『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』10
ゴンドラを降りて、細い通路を歩く。通路といっても、天井からつり下がっている通路で、真下は海だ。落ちたら無事では済まない。私たちはゲーム内のプレイヤーだからいいけど、ミテラさんたちが落ちたら復活はしない。NPCでAIのキャラクターだとしても、それは悲しい。
周辺を見ると、金属板がワイヤーのようなものに吊り下げられて長距離を移動していたり、金属アームが何かを掴んで上に運んでいる様子が見える。この動いている物が36番通りの建築関係なんだろな。
食材の入ったコンテナは、通路とは別にワイヤーのロープで運搬されている。短時間なら飛行可能らしいけど、長時間となると別の手段で運搬するそうだ。
ランヤードが擦れる音を聞きながら進んだ先では、また新たなゴンドラが見えてきた。四角いゴンドラで、細長くて、横幅が15メートル程のゴンドラがが3つ連結している。上を見るとアンダーピールの天井に掛け渡っている金属の長い棒に、ゴンドラから伸びた車輪やアームが引っ掛かっている。
「これはアンダーピール内の鉄道です。移動時は多少揺れますが、停止時は天井のフレームと鉄道を固定するので、揺れることはありません」
鉄道のひとつに入ると、バイクが6台並んでいた。
「こちらに持ってきたバイクを置いてください。ここにあるバイクは工事用車両として使われている物なのでピザデリバリーに最適化されていませんが、車両の性能や耐久性は限りなく近い能力を保有しています。皆さんのバイクからデータコピーをさせていただいて調整することで、おおよそ普段通りに使えるようになります」
バイクに工事用とかピザのデリバリー用とか区別があるとは思わなかったけど、何らかの設定があるんだろう。
「これならピザのデリバリーに耐えられるかもしれないですね」
「ピザデリバリーバイクに近い性能のバイクを、6台も準備できるとは信じられないな」
メエルさんとマーレさんがバイクを見て驚いている。もちろん、ミテラさんもマドラさんも同様だ。
そんな反応に私たちは逆に驚く。なんで驚いているの?
ミカン:わからない。どう見ても普通のバイクだろう。
チャコ:ピザのデリバリー用のバイクだよね~?
「あんまり知らないんですけど、デリバリー用のバイクってそんなにすごいんですか?」
とりあえず、わからないことは聞いてみよう。私の質問にすぐ隣のマーレさんがこちらを振り返った。
「アカネちゃんはあんまり乗り物に興味が無いのかな? そうだね。ピザはこの都市の生命線とも言える食べ物だから、それを運ぶバイクはどんな状況でも走破できる性能を持ってるんだ。どれだけ重いピザだろうと、ピザの名が付くものなら何でも運べるんだよ」
ミテラさんも私の前に移動して、バイクを手で指し示す。
「ピザを運ぶことにすべてをかけたバイク。それが私たちの乗るバイクなの。ピザを作ることも大切だけど、誰かに確実に届けることも大切なことなんです」
バイクを見る彼女たちは、すごく誇らしげな様子だ。なんか、子どものころからのヒーローを見ている雰囲気がある。
思いの強さは何となくしかわからないけど、すごいバイクだというのはわかった。
この間に、アエラさんは食材コンテナのコントローラーを使い、バイクが駐車してある車両の一番奥に設置した。準備が着々と進んでいる。
コンテナ設置後、アエラさんを先頭に鉄道の通路を移動して真ん中の車両へ進む。
「こちらの車両が、ピザを作っていただく車両です。薪を保管するスペースの問題で薪窯が使えないため、ガスバーナーを使うことで薪窯のような窯を2基準備することができました。窯の内部温度はやや低い温度になっておりますので、ピザの焼成時間は普段と違うため、調節をお願いします」
他にも、この車両にはピザを作る道具がいくつも並んでいるので、作るのに不自由はしないだろう。
「最後の車両が、寝泊りしていただく車両です。内部から鍵が掛けられるので安心して使っていただけます。私も、こちらを使わせていただくことになります」
今入った車両は、洗面台、トイレ、シャワー、洗濯機が入口手前に固められていて、奥は2段ベッドが10個並び、さらに奥は運転席となっている。
「ベッド狭い!」
身長の高い蜜柑先輩にはかなり厳しい状況だ。奥行きが、真っすぐ寝たらギリギリ足が出っ張らない程度には狭い。ベッドといっても、シープのカプセルのように、全面が四角い空間で区切られているので、隣の人と会話することもできない。その代わり、最低限のプライバシーは保たれている。
ベッドの上は収納スペースのようで、持ってきた衣服はこの中に入れればいい。私たちはストレージがあるから、背負ってきた袋は偽装なんだけどね。
