこそ強硬手段に出て陸地へ行きたい人が中心となって活動し始めたんだ」
「でも、まだ地上へ降りるのも先の話だから、離脱の可能性も含めてこっちのシナリオへ進んでみることにしてね。一応は秘密裏に進んでいる計画だから、私たちのシナリオに分岐していないふたりには秘密にしようってことになってたんだ」
そういうことだったのか。おそらく、シナリオを2方面から進めることで、物語全体を多角的に把握してみようって考えなんだろう。
「それにしても、思ってたより早くばれたなぁ」
「チャコちゃんが居る時点で、遅かれ早かれこうなるとは思ってましたけどね」
「そんなことないですよ~」
「ううん、チャコはすごいよー」
蒼奈とは別方向で頭がいいんだよなぁ。探偵とかが似合いそうなイメージ。
ジリリリリリリ!
電話だ。休憩室からお店側に周り、電話に出る。
「はい! ソレッレ・ピッツァです! はい。はい。少々お待ちください」
アカネ:チャコ、リーマトさんからのお礼だけど、日時っていつでもいいよね?
チャコ:いいよ~。
「お待たせしました、いつでも構いません。はい。明日ですね。はい、よろしくお願いします」
ミテラさんはお手洗いに行けるくらいには体が動かせます。首を固定しているので、本を読むための姿勢は苦しそうですが、他にやることもありません。




