『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』13
そこからはもう無意識に体が動いた。ちょうど目の前にはデリバリー用のバイクがある。使い慣れた自分の店のバイクに乗り込み、エンジンを起動。アクセル全開で走り出す。
キリ:アカネ! チャコ! 無事か!?
チャコ:あたしは大丈夫! ミテラさんとスインさんが落ちる!
ミカン:落ちる?
チャコ:外のホームに居たから!
キリ:えええ! 何で外に!?
チャコ:アカネが追いかけてる!
「ミテラ!!!」
後方でマーレさんが叫んだのが聞こえたけど、振り返るような余裕はない。
斜めに傾いているホームから先には海が見える。このまま落下したら海に叩きつけられてしまう。NPCのふたりが落ちたらもう復帰は望めない。
ミテラさんとスインさんは、落ちる速度を抑えられないようで、どんどん転がっている。それでも、スインさんは何とかミテラさんの近くまで寄れるように位置を調節しているようで、ホームの地面を蹴って近づいている。
ふたりはそのまま転がり落ちて、ホームの端にある柵まで到達すると、ミテラさんの体が柵に当たり大きく外へ弾む。そこへめがけて、スインさんは柵から弾む勢いでミテラさんを抱え込む。けれど、下は500メートル離れた海しか無い。
一瞬、スインさんと目が合ったような気がした。
私が向かってるのが見えたんだろう。ということは、私が間に合わないとどうしようもないってことだ。
2秒遅れて、ホームの端を飛び出す。
落下の勢いと、バイクのエンジン噴射を使うが――速度が落ちた!?
「墜落防止のやつだ!」
バイクの飛行には墜落防止のため、落下中に飛行状態ではないと自動で飛行状態へ切り替わる。そして、飛行状態では墜落防止のため、上下への移動は緩やかに動くよう設計されている。
飛行ボタンを押して、バイクに切り替える。念のためボタンはバイク側に押しっぱなしにする。
4秒後、アクセル全開のおかげで、側面に追いついた。
「乗り込んで!」
スインさんは、ミテラさんと離れないようにランヤードでお互いを繋いでいた。あとは上手く乗ってもらうだけ。
時間もおそらくあと3秒もないので、無茶だけど体当たりする勢いで横から接触。バコンと音が鳴ってぶつかったけれど、落下速度は同じだったから大怪我させることなく、ふたりを回収。
飛行ボタンに切り替える。飛行ボタンが上手いこと慣性を吸収してくれれば……
海面にぶつかる前に、速度が減速する。思ったような衝撃も無く、海へ落ちる直前にバイクが安定飛行に移った。このバイク、何か慣性をどうにかする仕組みがありそうだ。
「――ありがとう、助かった」
服に血が染み付いた状態でスインさんがお礼を伝えてくる。
「ミテラさんは?」
バイクを上昇させる。早く戻りたいけれど、速度が出ないのは仕方がない。
「気絶している。おそらく、柵に当たったときだろう」
ミテラさんも怪我をしているようだ。うう、本当に急ぎたいのに全然上昇してくれない。
キリ:アカネちゃん、無事?
アカネ:私は無事です。ミテラさんとスインさんも助けました。
ミカン:助けたのか、よくやった!
チャコ:さすが~!
アカネ:ふたり怪我してるのに、バイクが全然上昇しなくて。
キリ:了解、ちょっとまってて。……海洋調査用のゴンドラエレベーターを下してもらえるみたい。
「スインさん、ゴンドラエレベーターってわかります?」
「それなら、あの辺りに降りるはず」
スインさんの指さす方へ進路を取ると、かなり上空にゴンドラが下りてきているのが見えた。
近寄るとバイク4台は入りそうなゴンドラが結構な速度で上から降りてきていた。
ゴンドラに乗っている人が見えたので、手を振ると向こうも振り返してくれた。ゴンドラが同じ高さになってから近寄ると、扉を開けてくれたので中に入り込む。
「バイクに乗っていた方が揺れは少ないですね」
との言葉に、ミテラさんとスインさんはバイクに乗ってもらった状態で上へ移動した。
ゴンドラが上昇するにつれて、先ほどまで居た場所の姿がハッキリわかった。
「……戦艦?」
「知ってるんですか?」
ゴンドラに乗っていた男性から声を掛けられる。知ってたらダメな知識だったかな?
「えっと、どこかの写真で見たことあって」
「そうでしたか。あまり知られていないのですが、アンダーピールには護衛艦、過去には戦艦と呼ばれてましたが、それらが配備されています。有事の際には切り離され独自に空中を航行することができます」
空中を飛ぶ戦艦! 護衛艦か。飛んでる姿を見たい!