ベッドは、一番下が使い勝手が良さそうなので、業務進行のアエラさんと、各リーダーの黄里先輩とミテラさん。後は背の高い蜜柑先輩とメエルさんのふたり。
上段が私、茶子、マドラさん、マーレさんと、比較的背が低い組。背が低いといっても、190センチ越えの蜜柑先輩と、170センチ越えの黄里先輩とメエルさんと比べてだから、実際は平均近くはあると信じたい。
「それでは、さっそくピザ作りを始めていただきます。この周辺では25個所のデリバリーを想定してます。それが終わりましたら、鉄道を動かして次のステーションに移動します」
ということで、さっそくピザ作り開始。最初の1枚は窯のチェックをするために何枚かお試しで焼く。火力が弱いものの、3~4分ほど焼けばちょうどいい焼け具合になったので、注意さえすれば問題なく焼ける。焦げたピザはみんなの昼食になりました。
デリバリーの数も注文の枚数も非常に多いけれど、注文内容は全員がマルゲリータを希望している。生まれてから何度も食べてる故郷の味だから、とにかく食べたいそうだ。
距離の遠い注文を優先に、次々作ってはデリバリーをする。あまりに遠いところは作ってからすぐ持って行ってもらったけれど、中距離なら作ってすぐ持っていくと、こちらでピザを作る人がいなくなりそうなので、デリバリーよりはピザ作りを優先させている。
ひたすらピザを作って、ある程度余裕ができたのでデリバリーをするためにバイクに乗り込んだ。私の向かう先の件数は2件だ。
バイク置き場に向かうと、私たちの設定のバイクが2台残っていた。既に茶子と蜜柑先輩はデリバリー中だ。上から持ってきたバイクは、蜜柑先輩が乗っている。背が高すぎて、貸してもらったバイクだと狭いのだ。
貸してもらったバイクは、全体的にひし形で、色は明るい黄色に濃い茶色の線が入っている。工事用車両っぽい無骨な見た目と色をしている。塗装の塗り方なのか、アルファベットのZが描かれているように見えた。バイクの後ろには、追加で牽引車両が付いていて、ピザを大量に運べるようになっている。何往復かしてピザを積み込み、出発準備完了。
バイクに乗ってエンジンをかけ、浮遊する。念のためランヤードをバイクとつなげ、落下防止対策をする。
飛行ボタンを押して、ノロノロと列車の出口まで進む。
「飛ぶってわかっても……怖っ」
列車の出口から下は500メートル離れたところに海が見える。意を決して前に進むと、何の衝撃もなく空中にバイクが浮かぶ。
「おお……すごいけど、やっぱり怖いなぁ」
ゆっくりふわふわ飛んだあと、ナビを確認して、行先の方向へバイクを向けて発進。天井、というか都市の裏側だけど、ここで働く作業員が仕事をする場所の部屋に窓があるので、家が逆さまに張り付いているように見えて、地上を逆さ向きで飛んでいるように錯覚する。
地上と違って、明確な住所がないからナビを手に入れておいて正解だった。微妙な方向のずれを修正しながらも、真っすぐ進むことができて、目的地へ到着。
バイクを上方向に移動し、接近してからバイクについている電話をかける。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました! どこに降りればいいですか?」
『おお、ちょっと待っててください。ハッチを開けます』
電話を切ると同時に、近くの出っ張りの壁が上にスライドして入口が現れた。中で緑の作業着を来た人が赤いライトを持って誘導しているから、それにしたがって中に入る。
中に入ったところで降りようしたけど、
「ハッチが閉じるまでバイクに座っててください」
との事で、閉じるのを待つ。
グオングオンと背後のハッチが閉じていく間に、空気の流れが感じられたので、閉じないと危ないのだろう。
「お待たせしました、もう降りても大丈夫です」
作業着を着た女性が現れて、そう告げたのでバイクのエンジンを切って降り、証明書を見せる。作業員は他にも何人かいて、いつの間にかバイクの後ろには4人の人が集まって整列していた。
私も後ろに回り、リアボックスを開けてピザ箱を取り出す。
「運びます! 任せてください!」
とのことで、ピザ18箱を分けて渡す。全員嬉々として受け取り、運んで行った。
4人の中で1番年配の男性がピザを片手に持ってこちらに来るので、バイクに備え付けてある携帯の決済端末を取り出す。
「こちらに所属カードをお願いします」
今回、支払いは会社側から出ている。そのかわり、ひとり3枚までと制限があり、追加での個人注文はなし。そうでなければ際限なく注文されて、他の区域になかなか進まないからだ。
そのため、デリバリーされたら金銭ではなく所属カードで受け取りの証明をする。この男性が6枚分の所属カードを持ってきたようで、それぞれ登録していく。
「ありがとう、お嬢さん。久しぶりの焼いた美味いピザで生き返ったよ」
「こちらこそ、ご注文ありがとうございます」