「なるほどー。聞いてよかったんですか?」
「ええ。積極的に広報をしていないだけで秘匿はされていません」
「そうですか……なんでこうなったんですか?」
護衛艦の船首が、斜め下に向けて下がっている。どれだけ物が落ちたのかはわからないけど、大事故だよね。
「固定金属が外されたうえで、T字アームも外されないとあの状況にはならないですね。1、2回の操作ミスでは起きない事態です。考えたくはないですが、人為的にされたのは間違いないかと」
男性は、護衛艦を真剣な顔をして見つめている。護衛艦は元に戻るために徐々に上へと上がっている。
ゴンドラは一番上まで戻り、横移動した後に鉄道のレールへ合流すると、そのまま進んでトンネルをくぐり、私たちが乗っていた鉄道の後ろへと到着した。
「ミテラ!」
「アカネ!」
マーレさんが駆け寄ってきて、ミテラさんの傍にやってきた。バイクから下ろし、ゆっくり寝かせて体を確認している。スインさんにも問診をして、右腕を確認している。
茶子に抱き着かれたままの私に、マーレさんは痛むところがないか問診したけど、特にないと答えた。
マーレさんはその後、厨房に向かい布と麺棒を持って来てミテラさんの左足に巻く。スインさんの右腕も布と麺棒を巻いて固める。
スインさんとゴンドラの男性に背中を向けるように指示をした後、マーレさんはミテラさんの服をまくって中を確認する。
「ミテラは頭に外傷は無いけど、首を強く振られたかも。足の骨折は見てわかるほど酷いですが、体は打撲の跡が確認できるものの折れてるかはわからない。これ以上は医務室での診察がいいですね。担架を作りましょう」
本物の鉄道ではないから、担架は常備されていない。そのため、即席担架を作る必要がある。
マーレさんが寝台車両から毛布を運んできた。長い棒が無かったからどうするのかと思ったけど、ミテラさんを毛布の中央に寝かせ、毛布を左右から丸めるだけで即席担架は作れるらしい。そのかわり通常の担架と比べて運搬する人数が多く必要になるけど、4人居ればなんとかなるそうだ。
「そういえば、バイクに乗せるとき体当たり気味に乗せちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」
時間が無かったので穏便な手段が取れなかったけど、ふたりにぶつかりに行ったのは確かだった。我ながら危ない真似をしてしまった。
「後で医師に見てもらうけど、大丈夫。ミテラさんも当たらないようにしたからね。それより、来てくれて助かった。君が来てくれなければ死んでいたよ、ありがとう」
「いえ、とっさに体が動いただけですから」
今はやることもないので、茶子にさっき聞いた護衛艦の話をする。茶子は興味をひかれたのか、私の手を握ったまま護衛艦を見に行く。ふたりで、ホームが実は滑走路なんだと確認ながら見るのは面白かった。安全装置やアームの場所も、見上げると確認できた。
そうして話しているうちに、護衛艦が最初の状態の位置に戻った。現在、飛行状態で稼働しているそうなので、安心して医務室へ搬送できる。
移動している最中に向こうから丈夫な担架がやってきたので、そちらへ寝かせて搬送をお願いした。私も医務室に行った方がいいとのことで向かったら、かなりの人が医務室近辺に居て大混乱……ではないな。整然と並んでいる。
それでもミテラさんは最優先で診てもらい、次がスインさんで、その次に私が診てもらった。今並んでいる人は、既に怪我の度合を確認されているようで、優先順位が決まって並んでいるらしい。その上で私たちが優先された。
私はなにも問題なく医務室を出る。どこも痛くないからね。外で待ってた茶子と合流し、女性用宿泊棟に向かった。途中でマーレさんが、マドラさんとメエルさんを引き連れて医務室に向かう姿が見えた。
「アカネちゃん、怪我はなかった?」
急いでるだろうに、マーレさんは立ち止まって私の様子を聞いてきた。私も医務室に連れられたのは見ていたからだろう。
「はい。私は大丈夫でした」
「よかった。後でまた改めてお礼するわね」
「いえ。それよりミテラさんの所へ」
「うん、ごめんね」
そういって3人とも移動する。マドラさんとメエルさんはミテラさんが怪我をしたことしか聞いてないかもね。大怪我だとは思っていなさそうな感じだった。
そのまま私たちの部屋へ戻り、先輩たちと合流した。
防災訓練で毛布を使った担架の講習を受けたことがありますが、なんとか運べるものです。6人居ると楽になりますが4人は大変です。ミテラがさほど重くないのでアカネたちでも何とかなったのでしょう。