礼した後で、思わず周りを見回す。不思議な空間。
「ここは上下水道の工事を担っているところだよ」
「聞いちゃっていいんですか?」
「調べればわかることだからね」
パクリとピザを一口食べる。すごくおいしそうに食べるなぁ。
「今は36番通り工事のために6人体制だが、基本は3人で上下水道の点検をしている。水の流れは生命線だからね。手を抜いたら36番通りが水不足になるから、上に戻ることなくずっとここで作業に集中していてピザ不足だったんだ。ほんとに助かった」
この都市は緩やかなすり鉢状で、雨水を受け止めて水道にしている。水不足になる前に雨雲の真下へ移動して雨水をため込むので、水不足はない。しかしそれも、ここのように水の管理してくれる人がいるから成り立っているからだ。
「それじゃあ、ハッチを開けるからバイクの準備をよろしく」
そう言い残して男性は中に入り、入れ替わりで若い男性がピザとさっきの赤く光る棒をもってやってきて、胴体に壁から伸びる金属フックを体に括り付けた。
私もバイクに乗り込み、出発準備をして、指で丸を作って合図を送ると、ハッチが開く。赤く光る棒が正面で横向きなので、待機をしていたが、ハッチが開ききってから数秒後に移動して良さそうな振り方をしたので、前に進み発進する。
ハッチを出て、バイクの向きを変えると、手を振ってくれているのが見えたので手を振り返した。
次のデリバリー先をナビでチェックして、進行方向を確認してから走り出す。
位置関係はこちらから近いので、時間も掛からずにたどり着く。入口は……わからないな。やっぱり電話をするのが一番か。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました! 近くに来たのですが、どこに向かえばいいでしょうか?」
『ちょっとまっててください、確認します……そこから動かないでください』
待機していると、少し離れた場所にある天井から伸びているアームが、巨大な鉄板を持ったまま横に向きを変え、鉄板を地面のように水平にして停止した。その場所の上から、梯子が下りてきて、緑の作業服を来た人が下りてきた。
『作業服の職員が見えますか? そのプレートの上に移動してください。バイクはエンジンを切らずに浮いたままでお願いします』
バイクをゆっくり動かして、プレートの上に移動する。前回みたいに風は強くないけれど、安心感もない。
作業服の人に誘導されて、指示された場所でストップする。
「ありがとうございます。すごいプレートですね」
証明書を見せつつ、周りを見渡す。平らで光り輝く1枚の巨大な板は見てて圧倒される。
「そうですね、普通は見ることがないですからね。あ、ピザは私が移動させますのでそのままでお願いします」
若そうな男性の職員だった。首から掛けている人数分の所属カードを取り出したので、決済端末に入力する。
「このプレートは各通りをつなげるロック板です。通りと通りの境目に、これをアームごと差し込んで固定するものですね。重量がかかるパーツなので、定期的に交換が出来るようになってるんです。最近は交換依頼が多くて大忙しですね」
男性はそう話しつつも、ピザの荷台からピザを取り出して、梯子に付属するエレベーターに置いていく。プレートへ降りずに、梯子の上から絶妙なバランス感覚で箱を次々取り出していく。
上を見ると、天井にはU字型のアームが板を挟んでいて、T字型のアームがそれらを抑えていた。
「あのT字型のアーム、見たことがある」
ビルを固定していたアームだ。
「あれが下からずれないようにするアームですね。U型アームは運搬用で、T型アームが固定用です」
人数分のピザ15箱をエレベーターに詰め込み終わり、ピザだけが階段を滑るように登っていった。
「T型アームで全体を支えているんですか?」
「いえ、このプレートの自重でロックはかかるんですけど、振動など不測の事態が起きたときに外れないようにT型アームでロックしているんです。U型はパワーはあるのですがT型ほど固定することに特化していないので」
ピザを移動させて空になったエレベーターが下りてくる。
「それでは、ありがとうございました。おかげでこの場所でもピザが楽しめます」
「はい、こちらこそありがとうございました」
バイクを移動させて、プレートの上から離れる。男性は、梯子ごとエレベーターで上昇し、天井の入口に消えていった。消えた瞬間、
「ヒャッハァ! ピッツァだぁ!!!」
と叫び声が聞こえてきたので、私との会話はずいぶん気持ちを押さえていたんだろう。
バイクを列車に向けて、次のデリバリーのために急いで戻ることにした。心待ちにしているのがわかると、やる気が出てくるよ!
ベッドのイメージはのカプセルホテルです。男性作業員も使う想定なので、サイズはあると思いますが、それでも蜜柑には狭いでしょうね。




